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第二章 握力令嬢、修道女になる
2-15.魔女に与える鉄槌 その2
しおりを挟むアンがさらわれる!
「早く!」と、荷馬車の人夫に言うも、
「すみません。ただいま、どかせます。はい、どぉぉ」
と、悠長なものだ。
「ちぃぃ!」
だが、私は見たのだ。
こちらに目配せをしている男がいることを!
いや、男ではない、男前の女のヤスミンだ!
彼女の眼には、「私に任せろ」という目だった。
そして、ヤスミンはアンを攫った連中の後を付けて行く。
「ヤスミン、済まない。アンを助けてやって」と、私は祈るしかなかった。
そして、ようやく荷馬車が動き出すと追跡を行ったが、まったく見るはずもなく……
あとは、ヤスミン頼みだ。
もし、あそこでヤスミンが店から出てこなかったら、どうなっていただろうかと思うと、ゾッとする。
私は、ヤスミンの店で待つことにした。
しばらくして、ヤスミンが帰ってきたのは、1時間もかからなかった。
「ヤスミン!」
「お嬢様、森です。奴らは魔女狩り集団『賢い女たち』の連中です」
「や、厄介なッ」
そう、自らを“賢い”と称する者に、まともな奴がいないのと同じで、『賢い女たち』とは、自分達は、愚かな魔女を裁くに値する賢さがあると言い張る医者や助産師の集団である。
いや、正規の医師ではない。
民間療法を行う、どこまでも怪しい集団なのだ。
つまり、人体実験も行っているのだろう。そして、アンもその被害者に!
そう思うと、今すぐに、助けに行かなくてはいけない。
だが、ヤスミンは工房の中に入って行ってしまった。
「???」
すると、大小いくつ革袋を手に持って戻ってきた。
「お嬢様、駐在騎士に連絡をしている暇はありません。私たちだけで行きましょう」と言うと、私の馬に二人乗りをして、『賢い女たち』のいる森へ出撃することにした。
***
「アンゲーリカ。その年になっても独身か。ますます、魔女臭いな」
と言われたアンこと、アンゲーリカだが、何も言い返さない。
いや、言い返さない。
「やはり、うわさ通り魔女なんだわ」
「うわさ通り? 誰がそのようなうわさを?」
「私よ! アンゲーリカさん」
「エレーヌさん。なぜ、貴女がここに?」
「前々から、貴女が魔女ではないかと思っていたのよ」と言うエレーヌこと、ジョルジェットの言葉は適当だ。
だが、アンには、心当たりでもあるのだろうか?
うつむいてしまった。
なぜ?
なぜ否定しない?
「では、魔女には魔女らしく、正装になってもらいましょう」
魔女の正装?
それは、
「そう、全裸に」と、『賢い女たち』の男がそう言い放った。
ランランと輝く瞳たち。
「いや、やめて。お嬢様、奥様、助けて」
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「なんと穢らわしい」
「だから独身だったのか」
「これも悪魔のなせる技か」
一体、アンの身体を見た者たちは、何を言っているのだろうか?
「アンゲーリカさん、見るに絶えません。私はこれにて、お暇させて頂きますわ」と、ジョルジェットは踵を返した。
「皆さんのお好きにでも」と言い残して。
「傭兵たちは?」
「はい、ジョルジさま、いつヴィルヘルミーナが来ても対応できます」
「頼みますわ」
その頃、私は、まだ森への道をヤスミンと駆けていた。
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