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第三章 プロイセン公国へ(失われた栄光のために)
3-6.アンナとポーランド社会
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ワルシャワでは、アンナと共に社交界やお茶会に気軽に出かけていた。
私が、「一緒に行きますわ」というと、アンナがとても喜んでくれるのだ。
つい、私も気をよくして、出かけている。
そして、どこも似たような都市伝説が流行るのだろう。
ここ、ワルシャワでも「握力令嬢」の都市伝説があるようだ。
内容もウィーンと変わらないようで、「貴公子の手をへし折る女がいる」とか、「握力令嬢の手を取ってはいけない」だとか、つまらぬ噂が流れているようだわ。
庶民は、そんなこと言って、楽しんでいるのかしらね。
その頃、ウィーンの父の屋敷では、アインス商会の会長、つまり、エマリーの父親のゲルハルト会長が商談をしていた。
「はい、これがスペインの最新型戦闘艦のガレオン船の設計図になります」
「デカいな。会長。これはデカいな」
「はい、今までとは、根本が違ってきます。
これまでのように、小型船や中型船を複数連れて、大砲や商品を運んでいたのが、この大型船一隻でほとんどの商品を運べます。
ですので、この大型船と小型船が二、三隻あれば、艦隊も組めますし、商隊も組めます」
二人は頷き、酒を口にしている。
「これを作ることは可能なのか?」と領主のフォルカーは尋ねた。
「作るだけなら何とかなりますが、武装となると莫大な資金が必要かと……」
しばしの沈黙の後、フォルカーは口を開くことにした。
「武装はともかく、作ろうじゃないか!
でないと、これまでのことが無駄になる。そして、スペイン、フランスから領地を護る必要がある」
「分かりましたッ! ご領主様」と、ゲルハルト会長は胸を張っている。
それは、この言葉を待っていたのだろう。
「しかし、組み立てはどこで行う? ライン川の河口のネーデルラントは独立し、使えるドックは無いと思うのだけれど」
「領主様、逆転の発想です。下流でなく上流を使います」
「なんと?」
「ライン川の上流にあるウィンター湖とボーデン湖を使います。
ここに下請けの整備士がいますので、彼のドックを使い、ここで試作船をテスト航行いたします」
「誰も、スイスの山奥の湖で海軍艦を作っているとは思わないか」
「ハイ(笑)」とゲルハルト会長が言うと、二人の男は笑い合った。
「五十メートル級の大型船を作る羽目になろうとはな……」と、フォルカーは苦笑していた。
さて、ワルシャワの私は、すっかり緊張感が解けていたようで、従姉妹たちとお茶会を楽しんでいた。
従姉妹たちと言うのは、実は、アンナは長女で、次女三女四女五女と女だらけの一家なのだ。
実は、男の子は二人生まれたのだけれど、何故か、二人とも生まれて早々に亡くなるという、目も当てられない、痛ましいことになっている。
そして、このアンナの結婚が、我がドイツ民族の歴史を左右することになろうとは、まだ、誰も知らない。
男の子がすべて若くして亡くなったので、父の財産も母の財産も彼女がすべて相続した。
当然、そんな令嬢を放置するバカはいないのだ。
そして、彼女が結婚することによって出来た国は、プロイセン王国、そして、ブランデンブルク選帝侯国、北ドイツ連合へと発展し、ドイツ第三帝国まで発展していくのだから、世の中分からない。
さて、話は戻り、アンナと次女のマリーと私で、お茶会や晩餐会などに、お邪魔していた。
すると聞えたのだな。
「ドイツの連中が来ているわ」と。
ポーランド社会にドイツ人がいるのが、気に食わない連中なのだろう。
この伯父の公国は、ポーランド王の臣下になるが、ブランデンブルク辺境伯の分家なのだ。
当然、帝国へも顔を出すことがある。
親戚の家へお邪魔しても、問題などあるまいと思うのだけれど、ここポーランドではそう簡単にはいかない様だ。
何故なら、祖父の代までは、公国でなく、伯父の領地は、「ドイツ騎士団国」、あるいは、「ドイツ騎士団領国」という、ローマ教皇並びに帝国皇帝が正式に認める国家だったのだ。
正式な国家であるから、法律、貨幣経済、税金、軍備を揃えている。
ドイツ人からすると、キリスト教を東方へ布教した修道騎士という扱いだが、ポーランド人は違うらしい。
プルーセン人やリトアニア人やポーランド人を殺害した凶悪な組織で、ポーランドやリトアニアを占拠していたというのだ。
しかし、リトアニアなどは、キリスト教に改宗したため、今、その恩恵を受けている。
また、東方のタルタル人からの襲撃から、ヨーロッパを守るべく闘ったのは、ドイツ騎士団をはじめとする三大騎士団だ。
(バトゥのヨーロッパ遠征のこと)
アンナは、どうやらポーランド社会からはドイツ人なので、のけ者扱いを受けてきたのだろう。
「それでか! 私を盛んに誘っていたのは!」
「ヴィル、気にすることは無いわ。ドイツ系の貴族もいるから」
「そうなんだ」
「ええ、ご紹介するわ」と、アンナは、あるご婦人を紹介してくれた。
「あら、ヴィルヘルミーナさん。では、ウィーンを出て、バート・メルゲントハイムでは、何をしておられたのですの?」と、そのご婦人から聞かれたので、つい、「ドイツ騎士団のしゅう……」。
私は、「修道女」と言うつもりが、あるポーランド系貴族婦人が、「ドイツ騎士団ですって」と、叫んだのだから、その時、会場が、ざわついたのは、言うまでもない。
私が、「一緒に行きますわ」というと、アンナがとても喜んでくれるのだ。
つい、私も気をよくして、出かけている。
そして、どこも似たような都市伝説が流行るのだろう。
ここ、ワルシャワでも「握力令嬢」の都市伝説があるようだ。
内容もウィーンと変わらないようで、「貴公子の手をへし折る女がいる」とか、「握力令嬢の手を取ってはいけない」だとか、つまらぬ噂が流れているようだわ。
庶民は、そんなこと言って、楽しんでいるのかしらね。
その頃、ウィーンの父の屋敷では、アインス商会の会長、つまり、エマリーの父親のゲルハルト会長が商談をしていた。
「はい、これがスペインの最新型戦闘艦のガレオン船の設計図になります」
「デカいな。会長。これはデカいな」
「はい、今までとは、根本が違ってきます。
これまでのように、小型船や中型船を複数連れて、大砲や商品を運んでいたのが、この大型船一隻でほとんどの商品を運べます。
ですので、この大型船と小型船が二、三隻あれば、艦隊も組めますし、商隊も組めます」
二人は頷き、酒を口にしている。
「これを作ることは可能なのか?」と領主のフォルカーは尋ねた。
「作るだけなら何とかなりますが、武装となると莫大な資金が必要かと……」
しばしの沈黙の後、フォルカーは口を開くことにした。
「武装はともかく、作ろうじゃないか!
でないと、これまでのことが無駄になる。そして、スペイン、フランスから領地を護る必要がある」
「分かりましたッ! ご領主様」と、ゲルハルト会長は胸を張っている。
それは、この言葉を待っていたのだろう。
「しかし、組み立てはどこで行う? ライン川の河口のネーデルラントは独立し、使えるドックは無いと思うのだけれど」
「領主様、逆転の発想です。下流でなく上流を使います」
「なんと?」
「ライン川の上流にあるウィンター湖とボーデン湖を使います。
ここに下請けの整備士がいますので、彼のドックを使い、ここで試作船をテスト航行いたします」
「誰も、スイスの山奥の湖で海軍艦を作っているとは思わないか」
「ハイ(笑)」とゲルハルト会長が言うと、二人の男は笑い合った。
「五十メートル級の大型船を作る羽目になろうとはな……」と、フォルカーは苦笑していた。
さて、ワルシャワの私は、すっかり緊張感が解けていたようで、従姉妹たちとお茶会を楽しんでいた。
従姉妹たちと言うのは、実は、アンナは長女で、次女三女四女五女と女だらけの一家なのだ。
実は、男の子は二人生まれたのだけれど、何故か、二人とも生まれて早々に亡くなるという、目も当てられない、痛ましいことになっている。
そして、このアンナの結婚が、我がドイツ民族の歴史を左右することになろうとは、まだ、誰も知らない。
男の子がすべて若くして亡くなったので、父の財産も母の財産も彼女がすべて相続した。
当然、そんな令嬢を放置するバカはいないのだ。
そして、彼女が結婚することによって出来た国は、プロイセン王国、そして、ブランデンブルク選帝侯国、北ドイツ連合へと発展し、ドイツ第三帝国まで発展していくのだから、世の中分からない。
さて、話は戻り、アンナと次女のマリーと私で、お茶会や晩餐会などに、お邪魔していた。
すると聞えたのだな。
「ドイツの連中が来ているわ」と。
ポーランド社会にドイツ人がいるのが、気に食わない連中なのだろう。
この伯父の公国は、ポーランド王の臣下になるが、ブランデンブルク辺境伯の分家なのだ。
当然、帝国へも顔を出すことがある。
親戚の家へお邪魔しても、問題などあるまいと思うのだけれど、ここポーランドではそう簡単にはいかない様だ。
何故なら、祖父の代までは、公国でなく、伯父の領地は、「ドイツ騎士団国」、あるいは、「ドイツ騎士団領国」という、ローマ教皇並びに帝国皇帝が正式に認める国家だったのだ。
正式な国家であるから、法律、貨幣経済、税金、軍備を揃えている。
ドイツ人からすると、キリスト教を東方へ布教した修道騎士という扱いだが、ポーランド人は違うらしい。
プルーセン人やリトアニア人やポーランド人を殺害した凶悪な組織で、ポーランドやリトアニアを占拠していたというのだ。
しかし、リトアニアなどは、キリスト教に改宗したため、今、その恩恵を受けている。
また、東方のタルタル人からの襲撃から、ヨーロッパを守るべく闘ったのは、ドイツ騎士団をはじめとする三大騎士団だ。
(バトゥのヨーロッパ遠征のこと)
アンナは、どうやらポーランド社会からはドイツ人なので、のけ者扱いを受けてきたのだろう。
「それでか! 私を盛んに誘っていたのは!」
「ヴィル、気にすることは無いわ。ドイツ系の貴族もいるから」
「そうなんだ」
「ええ、ご紹介するわ」と、アンナは、あるご婦人を紹介してくれた。
「あら、ヴィルヘルミーナさん。では、ウィーンを出て、バート・メルゲントハイムでは、何をしておられたのですの?」と、そのご婦人から聞かれたので、つい、「ドイツ騎士団のしゅう……」。
私は、「修道女」と言うつもりが、あるポーランド系貴族婦人が、「ドイツ騎士団ですって」と、叫んだのだから、その時、会場が、ざわついたのは、言うまでもない。
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