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第一章 過去から来た者たち
17.アインス商会の情報網
しおりを挟む「はい、どなた様でしょう?」
「アン、開けちゃダメ!」と、私が言うも遅かった。
ドアは開かれてしまった。
「はい、私は、アインス商会のイリーゼ・アインホルンです」
「イリーゼさん。どうして、ここへ?」
「はい、エマ姉さんからの指示です。『屋敷の警備をしろ』と言われてきました」
「エマリーが!」
イリーゼの後ろには、武器外商部の従業員達、十数人が来ていた。
なんと有り難い。
今いる警備兵は、若手が数人でベテランがいない。
主力の騎士も父に付いて行ったのだ。
「是非、お願いするわ」と言うと、アンは驚いていた。
「何故ですの、お嬢様? うちには警備兵たちが、おりますのに」
「アン、実は犯人を始末した者は、犯人なんかよりも、遥かにやり手なのですわ。今の人数では、襲撃された際、無事かどうか怪しいと思っていたの」と、私は手にしていた剣を上げて、アンに見せた。
アンは、単に私が剣の稽古として、素振りをしていたと思っていたようで、大変驚いていた。
「そうでしたか、お嬢様」
「はい、ここは我がアインス商会が人手を出しますので、お嬢様! ご指示下さいませ」
「わかったわ。イリーゼさん」
「お嬢様、私もエマ姉さんのように、呼び捨てにして下さい。お願いです」と、イリーゼは胸の前で手を合わせていた。
なんと、可憐な……
思わず……
「イ、イリーゼ。で、良いか? 正面と裏手の玄関に剣士を。最上階には長弓の弓手で狙撃の出来る者を。単弓の弓手は一階に配備」
「マスケット銃も用意できますが?」
「イリーゼ、マッチロック式マスケット銃では格闘戦に向かない。追撃戦にのみ使おう。それに火縄の火が見えてしまう」と、言うとアンが驚いていた。
「お嬢様は、一体、何を仰っているのでしょう。私には、さっぱり」と、青ざめていた。
まあ、私も士官でもないのに戦闘指示なんて、初めてだわ。
***
一方、エマリーはと言うと、父のゲルハルトと共にドイツ騎士団の病院に向かっていた。
「ご領主様も狙われるに違いない。エマリー!」
「はい、警備員と武器外商部の従業員は、いつでも出撃出来ます」
「急ごう。ライン川の平和のためにも」
そして、エマリー達、アインス商会の従業員は、襲われている馬車に出くわした。
「あの家紋は領主様では!」
「こんな街中で、どうどうと馬車を襲うとは、こいつら何者だ」と、フォルカーが愚痴っている。
そして、応戦しても、なかなか相手は引かない。
「何故だ?」
「ご領主様ッ。あれは悪手だ。守るべきご領主様が剣を持って応戦している」
「お父様、だから、護衛の警備兵が右往左往していると?」
「そうだ、エマリー。ご領主様は、剣は持っていても動かず。護衛隊長の騎士に指揮をさせるべきなのだろうが、ご領主様のプライドが許さないのだろう。『自分も戦うべきだ』と」
そう、フォルカーは、一族がドイツ騎士団の総長を務めてきたが、次男であったため、文官として、当時、王宮のあったプラハやウィーンに勤務したのだ。
騎士の中の文官と言う立場なのだ。
だから、勇ましい武勇伝が欲しいのだろう。つい、イタリア戦争などに出兵してしまうぐらいに。
「ハルバードに剣は不利だわ」と、エマリーが言った。
この辺りの戦闘センスもイマイチの様だった。
「街中にハルバードを持ち込めるなど、相当な組織力だ。エマリー!」
「はい!」と、エマリーは答えると、アインス商会の警備員たちに指示をして、駆けて行った。
「ご領主様、助太刀いたします。スイス傭兵隊です」と言うと、パイク兵が出てきた。
さすがのハルバード部隊も、パイク兵には成すすべなく、後退を余儀なくされた。
それは、一瞬の出来事だった。
いままで、フォルカー達が手こずっていた襲撃者を、若い娘が率いる傭兵が、たちまち退けたことに、フォルカー達、警備兵が驚いたのは当然だった。
「ご領主様、ご無事でしょうか?」
「これは、アインホルン会長。何故、ここに?」
「ワタクシたちの情報網によると、ご領主様が襲われると、それを知り、急いできました」
「そうだったのか……」
「ご領主様、早くお戻りください。ヴィルヘルミーナ様も狙われています」
「なんだって。居残ったのは、経験の少ない若い警備兵のみだ」
「はい、なので、当商会から、十数人ほど警備にあたらせております」
「済まない。すぐに屋敷に戻る」と、言うとフォルカー一行は、全速力でヴィルヘルミーナのいる屋敷に戻ることにした。
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