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第三章 プロイセン公国へ(失われた栄光のために)
3-4.ユトレヒト同盟
しおりを挟む帝国内にあるスペインハプスブルク家の領地であったネーデルランド17州のうち、新教徒の多い北部7州が、ユトレヒト同盟結成により独立することになった。
(正式な独立は、1648年のヴェストファーレン条約(ウェストハリア条約)まで待たなくてはいけない。いわゆるオランダ独立八十年戦争)
それも、今年の1月下旬にという。
では、旧教徒派のマティアス殿下は、ネーデルランドで何をしていたのだろうか?
これで、はっきりとしたことは、帝国から独立した者たちが出てしまったこと。
つまり、帝国の解体という“終わりの始まり”なのだ!
そして、スペインハプスブルク家が黙っていないだろうということ。
スペインハプスブルク家のフェリペ二世は、この帝国の新教を認めるという現状に苛立っている。
だから、次期皇帝をスペインに呼び、自ら教育をしている。
しかし、現皇帝も前皇帝も、スペインのように新教徒を粛正するということはしていない。むしろ、中立こそが皇帝の立場のように振舞っている。
そのころ、グラーツのとある屋敷では。
「マティアスでは、ダメだったか?」
「大公、そのようで」
「かつてのブルゴーニュ領ネーデルランドを手にしておきたかったが、我々が表立って活動するのは、まだ、早い。
しばらくはボヘミアの連中で自滅してもらわないと」
「はい、ハプスブルク家はマクシミリアンのボヘミアとスペインだけではありませんから」
「ああ、オスマン帝国のウィーン包囲事件以来、オーストリアの地位が低下し、今ではマクシミリアンの息子が仕切っている。しかし、これからは、スペインでもなく、マクシミリアンの息子でもなく、このオーストリア大公国が、この帝国を仕切る」
どうやら、帝国の旧教徒も一本ではないようだ。
このウィーンでは、社交界シーズンというのに、貴族たちは自身の領地に帰る者が増え、華やかさがひそめてしまった。
ライン宮中伯が狙われたことで自分の命の心配をし、また、ネーデルランドの新教徒が独立したことで、自分の領地に影響が出るのではないか? ということだ。
当然、旧教徒の領主のいる領地は反乱が出るだろう。
そんな中、一通の手紙が着いた。
私宛だ。
なんと、父方の従姉妹のアンナだった。
アンナ!
バイエルン夫人と同じ名前なのがよろしくないですわ。
冗談はさておき。
心優しい彼女は、今の現状を知って、「帝国内は不安定なので、しばらく、こちらに来ては如何か」という。
「そうか、兄のところなら、帝国と近からず、遠からず。ちょうど良いのではないか」と、父も言ってくれた。
ということで、バート・メルゲントハイムでアンと別れてしまったので、アンを連れて行けないけれど、しばらく、伯父のところへ行くことにした。
伯父の領地はポーランドになる。
確か、おじい様の代までは、ドイツ騎士団国領だったと思う。
さて、政治権力の無い私がウィーンにいてもすることは無し!
さっさと、伯父上のところに行きますわ!
***
その頃、クレマンティーヌたちは、『表の商売』で黒海にいた。
そして、ヴァイキングロードを使い、黒海からバルト海へ船で抜けようとしていた。
「黒海からバルト海」というと、最短距離は陸地なのだから船では抜けられない。
だが、実は、1000年以上も前から、ヴァイキングが船が川を登り、あるいは、船が陸上移動が出来るように工夫されており、その要所要所には、その施設を使用できる商売があるのだ。
なお、現在では水路で川と川を結んでおり、水上のみで、バルト海からドニエプル川に入り、ウクライナのキーウへ、キーウから黒海へ、黒海からイスタンブールへと移動できる。
そのヴァイキングロードには、嘗てのヴァイキングたちが作った都市が、現在も残っている。
キーウしかり、ワルシャワしかり、これらはヴァイキングロードの途中の商業都市であり、中継都市なのだ。
ここでは、北欧からイスラム圏からアジアからの商人が商売を行っている。
そして、『表の商売』をしていたクレマンティーヌは、このヴァイキングロードを使い、小型船でドニエプル川を上り、ビスワ川に入り、ワルシャワまで来ていた。
すると、見覚えのある貴族の紋章の馬車を発見した。
「あれは、ホーエンツォレルン家?」
「ホーエンツォレルン家だとすると、ベルリンからケーニヒスベルクへでしょうか?」
「いや、ベルリンのブランデンブルク辺境伯の紋章は、もっと大きいはず。分家がベルリンに行っていたのか?」
「クレマンティーヌさま、誰か降りてくるようです」
「まさか、ヴィルヘルミーナ! こんなところにいたとは……どおりで見つからないはずだ」
***
ワルシャワに到着した私は、伯父の屋敷に向かった。
ポーランドも社交界シーズンであるので、首都ワルシャワに貴族たちが集まっている訳だ。
ということで、数年ぶりに、伯父の領地の駐在所の屋敷に行くのだけれど、何だか古い建物だ。
規模は大きいのだけれど、悪い意味で古い……
「こんな感じでしたか?」と、私は首をかしげてしまった。
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