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第三章 プロイセン公国へ(失われた栄光のために)
3-3.ライン王
しおりを挟む「マティアスがバイエルン大公のもとへ?」
「はい、陛下。何か良からぬことでも……」
「情報が欲しいな」と、この国の皇帝が発言して、数日が経過した。
「陛下、調べて参りました」
「うむ、聞こう」
「マティアス様は、アンナ様を通じてバイエルン大公の力を借りようとしているようです。目的は……」
「目的は?」
「新教徒を排除し、旧教の徹底を行うようです。そして、バイエルン大公には旧教徒の代表格になっていただき、新教徒のライン宮中伯を選帝侯の地位から引き釣り落とすため、傭兵を集めているようです」
「では、ライン宮中伯が危ないのではないか?」
「かもしれません。ですが、陛下が動けば、帝国皇帝が中立でなく、新教徒を保護しているということになり、混乱が起こります」
「もうすでに、起こっているではないか」
帝国皇帝の言う「すでに起こっている混乱」とは、各地の宗教戦争である。
ザクセン選帝侯のルターの庇護。
ドイツ農民戦争の勃発。
さらに、スイス方面から新たな新教徒の一派:カルヴァン派が浸透してきているのだ。
マルティン・ルターの出現から、この帝国は揺れに揺れている……
そんな新教徒が活発な中、旧教徒の巻き返しが、マティアスを中心とした強硬派の結成なのだろう。
その第一弾として、ライン宮中伯に選帝侯を退いてもらうと。
「そして、最終的には陛下を打倒して、次期皇帝になることと思われます」
「……あぁ、我が弟はそういう奴だ」と、皇帝は頷き、さらに命じた。
「しかし、傭兵の集結は、戦火をウィーンに招くことになる。ただちに見つけ出し解散させよ」と。
***
私は、ウィーンの駐在屋敷に籠っていた。
お祖父さまのところに行きたいのだけれど、ちょろちょろ出かけて、襲われでもしたら、敵の思うツボだわ。
そんな中、「ライン宮中伯が宮殿で仕事が出来ないのなら、お役御免とすべきだ」という話が出ていると聞いて驚いた。
――なんと薄情な!
「お父さま……」
「いや、陛下が認めるわけがない。それに……」
「!?」
「もしそんなことになったら、宮中伯も辞めて、王国を名乗るかもしれない」
「まさか、フリードリッヒ伯父さまが……」
「いや、今の話は聞き流してくれ。可能性の話だ。あくまで可能性の」
「分かりましたわ。お父さま」と、返答したものの、もし、そんなことになったら我が領地は、その王国の一部になるだろうことはわかる。
そして、小競り合いどころか、大きな戦争が起きるだろう。帝国を二分するような。
父は、最後に付け加えた。
「我がブランデンブルクの血統の者たちも、ライン宮中伯さまの味方をしているようだ。アンスバッハ辺境伯やバイロイト辺境伯など、皆、ホーエンツォレルン家の傍系にあたる者が味方している」
これまた、武闘派が味方しているのね。
宮中伯という文官のトップと武闘派って、意外とウマが合うのかもしれない。
父と母も政略結婚とは思えないぐらい、熱愛だったし。
しかし、お祖父さまの容態は良くなることなく、亡くなることとなった……
葬儀のため、我が家も忙しくなっていた。
今週にラインラントに帰る予定が延期となる。
そして、お祖父さまの遺体は、領地に運ばれる予定だが、ここウィーンで告別式が行われた。
当然、そこには、アンスバッハ辺境伯にバイロイト辺境伯が出席している。
「なんという」
父系の顔は、恐竜みたいな顔になる何かがあるのだろうか?
式の後、伯父さまとアンスバッハ辺境伯やバイロイト辺境伯が、ひっそりと話していたのが見えたのだ。
「フリードリッヒ殿、もし貴殿が王国立上げの際は、協力させてもらうので、ひと声おかけ頂きたい」という話が聞えたので、私は聞えぬふりをして、その場から立ち去った。
そして、今頃になって、こんなニュースが飛び込んできたのだ。
「マティアス殿下が、ユトレヒト同盟協定にて、『信教の自由』を認める」と。
確か、旧教の強硬派だったはずの殿下が、何故?
さらに、「新教徒のネーデルランドの北部7州が独立」と。
いや、スペインハプスブルク家が独立を反対していたので、旧教徒の強硬派のマティアス殿下が統治しに行ったのでは?
この帝国は、今、何が起こっている?
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