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第一章 過去から来た者たち
2.七選帝侯と皇帝
しおりを挟む母の謎の死から三年が経った。
私は学園を卒業したので、社交界デビューをする。
兄弟はいないので、婿養子を取ることになるか、私が領主となるか。
いずれにせよ、この地に縛られることになる。
父が再婚でもすれば、また、違ってくるのだろうが、今のところは、その様な話は無い。
しかし、本人の意思など関係なく、人生が決められてしまうのが貴族社会なのだ。
突然、何が起こるかはわからない。
そこで、私が恐れていることは、帝国から父へ再婚を勧められることだ。
あるいは、私の婿も同じということ。
帝国の関係者は嫌だ!
まず、生理的に嫌だ!
長顎一族だからね。
続いて、政治的にも嫌だ!
父の血筋はブランデンブルク選帝侯、母の血筋はプファルツ選帝侯の流れをくむので、“反帝国”という立場になる。
ここライン川の畔は、母のプファルツ選帝侯の領地をお借りしているようなもので、また、お祖父さまも母を手放したくなかったのか、次男の父なら跡継ぎ問題も大丈夫ということなのだろう、「伯爵としてやるから、ここに住め」と言ったようだ。
母がいなくなったこの地は、元々、お祖父さまの領地。
そこに帝国の人間が入り込んでくると、大問題だ。
ザクセン選帝侯の領地も危ういと聞く……
また、七選帝侯のうち世俗諸侯は帝国とは上手くいっていない。
そんな中、私は社交界デビューするのか……
さて、七選帝侯とは、何か?
と思われるかもしれないので、説明しておくと、この帝国の皇帝が途絶えたことがあった。
なんと皇帝がいない時代が長く続き、トップ不在の帝国は衰退した。この時代を“大空位時代”と呼んでいる。
そんな反省を生かし、皇帝が途絶えた際は、すぐに選挙を開くことにより次期皇帝を決める制度が、この選帝侯の制度になる。
その選挙権を持つ者が“選帝侯”あるいは、“選挙候”と呼ばれる人たちだ。無論、それは帝国内では、かなりの権力を持つ。
その選帝侯は、大きく二つに分かれており、聖職候と世俗候の二つ。つまり、宗教側からと貴族側ということなのだ。
そして、世俗候は、ブランデンブルク選帝侯、プファルツ選帝侯、ザクセン選帝侯の三選帝侯だったのが、のちにベーメン王が加わり六から七に選帝侯が増えた。
さて、母はプファルツ選帝侯の血筋なのは、既に申したけれど、プファルツ選帝侯は別名:ライン宮中伯とも言い、宮中伯とは、今で言えば大臣で、その家系となる。
つまり、宮中伯とは、文官貴族のトップ中のトップなのだ。
そして、父が宮中で仕事をしていた時の上司が、お祖父さまにあたる訳なんだよ。
まあ、後のことは、皆さんの想像に任せることにするわ。
ふふふ。
で、何が問題なのかというと、世俗候は、皆、今の皇帝一族に対し、反帝国、反皇帝派であるということ。
となると、今の皇帝一族が途絶え、次の皇帝を選ぶ際、皇帝が進める人物が次期皇帝になる可能性は低いかもしれない。
七票のうち四票は反皇帝派なのだから。
いや、三票の間違いですわ……
そして、皇帝一族は、一貫して他の貴族から嫁を取らない。
これによって、自分達の財産は、他貴族に流れない城壁を作り、その中で楽しんでいる。
一族が途絶えるまで、皇帝職を楽しむつもりなのだ。
結果、益々、他貴族から嫌われているのが、今の帝国の現状だ。
そして、他の選帝侯たちは、こう考えていたのだ。
『選帝侯たちの血筋を絶やすことが出来れば、皇帝一族は、間違いなく嬉しいだろう』と。
とすると、ブランデンブルク選帝侯の息子を夫に持ち、プファルツ選帝侯の血を受けづく母の死は、本当に落馬によって、頭を打ったのだろうか?
プファルツ選帝侯への威嚇?
もし、他殺であれば、次に狙われるのは、その娘である私は大丈夫なのか?
そんな中、私は、本当に社交界デビューしても、問題ないのか?
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