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第一章 過去から来た者たち
4.ダンス
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しばしの沈黙を破ったのは、ダンスが始まったからだ。
「ヴィルヘルミーナ様、ご用意をお願いします」と、お祖父さまの執事らしき男性から声を掛けられた。
「おぉ、ヴィル。行ってきなさい。うちのアダルブレヒトたちと踊ってやってくれ」
『うちのアダルブレヒトたち』とは、母方の従兄弟たちで、私の初めての相手は、顔見知りが良いとお祖父さまが思ったのだろう。
「アダルブレヒトお従兄様が!」と、笑顔で答えたが、何から何まで過保護な祖父に苦笑せずにはいられなかった。
そして、執事に呼ばれ、付いて行くと、アダルブレヒト従兄がいた。
「やあ、ヴィル。社交界デビュー、おめでとう」
「ありがとうございます。お従兄様」
そして、執事から出番について、簡単な説明があり、自分達の出番を待つことにした。
さすがに、この時間は緊張した……
これが知らない男性となら、緊張が度を越して、気分を悪くするなど、体調を壊したかもしれない。
そう思うと、過保護な祖父には感謝するしかないですね。
そして、出番となった私は従兄と手を繋いで、会場の中へ向かった。
やはり、緊張していたのだろう。この時、従兄が異変に気付いたことを理解できていなかった。
それでも、やさしいお従兄様とは、無事にダンスを終えることが出来て、一安心した。
「ヴィル、今日は身内とだけ、踊った方が良いよ」と、お従兄様は言い残し、パートナーチェンジとなった。
はて、何を言っているのだろうか?
とりあえずは、言いつけを護ることにした。
そして、時間も進み、皆の体力も減り、最後の一曲となったころ、私には、災いが起こった。
毎日、剣を振ってきただけあって、ものすごい体力が私にはあったのだ。
休憩なしに踊っても大丈夫なぐらいに!
そして、「ライン宮中伯の孫を欲しい」という野心を持つ者が、この舞踏会に参加しているなど、デビュタントの私が気づくこともなく、自身の体力を誇りに思っていた。
「ヴィルヘルミーナ嬢、私と一曲、お願いできませんか」と、ある貴公子が声をかけてきた。
「あ、はい」と、答えた私は舞い上がってしまった。
従兄弟たち身内と違う、貴公子に声をかけられたのだから、仕方がないというもの。
この貴公子が父母と参加しているとか、その父母がライン宮中伯の孫を嫁にだとか、社交界とは、そんな陰謀が渦巻くところとは思っていなかったのだから。
ましてや、先まで身内ばかりと、話し、踊っていたのだから。
そして、その貴公子が異変に気付いた。
(この娘、手がデカい。背も高い。肩もすごい筋肉だ。本当に令嬢なのか?)と。
ダンスが始まると、貴公子は私の体格の良さ、力強さに負けまいと力み、踏ん張ったため、ちぐはぐなダンスとなった。
私には、相手をフォローするだけの技量はない……
さすがに、これは自分の未熟さを思い知った。
「申し訳ございません。上手く踊れずに足を引っ張ってしまいましたわ」
「い、い、いえ。ヴィルヘルミーナ様は……」
「???」
「いえ、ありがとうございました」と言って貴公子は去って行った。
「ふぅ、あんな分厚い手をした令嬢など初めてだ。手が潰されるかと思ったよ。それに全体的にも分厚いよな」と、貴公子がつぶやいたことなど、私が知る由もなかったし、従兄弟が私の手を握って、それを忠告していたなど、気が付くこともなかった。
「来月は帝国の社交界があるわ。ダンスの技量を上げておかないとね」
帝国の帝都のひとつであるウイーンへ行き、本格的に社交界デビューとなるが、敵と味方が入り混じる中、平然を装い、貴婦人たちの中に入ることになる。※1
今、この帝国で何が起こっているのか?
それは宗教戦争の真っただ中なのだ。
※1.「帝国の帝都のひとつである」とは、この帝国に明確な首都は無い。
アーヘン、プラハ、ウイーンが帝都と言える都市。
「ヴィルヘルミーナ様、ご用意をお願いします」と、お祖父さまの執事らしき男性から声を掛けられた。
「おぉ、ヴィル。行ってきなさい。うちのアダルブレヒトたちと踊ってやってくれ」
『うちのアダルブレヒトたち』とは、母方の従兄弟たちで、私の初めての相手は、顔見知りが良いとお祖父さまが思ったのだろう。
「アダルブレヒトお従兄様が!」と、笑顔で答えたが、何から何まで過保護な祖父に苦笑せずにはいられなかった。
そして、執事に呼ばれ、付いて行くと、アダルブレヒト従兄がいた。
「やあ、ヴィル。社交界デビュー、おめでとう」
「ありがとうございます。お従兄様」
そして、執事から出番について、簡単な説明があり、自分達の出番を待つことにした。
さすがに、この時間は緊張した……
これが知らない男性となら、緊張が度を越して、気分を悪くするなど、体調を壊したかもしれない。
そう思うと、過保護な祖父には感謝するしかないですね。
そして、出番となった私は従兄と手を繋いで、会場の中へ向かった。
やはり、緊張していたのだろう。この時、従兄が異変に気付いたことを理解できていなかった。
それでも、やさしいお従兄様とは、無事にダンスを終えることが出来て、一安心した。
「ヴィル、今日は身内とだけ、踊った方が良いよ」と、お従兄様は言い残し、パートナーチェンジとなった。
はて、何を言っているのだろうか?
とりあえずは、言いつけを護ることにした。
そして、時間も進み、皆の体力も減り、最後の一曲となったころ、私には、災いが起こった。
毎日、剣を振ってきただけあって、ものすごい体力が私にはあったのだ。
休憩なしに踊っても大丈夫なぐらいに!
そして、「ライン宮中伯の孫を欲しい」という野心を持つ者が、この舞踏会に参加しているなど、デビュタントの私が気づくこともなく、自身の体力を誇りに思っていた。
「ヴィルヘルミーナ嬢、私と一曲、お願いできませんか」と、ある貴公子が声をかけてきた。
「あ、はい」と、答えた私は舞い上がってしまった。
従兄弟たち身内と違う、貴公子に声をかけられたのだから、仕方がないというもの。
この貴公子が父母と参加しているとか、その父母がライン宮中伯の孫を嫁にだとか、社交界とは、そんな陰謀が渦巻くところとは思っていなかったのだから。
ましてや、先まで身内ばかりと、話し、踊っていたのだから。
そして、その貴公子が異変に気付いた。
(この娘、手がデカい。背も高い。肩もすごい筋肉だ。本当に令嬢なのか?)と。
ダンスが始まると、貴公子は私の体格の良さ、力強さに負けまいと力み、踏ん張ったため、ちぐはぐなダンスとなった。
私には、相手をフォローするだけの技量はない……
さすがに、これは自分の未熟さを思い知った。
「申し訳ございません。上手く踊れずに足を引っ張ってしまいましたわ」
「い、い、いえ。ヴィルヘルミーナ様は……」
「???」
「いえ、ありがとうございました」と言って貴公子は去って行った。
「ふぅ、あんな分厚い手をした令嬢など初めてだ。手が潰されるかと思ったよ。それに全体的にも分厚いよな」と、貴公子がつぶやいたことなど、私が知る由もなかったし、従兄弟が私の手を握って、それを忠告していたなど、気が付くこともなかった。
「来月は帝国の社交界があるわ。ダンスの技量を上げておかないとね」
帝国の帝都のひとつであるウイーンへ行き、本格的に社交界デビューとなるが、敵と味方が入り混じる中、平然を装い、貴婦人たちの中に入ることになる。※1
今、この帝国で何が起こっているのか?
それは宗教戦争の真っただ中なのだ。
※1.「帝国の帝都のひとつである」とは、この帝国に明確な首都は無い。
アーヘン、プラハ、ウイーンが帝都と言える都市。
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