握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

文字の大きさ
33 / 126
第二章 握力令嬢、修道女になる

2-14..魔女に与える鉄槌 その1

しおりを挟む

 アレクサンドラは、焦っていた。
「この修道院の修道女の中に、ヴィルヘルミーナがいるというのに、見当たらない」
 そして、修道院は外界と隔離された世界。
 基本的には、中に入ることが出来ない。

 修道士や修道女と接触するには、修道院から出てくるのを待たなくてはいけなかった。
 だが、意外なことに、ヴィルヘルミーナは、毎日のように外出していたのだけども。

 実は、騎士団の騎士となり、駐在所を回ったりと街の警備をしていたのだ。
 無論、巡回警備などで、フルプレートで顔を隠すことなどは無いのだけど、高い馬上をわざわざ見上げるものもなく、また、チェインメールで、そこそこ、顔も隠れてる。
 上半身もチェインメールの上に騎士団のマークの入った上着を着ているが、胸当てなどをしていると女と分からない。

 そんな服装で、“パカパカパカ”と馬を走らせているが、元々、身体が大きいので、誰も私を見て振り返る者もいなかった。
「今日も騎士団の騎士が巡回をしているのだな」と言ったもんだ。

 私の日課は、午前中は、馬を洗って、剣や戦斧の整備に稽古。
 対人稽古は、本当に勉強になる。
 今までのように力押しでは、勝てないこともある。
 なので、押し引きを覚えた。タイミングさえ合えば、どんな怪力相手でも簡単に制することが出来る時がある。
 動かなかったものが動くのだな。

 それと、お尻の軟膏の件なのだけれど、どうしてもアンが譲らない。
「ワタクシが、お嬢さまのお尻に塗って差上げます」と。
 あまりにアンが言うので、ついに折れてしまった。

 そして、アンにどうも、変な性癖があるように思う……
 そこまで、軟膏は塗らなくても良い様に思うのだけれども……
 本人に言うべきか?
 それとも、これを受け入れるべきなのか?

 私が、このバート・メルゲントハイムでこの様なことをしていると、周りでは、色々と厄介ごとが起きていた。

***

「アレクサンドラッ、このままここにいても埒が明かない。一旦、私はウィーンに戻り、ライン宮中伯を見張っている傭兵と合流する」
「申し訳ございません。お嬢様」
「いや、ヴィルヘルミーナもこの地を去っているかもしれない」
「お嬢様」
「ペティーは、ウィーンに到着したようだ。あの子役も役に立つだろうし」

***

 また、ウィーンがきな臭くなりそうなのだけれど、私は、騎士として巡回をしていた時のことだった。
 実は、この日の巡回路は、あのヤスミン工房の前を通るので、立ち寄ることにしていた。
「まあ、おさぼりだよ」

 すると、途中、アンが歩いているのが見えた。買い物だろうか?
「アン!」

 すると、アンは大勢の男や女たちに囲まれてしまった。
「魔女を見つけたぞ!」
「魔女に鉄槌を!」
「魔女に異端裁判を!」

 アンは、「やめてください。何をするのですか」と言うも、連れ去られようとしている。
「やめないか!」と、私は馬を走らせたが、突如、荷馬車が割り込んできて、「あぁ、すみません。すぐにどかせます」と言っているが、遅い!
 これでは、アンが……

「魔女に鉄槌を!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クロワッサン物語

コダーマ
歴史・時代
 1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。  第二次ウィーン包囲である。  戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。  彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。  敵の数は三十万。  戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。  ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。  内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。  彼らをウィーンの切り札とするのだ。  戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。  そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。  オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。  そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。  もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。  戦闘、策略、裏切り、絶望──。  シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。  第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...