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第二章 握力令嬢、修道女になる
2-18.三十年戦争の火種 その2 第2章完結
しおりを挟む三十年戦争。
これは、17世紀初頭の戦争なので、半世紀以上後の話だ。
しかし、その火種は、すでにこの16世紀にくすぶっている。
腐敗する教会。
新教徒による宗教改革。
混とんとする新教と旧教の争いが続く宗教戦争。
そして、ふと気が付いてしまったのだ。
実は王家の中でも新旧対立があることに。
***
「お祖父さまが、賊に襲われたですって」
「ダーメ・ヴィルヘルミーナ、事実だ。今、連絡が入ったところだ」と、団長が知らせてくれた。
先月、エマリーから「ウィーンがきな臭い」と聞いていたので、父が狙われているのかと思いきや、それなりの規模の護衛団のいるお祖父さまが狙われるとは、これって、かなりの手練れなの?
今すぐにでも、ウィーンに行きたいが、自分一人で何が出来ようか?
しかし、お祖父さまの顔を見て安心したい。
どうやって、ここバート・メルゲントハイムからウィーンに行く口実を得ようか。
団長が、そんな私の心を見透かしたのか、「総長様に相談してみましょう」と言ってくれた。
「では、申し訳ございませんが、お願いします」と、お言葉に甘えることにした。
だが、スポンサー様であるブランデンブルク辺境伯なら、いざ知らず、ライン宮中伯の見舞いに行く必要性が無いのだ。
むしろ、ここで危険にさらしては、身を護るというブランデンブルク辺境伯からの要請を無視したことになる。
なので、「それは無理ですね。五月までお待ちなさい」
当然の回答か……
そうだ!
イリーゼが数日後、ウィーンの支店に帰ると言っている。
これに便乗するか!
「アン、すまないが領地に戻ってくれないか」
「お嬢さま、何を……私の正体が分かって、もういらないとでも」
「いや、違うのよ。実は……」
「お、お嬢さま、また危険なことを。命がいくつあっても足りませんよ」
いや、まったく、その通りで反論できないわ。
一方、イリーゼの方は喜んでいた。
「はい、お嬢さまと、ご一緒できるなんて!」
ということで、私は、せっかく三等級騎士になれたのに、騎士団を退団することにした。
賊がいるウィーンにアンを連れて行きたくなかったので、アンには、女の一人旅は危ないとは思うけれど、領地まで馬車を乗り継いで帰ってもらうことにした。
「大丈夫です。先にラインラントでお待ちしておりますので」
「アン、申し訳ない。気を付けて」
「はい。ご心配なく」と、アンが言うと馬車乗り場へ歩き始めた。
その後ろ姿を思い出すと、何故、あの時、「アンをウィーンへ連れて行かなかったのか」と、後悔することになろうとは……
しばらく、歩いたアンは馬車乗り場へ到着した。
「これはアンゲーリカさん。先日は失礼いたしましたわ」
「エレーヌさん……なぜ、ここに?」
「ええ。同じ馬車ですね」
「いや……」
「ほんと奇遇ですわ。アンゲーリカさん。一緒に参りましょうね。うふふ」
***
ドイツ騎士団城では。
「総長様、ヴィルヘルミーナ嬢がこれを残して」
「なに、手紙?」
「はい、『退団届』のようです」
「あのじゃじゃ馬娘め……」
***
その頃、私はイリーゼとアインス商会の馬車に乗っていた。
「休憩なしで、馬車で35時間程度。ウィーンまで五日といったところか。イリーゼ?」
「はい、お嬢さま」
「お祖父さまは、どのように襲われたのだ?」
「聞いたところによると、宮中伯様の馬車の前に子供が飛び出したので、停車したところを襲撃されたと聞いております」
「子供?」
「はい」
***
数日前のこと、ウィーンのとある屋敷では、
「伯母上様にもご協力を頂きたいのです。兄上の失策がこの帝国の混乱を招いております」と、ある貴公子がアンナこと、アンナ・フォン・エスターライヒ夫人に声をかけていた。
「彼だけの責任とも言えないと思いますがね」
「今からでも遅くはありません」
「つまり、私に旧教徒として、新教徒の排除に協力して欲しいと」と、アンナが言うとその貴公子は、何度も頷いてほほ笑んだ。
「帝国には新教徒は要りません。他国に付け入るスキを作るだけです」という貴公子は、皇帝の弟のマティアス殿下だった。
「貴方は、次期皇帝の座が欲しいのですね」
「とんでもない伯母上様」
それぞれの陰謀が渦巻く16世紀半ばの帝国で、ヴィルヘルミーナは、どこへ向かって行けばよいのか?
まだ、行先は決まっていない。
第二章 握力令嬢、修道女になる 完
第三章 プロイセン公国へ に続く
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