握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

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第一章 過去から来た者たち

7.過去から来た者

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 父は、「過去から来た者」が、私を狙っているかもしれないと言った。

 なので、私は、「皇帝派の貴族は大丈夫なのでしょうか?」と、父に聞いてみた。

「ああ、今のところは、皇帝と各選帝侯や貴族たちとは上手くいっているよ。バイエルン夫人がハプスブルク家からバイエルン公爵家に嫁ぐぐらいだからね」
「そう、お父様、バイエルン夫人とは、どういうお方なのでしょう? お母様と同級生と言っておられましたが」

 そう、アンネ・バイエルンは、皇帝の妹にあたる人だ。
 母とは学園時代の同級生だそうだ。

 そのバイエルン夫人が嫁ぐと、何故、上手くいっているのかというと、どうやら現皇帝と前皇帝は、新教徒のルターに興味があるらしい。
 しかし、立場上、ローマカトリックから離れるわけにはいかない。
 ここが皇帝のジレンマなのだろう。

 分家のスペインハプスブルク家から、猛烈な横やりが入った。
 スペインでは、カトリック絶対主義なのだ。

 カトリックでなければ死刑も簡単に行える。
 非カトリックということは罪なのだ。そのカトリックの保護者であるのが、スペイン王:フェリペ2世ということになる。
 なので、フェリペ2世は、帝国の世継ぎをスペインに呼び寄せて、徹底的にカトリック教育を叩き込んでいる。
 その影響なのか、皇帝は人柄はさておき、スペイン風の横暴な態度を自然と取るので知られている。

 だが、徹底的に叩き込まれると人は、浮気をしたくなるものなのだろう。
 前皇帝も現皇帝も、新教徒に甘い。
 そして、マリア・アンネが新教徒のバイエルン公に嫁いでいるのも、その辺りが理由のようだ。

 さらに、皇帝は領主には新教か旧教か選択の自由を与えたため、今、帝国のあちこちで争いが絶えない。

 ちなみに、領民個人には選択の自由は無い。
 領主が選んだ派閥となる。
 そして、今、旧教のカトリックと新教のルター派に加え、カルヴァン派が勢力を伸ばしてきている。
 カルヴァン派が勢力を伸ばしているのは、マルチン・ルターが国外追放されたからだろう。これが、今の帝国内の派閥と宗教事情だ。

 ということは、皇帝は新教徒よりの考えで、立場上、領主に信教の自由を与えるなど中立的な立場を取っているので、スペイン分家が苛立っているわけか。

 それと、母殺しと宗教派閥争いは関係なさそうだが……
 しかし、私は誰かに命を狙われている。
 これは、どういうことなのだろうか?

「私は、マリアンヌの死は、事故であって欲しいと思っている。だが、マリアンヌを殺した者がいたとして、もっとも可能性の高い者がいるなら」
「いるなら……」と、私は目を見開いて父を見た。

「お祖父さま、いや、プファルツ選帝侯一族を恨んでいる闇の一族がいる」
「お父様、そんな話は聞いたことがありませんわ」
「ああ、プファルツ選帝侯、つまりライン宮中伯が、ライン川の領地を奪われたことがある。そして奪い返した土地を私たち夫婦の領地として管理させたのだ。ブランデンブルク選帝侯の血縁者である私が統治すれば、闇の一族からの復讐を避けられると思ったのだろう。しかし」

「しかし……」
「私とマリアンヌが結婚したことにより、闇の一族はライン宮中伯の血統者が支配していると思ったのだろう。領主は私だが、実質的支配者はマリアンヌだと。事実、我が領地はライン宮中伯の領地に囲まれているわけだしな」

 父は、酒を飲み、一つ二つと頷いている。

「お父様、その『闇の一族』とは、正体は誰なのです」
「あぁ、ライン宮中伯に恨みを持つ者、それはブルゴーニュ公国の血を受け継ぐ者たちだ。彼らはブルゴーニュ公国の復活をするために活動しておる」

「ブ、ブルゴーニュ公国ですって」
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