握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

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第一章 過去から来た者たち

2.七選帝侯と皇帝

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 母の謎の死から三年が経った。
 私は学園を卒業したので、社交界デビューをする。

 兄弟はいないので、婿養子を取ることになるか、私が領主となるか。
 いずれにせよ、この地に縛られることになる。

 父が再婚でもすれば、また、違ってくるのだろうが、今のところは、その様な話は無い。
 しかし、本人の意思など関係なく、人生が決められてしまうのが貴族社会なのだ。
 突然、何が起こるかはわからない。
 そこで、私が恐れていることは、帝国から父へ再婚を勧められることだ。
 あるいは、私の婿も同じということ。

 帝国の関係者は嫌だ!

 まず、生理的に嫌だ! 
 長顎一族だからね。

 続いて、政治的にも嫌だ!

 父の血筋はブランデンブルク選帝侯、母の血筋はプファルツ選帝侯の流れをくむので、“反帝国”という立場になる。

 ここライン川の畔は、母のプファルツ選帝侯の領地をお借りしているようなもので、また、お祖父さまも母を手放したくなかったのか、次男の父なら跡継ぎ問題も大丈夫ということなのだろう、「伯爵としてやるから、ここに住め」と言ったようだ。

 母がいなくなったこの地は、元々、お祖父さまの領地。
 そこに帝国の人間が入り込んでくると、大問題だ。

 ザクセン選帝侯の領地も危ういと聞く……

 また、七選帝侯のうち世俗諸侯は帝国とは上手くいっていない。

 そんな中、私は社交界デビューするのか……

 さて、七選帝侯とは、何か?
 と思われるかもしれないので、説明しておくと、この帝国の皇帝が途絶えたことがあった。
 なんと皇帝がいない時代が長く続き、トップ不在の帝国は衰退した。この時代を“大空位時代”と呼んでいる。

 そんな反省を生かし、皇帝が途絶えた際は、すぐに選挙を開くことにより次期皇帝を決める制度が、この選帝侯の制度になる。

 その選挙権を持つ者が“選帝侯”あるいは、“選挙候”と呼ばれる人たちだ。無論、それは帝国内では、かなりの権力を持つ。

 その選帝侯は、大きく二つに分かれており、聖職候と世俗候の二つ。つまり、宗教側からと貴族側ということなのだ。

 そして、世俗候は、ブランデンブルク選帝侯、プファルツ選帝侯、ザクセン選帝侯の三選帝侯だったのが、のちにベーメン王が加わり六から七に選帝侯が増えた。
 
 さて、母はプファルツ選帝侯の血筋なのは、既に申したけれど、プファルツ選帝侯は別名:ライン宮中伯とも言い、宮中伯とは、今で言えば大臣で、その家系となる。
 つまり、宮中伯とは、文官貴族のトップ中のトップなのだ。
 そして、父が宮中で仕事をしていた時の上司が、お祖父さまにあたる訳なんだよ。

 まあ、後のことは、皆さんの想像に任せることにするわ。
 ふふふ。

 で、何が問題なのかというと、世俗候は、皆、今の皇帝一族に対し、反帝国、反皇帝派であるということ。

 となると、今の皇帝一族が途絶え、次の皇帝を選ぶ際、皇帝が進める人物が次期皇帝になる可能性は低いかもしれない。
 七票のうち四票は反皇帝派なのだから。
 いや、三票の間違いですわ……

 そして、皇帝一族は、一貫して他の貴族から嫁を取らない。
 これによって、自分達の財産は、他貴族に流れない城壁を作り、その中で楽しんでいる。
 一族が途絶えるまで、皇帝職を楽しむつもりなのだ。
 結果、益々、他貴族から嫌われているのが、今の帝国の現状だ。

 そして、他の選帝侯たちは、こう考えていたのだ。
『選帝侯たちの血筋を絶やすことが出来れば、皇帝一族は、間違いなく嬉しいだろう』と。

 とすると、ブランデンブルク選帝侯の息子を夫に持ち、プファルツ選帝侯の血を受けづく母の死は、本当に落馬によって、頭を打ったのだろうか?
 プファルツ選帝侯への威嚇?

 もし、他殺であれば、次に狙われるのは、その娘である私は大丈夫なのか?
 そんな中、私は、本当に社交界デビューしても、問題ないのか?
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