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第二章 握力令嬢、修道女になる
2-14..魔女に与える鉄槌 その1
しおりを挟むアレクサンドラは、焦っていた。
「この修道院の修道女の中に、ヴィルヘルミーナがいるというのに、見当たらない」
そして、修道院は外界と隔離された世界。
基本的には、中に入ることが出来ない。
修道士や修道女と接触するには、修道院から出てくるのを待たなくてはいけなかった。
だが、意外なことに、ヴィルヘルミーナは、毎日のように外出していたのだけども。
実は、騎士団の騎士となり、駐在所を回ったりと街の警備をしていたのだ。
無論、巡回警備などで、フルプレートで顔を隠すことなどは無いのだけど、高い馬上をわざわざ見上げるものもなく、また、チェインメールで、そこそこ、顔も隠れてる。
上半身もチェインメールの上に騎士団のマークの入った上着を着ているが、胸当てなどをしていると女と分からない。
そんな服装で、“パカパカパカ”と馬を走らせているが、元々、身体が大きいので、誰も私を見て振り返る者もいなかった。
「今日も騎士団の騎士が巡回をしているのだな」と言ったもんだ。
私の日課は、午前中は、馬を洗って、剣や戦斧の整備に稽古。
対人稽古は、本当に勉強になる。
今までのように力押しでは、勝てないこともある。
なので、押し引きを覚えた。タイミングさえ合えば、どんな怪力相手でも簡単に制することが出来る時がある。
動かなかったものが動くのだな。
それと、お尻の軟膏の件なのだけれど、どうしてもアンが譲らない。
「ワタクシが、お嬢さまのお尻に塗って差上げます」と。
あまりにアンが言うので、ついに折れてしまった。
そして、アンにどうも、変な性癖があるように思う……
そこまで、軟膏は塗らなくても良い様に思うのだけれども……
本人に言うべきか?
それとも、これを受け入れるべきなのか?
私が、このバート・メルゲントハイムでこの様なことをしていると、周りでは、色々と厄介ごとが起きていた。
***
「アレクサンドラッ、このままここにいても埒が明かない。一旦、私はウィーンに戻り、ライン宮中伯を見張っている傭兵と合流する」
「申し訳ございません。お嬢様」
「いや、ヴィルヘルミーナもこの地を去っているかもしれない」
「お嬢様」
「ペティーは、ウィーンに到着したようだ。あの子役も役に立つだろうし」
***
また、ウィーンがきな臭くなりそうなのだけれど、私は、騎士として巡回をしていた時のことだった。
実は、この日の巡回路は、あのヤスミン工房の前を通るので、立ち寄ることにしていた。
「まあ、おさぼりだよ」
すると、途中、アンが歩いているのが見えた。買い物だろうか?
「アン!」
すると、アンは大勢の男や女たちに囲まれてしまった。
「魔女を見つけたぞ!」
「魔女に鉄槌を!」
「魔女に異端裁判を!」
アンは、「やめてください。何をするのですか」と言うも、連れ去られようとしている。
「やめないか!」と、私は馬を走らせたが、突如、荷馬車が割り込んできて、「あぁ、すみません。すぐにどかせます」と言っているが、遅い!
これでは、アンが……
「魔女に鉄槌を!」
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