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第二章 握力令嬢、修道女になる
2-17.三十年戦争の火種 その1
しおりを挟むエッヘン!?
私たちは、人体実験をしていた『賢い女たち』の小屋を見つけたということで、総長から表彰を受けることになった。
そして、私は、三等級騎士となることが出来たわ。
これからは、 ダーメ ヴィルヘルミーナ(Dame Wilhelmina。「女騎士ヴィルヘルミーナ」と言う意味)と呼ぶように!
よろしいですね?
また、ヤスミンも民間人ながら活躍したということで、金一封を頂いたようだ。
無論、ヤスミンを採用しなかった人事担当者が、どうなったか?
そんなことは、私は知らないわ。
「アンゲーリカさん。何でしたら、うちの騎士で独身の者もいます。再婚になりますが、よろしければ、お手伝いさせていただきますが、如何でしょうか」と、団長がアンの身の上話を持ちだした。
無論、団長としては好意なのだろうが、アンの正体を知っている身としては「余計なことを」である。
「いえ、団長殿。その話は無かったことにお願いします」と、私の方で断っておいた。
「すみません。団長さま」とアンが答える。
モジモジとしたところが、熟女だけれど可愛いな。
さて、巡回中、私はヤスミン工房によく行くようになっていた。
前にも言ったように、おさぼりだ。
この日は、エマリーとイリーゼのアインス商会に加えて、クライネスも来ていた。
「お姉ちゃん、クッキー!」
「はいはい、作ってきましたよ」と、クライネスに手渡す。
「おっ、ミーナちゃん。上手になってきたね」と、エマリーが言ってくれた。
「バターも多めに」とは、ヤスミン。
何のことだろうか?
バターが多めとは?
さて、エマリー達の話を聞くことにした。
「連絡事項としては、ウィーンがきな臭くなってきたわ。中規模の傭兵団が入ったみたいね。新教徒の領主を狙っていると思われますので、ご領主様の護衛を強化していただいた方が良いかと」
「うん。エマリー、父にも伝えておくわ。この間の様なことがあってはいけないわ」、そう、我がウィーンの屋敷が襲われたのだ。
警備は強化しておかないといけない。
しかし、領地から警備兵を動かすと、領地が手薄になるというジレンマがある。
だから、傭兵のようにカネで解決できる武力は助かるのだけれども、あくまでカネで契約した者だ。より多いカネを積んだ方に寝返るのは、常識の範疇だ。
その判断は父に任せよう。
「ヤスミンは、来月にでも、ラインラントへ引っ越ししていただきましょう。ミーナちゃんの領地の武器の手入れをして、領地を護るのも大事ですからね」
「これは、楽しみだなぁ。早く見てみたい」
「ええ、各国の武器を揃えているので、退屈はさせないわよ」
「益々、楽しみですね」
「その時に、クライネスもラインラントへ行って頂戴ね。新しい孤児院を作ることにしたの。その一人目になっていただくわ」
「う~ん、お友達も行けるの?」
そう、エマリーが「孤児たちが成人するまで支援します」と言った孤児院だが、出来るだけ早く引き取り手が見つかるようにと声をかけているし、別の孤児院が引き取ると言った場合、移籍している。
また、新しい孤児の受けいれは行っておらず、孤児たちは減る一方なのだが、これで赤字を縮小しているということになる。
なので、最後の子が成人する時間は圧縮できている。
当然、小さい子の養子縁組には力を入れているなど、エマリーとしては申すまい……
それと、エマリーは、現在、行われている宗教戦争の後、大規模な戦争があるかもしれないと考えており、その際、必ず領地に孤児院が必要だと思っている。
そのノウハウを、今のうちに貯めておきたいのだ。
次の領主となるヴィルヘルミーナのためにも。
ということで、来月末には、ヤスミンとクライネスがラインラントの我が領地に行くことになった。
「実は、先ほどのウィーンの話なのだけれど、もしかしたら」
「まさか、ブルゴーニュの亡霊?」
「傭兵だから、その可能性はあるけど、問題は狙いよ」と、エマリーが言うと、私は彼女の顔をしっかりと見た。その顔は冗談ではなく、真剣そのものだった。
「もしかしたら、王家とかバイエルン大公辺りが手を汚さず、何かをしようとしているかもしれないわ」
このエマリーの言葉を聞いて、王家からバイエルン大公国に嫁いだアンナ・フォン・エスターライヒ夫人のことを思い出した。
「何かする?」
「分からないわ。ただ、バイエルン大公国から接触したようね。傭兵団と」
確かに、それは変だな。
「あるいは、皇帝の弟のマティアス殿下が、何かをしている可能性もありうるわ」
それは、頭が痛い。
皇帝とその弟の不仲は、歴史上最悪の兄弟と言われている。
そして、弟は新教徒嫌いで、「兄が宗教対策をしないから、帝国が乱れている」と吹聴している。
じゃあ、自分が何とかしろよ!
***
しかし、何事もなく、ヤスミン達の出発の日がやって来た。
「では、ヤスミン。我が領地のこと。お願いするわね」
「お嬢様、武器のことなら任せてください。どの領地の武器にも負けないぐらい整備いたします」
「それは、楽しみね」
「お姉ちゃん。また、クッキーを焼いてね」
「分かったわ。お安い御用よ」
「うん」
この孤児の女の子が、私を「お姉ちゃん」と呼び、「クッキー」にすごく執着することについては、よくわからないけれど、昔から、目つきが鋭いので近寄りがたいと言われ続けてきた私には、よく懐いてくれるクライネスが可愛い妹のように感じるわね。
「ふふふ」
エマリーとヤスミンとクライネスはラインラントへ旅立った。
イリーゼは数日後、ウィーンの支店に戻って行く予定らしい。
ここ最近は穏やかだ。
私の命を狙っている連中も、どこへ行ったのだろうか?
その平穏を破ったのは、ウィーンからのニュースだ。
騎士団の連絡は早い。
馬で、隣の騎士団領地へと伝えるのだから、アッと言う間に帝国内での出来事は伝わる。
「ライン宮中伯が賊に襲われて重体だそうだ」ということも。
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