握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

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第三章 プロイセン公国へ(失われた栄光のために)

3-7.実はドイツが好きなんでしょう?

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 「ドイツ騎士団ですって!」
 その言葉が、会場に木魂こだました。

 会場が、ざわついたのは言うまでもない。

「おっ、これは口論か?」と、私は期待したのだが、いや、そんな正々堂々とした者は、ここにはいなかった。
 その代わり、私たちの周りには誰もいなくなった。

 しかし、先ほど「バート・メルゲントハイムでは?」と私に質問したドイツ系のご婦人が、これに激怒したのだな。
「なんと、客人に対し失礼な!」と、一括したのだ。

「ご、ご婦人さま……」

「いいですか! よくお聞きなさい。私たちはポーランドを愛しておりますわ。同じように先祖の土地、ドイツも同じこと」と、講釈が始まった……

 私とアンナとマリーの三人は、いつの間にか輪の中心となり、その横でこのご婦人が講釈を垂れている。

「そんなドイツ騎士団で厳しい生活を貴族令嬢が一人で耐えてきたのです。心身ともに鍛え上げてきたのです。素晴らしいと思いませんこと!」

 いや、ご婦人、それはとてつもなく妄想の範疇だと思います。

 ハイ。

 一人でなく、アンもいたし。
 厳しいと言っても、年明けまで修道女でしたので、ほんの3か月ほどなんですが……

 ご婦人の話からでは、私が、半年。
 いや、一年。
 いや、二、三年ぐらい修業したみたいでは……
 まあ、黙っておくよ。

「では、アンナさんの従姉妹の方、ご挨拶を!」と、ご婦人が私に話しを振ってきたので、
「お初にお目にかかります。ドイツ騎士団で三等級騎士をしておりました“ダーメ・ヴィルヘルミーナ”と申します。以後お見知りおきを」と言うと、先ほどまで、『ドイツ騎士団』と聞けば、嫌な顔をしていたはずなんだけれど、『三等級騎士』と聞くと、一気に尊敬のまなざしに代わった。

「「「おおぉ」」」と、声が漏れる。

 ここはやはり、貴族なのだ!
 騎士の称号は、喉から手が出るほど欲しいのだ。

 若い女性たちからは、「騎士様ですって」「カッコいいわ」と言う声が漏れた。

 このご婦人のおかげで、事なきを得たわ。


***

 さて、困っていたのは、クレマンティーヌたちだ。
 
 ライン宮中伯を苦しめるために、ヴィルヘルミーナを殺るつもりだったが、最大の目的、ライン宮中伯は死んだ。
 あとは、バイエルン大公とマティアス殿下の仕事だ。
 プファルツ選帝侯領の解体は。

「お嬢さま、如何なされますか?」と、アレクサンドラがクレマンティーヌに尋ねた。
「う~ん。そうだな」
「ここには協力者がおりませんが」
「だが、なんかあのデカ女は、ムカつくので、誰か雇えんのか?」
「そうですね。今の時期となると……」

***


 ウィーンでは、さっぱり持てなかった私が、ワルシャワでは、そこそこ、人気が出てきた。
「ダーメ・ヴィルヘルミーナ。私と一曲」と言われることが、しばしばあるのだから、世の中分からないね。
 しかし、ラインラントまで、婿に来てくれるのか?
 私がポーランドに嫁に行くのか?

 まあ、その際は、母方の従兄弟が領地に来るんだろう。別に問題などあるまい。
 嫁に行く、絶好のチャンスを逃してはなりませんわ!

 しかし、時間が足らなかった……

 もう五月も下旬になってしまい、社交界シーズンは、あっけなく終了となった。

 ということは、もう、ラインラントへ帰る時期か?
 エマリーやヤスミンにクライネスたちは、ラインラントで元気にしているだろうか?

 すると、
「ねぇ、ヴィル?」
「アンナ。何かしら?」
「折角だから、我が家に来ない?」
「うん。ヴィル姉さまも、ケーニヒスベルクへ」とマリーも言ってくれた。
「海が見えるっていいわよ」と、アンナとマリーが笑っている。

 我が領地はライン川があるので、似たようなものではないかと思うのだけれど?
「川とは違うの?」
「違うわよ」
「うん、まったく違うわ。ヴィル姉さま」

 海かぁ。

 私の知る限りの知識で海を想像してみた。

 しばらく考えて、
「うん。行ってみますわ」と、答えると二人の従姉妹は、笑みをこぼした。

 そして、アンナは、私を海に誘ったことを、長年、後悔することになる。
 何故なら、翌年には、私が海賊として名を馳せるのだから。

***

 その海の遥か先では!

 海の見える丘から、花畑に水をやっている美少女が、私と共に大海原に旅立ち、親友になろうとは、この時、二人は知る由もなかった。

 そこに教会から使用人がやって来た。
「店主、突然で申し訳ない。明後日、葬儀があるので花を用意してくれないか」
「はい、大丈夫です。花屋の店主、ローズマリーにお任せください。
 明日中に教会までお花をお持ちします」と、少女の可愛い声が元気よく返されたので、教会の使用人も安堵したようだった。
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