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第二章 握力令嬢、修道女になる
2-16.魔女に与える鉄槌 その3
しおりを挟むアンが全裸にさらされてしまっていた頃、私はヤスミンと馬で駆けていた。
「お嬢様、あの小屋です。地下室があるようです」とヤスミンが指さした小屋を見た。
その小屋は、しっかり窓もドアも戸締りがしてあり、外からは見えない。
当然、大きな入り口は鍵が占められており、空けることは不可能だ。
「ここに来て……」と、私が言うまもなく、ヤスミンは大きな袋から取り出した。
「それは、小銃とも違うわね」
「はい、大筒です。小砲とも言います」というとヤスミンは、皮の手袋をはめ、この大筒に弾を込めた。
「お嬢様、これを撃てば、ハチの巣を叩いたことになります」
「覚悟するわ」
“ドォーーーン!”という音と共に、ドアは砕け散った。
***
その頃、地下室のアンは、『賢い女たち』に嘗め回されるように裸体を見られていた。
「こんな悪魔がいたなんて」
「見ないで」
「悪魔が取り付いているんだ」
そこに、大筒の強大な爆音が響いた。
“ドォーーーン!”
無論、ジョルジェットが用意していた傭兵が対応している。
しかし、小屋なので、そう多くの者が入れるわけでなかった。
それでも、1人で複数人の対応は出来るものではない。
3人いれば1人は抑えられるもの。
だが、ここにヤスミンがいたのだ。
いとも簡単に火をおこし、火薬に点火している。
なので、あちこちで、黒色火薬が爆裂し、煙幕を張っている。
「それで、ヤスミンは、突入の前に『これで口と鼻を覆ってください』と言ったのか」
「ぐへっ」
「ゲホゲホゴホ」と、傭兵らが咳き込んで涙目になっている。
――勝負どころが来たわ!
私が、突っ込むと、一人は、ヤスミンがナイフで抑えている。
彼女は、両手のナイフを逆手に持っていた。この辺り、ある程度実戦を経験しているのだろう。
逆手に持つとナイフは奪われにくい。
「お嬢様、ナイフでは抑えるのが、精一杯です。方を付けるのは、お嬢さまでお願いします」
「言われなくともぉぉぉ」と、斬り合いから手を握って、手首をへし折る。
すると、もう一人は簡単に成敗し、ヤスミンが「抑えるだけ」と言いながらも、相手のわき腹を刺して、戦闘不能にしていた。
そして、地下室のドアも火薬で吹っ飛ばし、また、煙幕が出来ていた。
その中に、アンがいた。
「アン!」
「お嬢様ッ」
私は驚いた。
アンが全裸であること。
私の親の年代であろう熟女が全裸にされているのも驚きだが、今まで幼いころから、“騎士家から来ていたお嬢さん”だと思っていたアンが、女ではなかったことに驚いた。
「み、見ないで。見ないでお嬢様」
隣のヤスミンも石像のように固まっていた。
「どうだ。これが魔女だ。悪魔に取りつかれた者の姿だ」と、リーダーらしき男が言った。
念のため、言っておくが、魔女狩り集団『賢い女たち』は、確かに女が多いが男もいる。
また、彼らの狩っている魔女には、男もいる。
なんか、この辺り、いい加減だけれど、実際そうなのだ。
私たち二人は固まっていたのだけれど、リーダーがアンの股間の大事なものに触れ、「引きちぎってやろうか」と言った時に、私は、冷静さを失い、血がマグマのように煮えたぎっていた。
「放せぇ」と言うと、リーダーの手首は床に落ちていた。
ヤスミンが手入れした剣なのだ。スパッと切れるのは当然だ。
「ギヤァー」
それを見て、慌てふためく『賢い女たち』のメンバーだが、入り口はヤスミンがふさいでおり、「逃がしませんよ」と蹴り飛ばしていた。
「あらかた、かたずいたわね」と、『賢い女たち』はお縄にかけておいた。
「アン!」
「見ないで、お嬢さま」と、アンに言われると、どう返事して良いものか困ってしまった。
すると、ヤスミンが、『賢い女たち』の衣服を這いで、アンに着せてくれた。
「お嬢様、見ての通り、私は女でも男でもありません。ですからお嫁には行くことが出来なかったのです。それを父が、ご領主様にお願いして、ご領主様のところで使用人として……」
「そうでしたの」
しばらく、アンは私の胸の中で泣いていた。
ヤスミンは、こいつらの見張りを買ってくれたので、私は、アンを馬に乗せてドイツ騎士団城へ戻り、このことを団長に伝えると、騎士団が『賢い女たち』の逮捕に向かった。
この小屋で、おかしな人体実験もしていたようで、大規模な逮捕劇となったが、アンの心のダメージを考えると、すべて良しと言えるのだろうか?
アンは寝たようだし、私も寝ることにしよう。
しかし、すごいものを見たよな。
お母さんは、アンの“あれ”を知っていたのだろうか?
そういえば、最近、アンが私のお尻に軟膏を塗りたがっているのは……
まさか……
姿は、女ではないけれども、心は女ですよね?
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