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第一章 過去から来た者たち
6.握力令嬢出現
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しばらくして、ウィーンの街では変な噂が立っていた。
握力令嬢と呼ばれる怪物が出現し、何でも握りつぶすという都市伝説だった。
とある貴公子が手を握り潰されたとか。建物の鉄骨も片手で鷲掴みとか!
「鋼〇七瀬じゃあるまい」と、私は気にもしていなかった。
だって、自分の命を狙っている奴がいるかもしれないというのに、都市伝説などに気を払う気もなかった。
さて、誰が、私を狙う動機があるのだろうか?
「やはり、皇帝派の貴族?」と、私は使用人のアンゲーリカこと、アンに聞いてみた。
「お嬢様、私には……」と、俯いてしまった。
かわいそうなことをしてしまったかもしれない。それは、アンは母とも長い付き合いだ。三年前のことを思い出したに違いない。
母が死んだあの日を。
「ごめんなさい、アン。余計なことを言ってしまったわ」
「いえ、お嬢様は、私の命に代えてもお守りいたします。それが出来ないようでは、奥様に顔向けできません」
それを聞いて、私の心臓は、ドキッとした。アンにそれほどまでの覚悟があったのかと。
「早く犯人が捕まって欲しいわ」と、私の言う犯人とは、母を殺したかもしれない犯人なのか、血の落書きをした犯人だろうか?
そして、ボソッとアンが私の耳元で言ったのだ。
「もし、皇帝派の貴族が犯人だとすると……バイエルン夫人も皇帝派の人間かもしれません」
――なんですって!
バイエルン夫人は、私をかばってくれている協力者ではないのか?
母の友人ではないのか?
「お嬢様はご存じないと思いますが、バイエルン夫人は、元々、ハプスブルク家のご出身で、バイエルン公の元へ嫁いだのです」
「そんな……しかし、お祖父さまと信頼関係があるように……」
「はい、そこなのです。その理由が分からないのです」
アンは「分からない」と言ったが、私にもわからない。
話は変わり、今一度、七選帝侯について、まとめておくと、世俗候と聖職候がいる。元々は三人ずつだったが、ベーメン王が世俗候に加わり、七選帝侯となった。
聖職候は、実は皇帝が指名しているので、聖職候の三人は皇帝派なのだ。
そして、当然、旧教徒だ。
皇帝も旧教徒でなくてはならない。
一方、世俗候のうち、ブランデンブルク選帝侯、ザクセン選帝侯、プファルツ選帝侯の三選帝侯は新教徒ということで、反皇帝派閥だ。
新しく加わったベーメン王は、旧教徒なのだが、その正体は帝国皇帝なのだ。
そして、今、この帝国内では宗教戦争が各地で勃発している。
アンは言った。
「バイエルン公は、プファルツ選帝侯さまに代わり、選帝侯になろうとしていると噂を聞きました」
「何ですって……そんな危険人物とお祖父さまが、何故、親しくされておられるのです?」
「そこが分からないのです。マリアンナ様を殺害して、お祖父さまに精神的に負担を掛け、選帝侯の役目を果たせないようにしたかったと……さらに、お嬢様に手を出して……」と、アンが話していると、廊下で誰かの話し声が私の部屋まで聞こえてきたので、この話はここまでにすることにした。
私は、この不安を父に話すことにした。
「マリアンヌの死を他殺と思っているということなのかい。ヴィル?」
「かもしれないと。そして、その犯人は私も始末しようとしているのではないかと」
父は、あの血の落書きを見たはずだ。
思い切って、私は父に聞いてみた。
「皇帝派が私を狙っているのではないかと思うのです」と、言うと意外にも、「それはない」と父は即答で返した。
私は、それに驚いてしまった。昼間、アンとあれだけ議論したのに、即答で否定されたのだから。
「むしろ、皇帝派の敵ではないだろうか」
「えっ?」
「おそらく、マリアンヌやお前を狙っている者は、過去から来た者だと思う」
過去から?
それは、どういうことなの?
握力令嬢と呼ばれる怪物が出現し、何でも握りつぶすという都市伝説だった。
とある貴公子が手を握り潰されたとか。建物の鉄骨も片手で鷲掴みとか!
「鋼〇七瀬じゃあるまい」と、私は気にもしていなかった。
だって、自分の命を狙っている奴がいるかもしれないというのに、都市伝説などに気を払う気もなかった。
さて、誰が、私を狙う動機があるのだろうか?
「やはり、皇帝派の貴族?」と、私は使用人のアンゲーリカこと、アンに聞いてみた。
「お嬢様、私には……」と、俯いてしまった。
かわいそうなことをしてしまったかもしれない。それは、アンは母とも長い付き合いだ。三年前のことを思い出したに違いない。
母が死んだあの日を。
「ごめんなさい、アン。余計なことを言ってしまったわ」
「いえ、お嬢様は、私の命に代えてもお守りいたします。それが出来ないようでは、奥様に顔向けできません」
それを聞いて、私の心臓は、ドキッとした。アンにそれほどまでの覚悟があったのかと。
「早く犯人が捕まって欲しいわ」と、私の言う犯人とは、母を殺したかもしれない犯人なのか、血の落書きをした犯人だろうか?
そして、ボソッとアンが私の耳元で言ったのだ。
「もし、皇帝派の貴族が犯人だとすると……バイエルン夫人も皇帝派の人間かもしれません」
――なんですって!
バイエルン夫人は、私をかばってくれている協力者ではないのか?
母の友人ではないのか?
「お嬢様はご存じないと思いますが、バイエルン夫人は、元々、ハプスブルク家のご出身で、バイエルン公の元へ嫁いだのです」
「そんな……しかし、お祖父さまと信頼関係があるように……」
「はい、そこなのです。その理由が分からないのです」
アンは「分からない」と言ったが、私にもわからない。
話は変わり、今一度、七選帝侯について、まとめておくと、世俗候と聖職候がいる。元々は三人ずつだったが、ベーメン王が世俗候に加わり、七選帝侯となった。
聖職候は、実は皇帝が指名しているので、聖職候の三人は皇帝派なのだ。
そして、当然、旧教徒だ。
皇帝も旧教徒でなくてはならない。
一方、世俗候のうち、ブランデンブルク選帝侯、ザクセン選帝侯、プファルツ選帝侯の三選帝侯は新教徒ということで、反皇帝派閥だ。
新しく加わったベーメン王は、旧教徒なのだが、その正体は帝国皇帝なのだ。
そして、今、この帝国内では宗教戦争が各地で勃発している。
アンは言った。
「バイエルン公は、プファルツ選帝侯さまに代わり、選帝侯になろうとしていると噂を聞きました」
「何ですって……そんな危険人物とお祖父さまが、何故、親しくされておられるのです?」
「そこが分からないのです。マリアンナ様を殺害して、お祖父さまに精神的に負担を掛け、選帝侯の役目を果たせないようにしたかったと……さらに、お嬢様に手を出して……」と、アンが話していると、廊下で誰かの話し声が私の部屋まで聞こえてきたので、この話はここまでにすることにした。
私は、この不安を父に話すことにした。
「マリアンヌの死を他殺と思っているということなのかい。ヴィル?」
「かもしれないと。そして、その犯人は私も始末しようとしているのではないかと」
父は、あの血の落書きを見たはずだ。
思い切って、私は父に聞いてみた。
「皇帝派が私を狙っているのではないかと思うのです」と、言うと意外にも、「それはない」と父は即答で返した。
私は、それに驚いてしまった。昼間、アンとあれだけ議論したのに、即答で否定されたのだから。
「むしろ、皇帝派の敵ではないだろうか」
「えっ?」
「おそらく、マリアンヌやお前を狙っている者は、過去から来た者だと思う」
過去から?
それは、どういうことなの?
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