握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

文字の大きさ
34 / 126
第二章 握力令嬢、修道女になる

2-15.魔女に与える鉄槌 その2

しおりを挟む

 アンがさらわれる!
「早く!」と、荷馬車の人夫に言うも、
「すみません。ただいま、どかせます。はい、どぉぉ」
と、悠長なものだ。
「ちぃぃ!」

 だが、私は見たのだ。
 こちらに目配せをしている男がいることを!
 いや、男ではない、男前の女のヤスミンだ!
 彼女の眼には、「私に任せろ」という目だった。
 そして、ヤスミンはアンを攫った連中の後を付けて行く。

「ヤスミン、済まない。アンを助けてやって」と、私は祈るしかなかった。

 そして、ようやく荷馬車が動き出すと追跡を行ったが、まったく見るはずもなく……

 あとは、ヤスミン頼みだ。
 もし、あそこでヤスミンが店から出てこなかったら、どうなっていただろうかと思うと、ゾッとする。

 私は、ヤスミンの店で待つことにした。

 しばらくして、ヤスミンが帰ってきたのは、1時間もかからなかった。

「ヤスミン!」
「お嬢様、森です。奴らは魔女狩り集団『賢い女たち』の連中です」
「や、厄介なッ」

 そう、自らを“賢い”と称する者に、まともな奴がいないのと同じで、『賢い女たち』とは、自分達は、愚かな魔女を裁くに値する賢さがあると言い張る医者や助産師の集団である。

 いや、正規の医師ではない。
 民間療法を行う、どこまでも怪しい集団なのだ。
 つまり、人体実験も行っているのだろう。そして、アンもその被害者に!

 そう思うと、今すぐに、助けに行かなくてはいけない。
 だが、ヤスミンは工房の中に入って行ってしまった。
「???」

 すると、大小いくつ革袋を手に持って戻ってきた。
「お嬢様、駐在騎士に連絡をしている暇はありません。私たちだけで行きましょう」と言うと、私の馬に二人乗りをして、『賢い女たち』のいる森へ出撃することにした。

***

「アンゲーリカ。その年になっても独身か。ますます、魔女臭いな」
 と言われたアンこと、アンゲーリカだが、何も言い返さない。
 いや、言い返さない。

「やはり、うわさ通り魔女なんだわ」
「うわさ通り? 誰がそのようなうわさを?」
「私よ! アンゲーリカさん」
「エレーヌさん。なぜ、貴女がここに?」
「前々から、貴女が魔女ではないかと思っていたのよ」と言うエレーヌこと、ジョルジェットの言葉は適当だ。

 だが、アンには、心当たりでもあるのだろうか?
 うつむいてしまった。
 なぜ?
 なぜ否定しない?

「では、魔女には魔女らしく、正装になってもらいましょう」

 魔女の正装?
 それは、
「そう、全裸に」と、『賢い女たち』の男がそう言い放った。

 ランランと輝く瞳たち。

「いや、やめて。お嬢様、奥様、助けて」

 そして、魔女の正装となったアンを見て、『賢い女たち』は、驚いていた。
「なんと穢らわしい」
「だから独身だったのか」
「これも悪魔のなせる技か」

 一体、アンの身体を見た者たちは、何を言っているのだろうか?

「アンゲーリカさん、見るに絶えません。私はこれにて、お暇させて頂きますわ」と、ジョルジェットは踵を返した。
「皆さんのお好きにでも」と言い残して。

「傭兵たちは?」
「はい、ジョルジさま、いつヴィルヘルミーナが来ても対応できます」
「頼みますわ」



 その頃、私は、まだ森への道をヤスミンと駆けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クロワッサン物語

コダーマ
歴史・時代
 1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。  第二次ウィーン包囲である。  戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。  彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。  敵の数は三十万。  戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。  ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。  内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。  彼らをウィーンの切り札とするのだ。  戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。  そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。  オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。  そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。  もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。  戦闘、策略、裏切り、絶望──。  シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。  第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...