52 / 126
第三章 プロイセン公国へ(失われた栄光のために)
3-15.紅白戦 その3
しおりを挟む
ゲストが笑い転げている中、伯父上の公爵は、「アンナ! ヴィルをすぐに呼んできなさい」と。
「は、はい」と、アンナが駆けて行った。
その頃、私は、「いやぁ、今日も汗をかいた」ので、ベッドの下に隠してある行水セットを取り出して、水浴びをしていたら、部屋がノックされた。
「ヤバイ!」
「ヴィル、ヴィル! ヴィルヘルミーナ!」と、アンナの声がした。しかも、慌てている様子だ。
「どうしたの? アンナ」
「今すぐに来て! 開けるわよ」
「えっ!」
アンナが、部屋に入って来たではないか!
「ちょっと、ヴィル。何しているの。裸で!」
いや、裸でないと行水は出来ませんのよ。アンナ様!
そんなことを、アンナに言ったら、しばらく機嫌を直してくれなさそうなので、「いや、ちょっと、汗をかいたので。おほほ」と言うと、呆れた顔をしていた。
「そう、貴女が、すごく汗をかいたおかげで、皆が困っているわ。父の部屋まで来て頂戴」
「あぁ、着替え手伝って」
実は、午前から昼食まで、朝用のドレスを着て、昼食が終わると、街に出かけたりしていたので、着替えやすい軽装にしていたのだ。
そして、夕食の前による用のドレスに着替えると、誰も私が、やましいことをしているとは思わない。
なので、呼ばれてドレスに着替えるなど、想定外なのだよ。アンナ君!
「ちゃっちゃと着替えるわよ! ヴィル」と、アンナに裸を見られてしまったな。
さて、伯父上さまの部屋に行くと、先日の貴公子:バスティアーン様が来ていた。
なんだか、とても愉快そうで結構ですわ。
「ヴィル。お前は何をしていた。今、どこにいた?」
「はい、部屋で、ぎょ、行水など……」と言うと、また、貴公子が笑い出した。
「行水だ?」と、伯父上さまが言うので、「はい、汗をかきましたので」。
「何をしてだ?」
「へ、部屋で素振りをしておりましたわ。昼食の後から、素振りをしておりましたので。はい」
すると、アンナが、「ヴィル、ここから見えていたわ。あの茂みでアーマーを脱いでいたのも」
「……」
皆が私の顔を見ている。
「み、見えていましたか?」
バスティアーン様が「はい、最初からすべて」と仰るではないか。
「プレートアーマーは、散歩のふりをして回収する」と、伯父上さまが言うと、私は頷き、アーマーを入れる袋を取りに部屋に戻るのでした。
そして、無事、プレートアーマーは回収し、伯父上さまの執事に部屋に届けてもらうことになった。
しかし、バスティアーン様は上機嫌だ。
この後、当然のように「部屋から出るな!」と言い渡されることに……
このおきゃんが、部屋にじっとしていれるわけないじゃないですか!
すると、私たちの方に、騎士団の上級騎士がこちらに歩いてくるではないか。
領主の伯父上さまにご挨拶をするようだ。
「ご領主様に敬礼」と言ったのは、キルヒナー団長だ。
「ご苦労! グロスクレウツの諸君」と、伯父の言うグロスクレウツとは、上級騎士のことだ。
その下が、コマンダー、リッターとなる。
私は、三等級なのでリッターだ。
何故か、グロスクレウツたちが、どことなく私を見ているような気がする。
すると、その中の一人が「ヴィルヘルミーナ様は、先ほどはどちらへ?」と聞いてきた。
「部屋におりましたわ」
「そうですか? おかしいですね」
「どういうことですの?」
「はい、ヴィルヘルミーナ様がお持ちの『鍔が赤い剣』を持った者に、先ほどの紅白戦で斬りつけられまして。私は副団長のヴァッテンバッハと言います」
お互いプレートアーマーを着ていたから分からなかったが、ふくらはぎを叩いてやった奴だわ。
「私の剣をご存じなのですか?」
「はい、部屋で素振りをしているのをお見かけましたので。赤い鍔など見たことがありませんから」とキルヒナー団長が答えた。
こいつは、やはり始末しておくべきだったよ。
しらを切り通せるのか?
すると、バスティアーン様が笑い出した。
「もう、お互いに良いではありませんか」と。
「!?」
「公爵様、もう話してやりましょうよ」と、バスティアーン様は続けた。
「あぁ、ああ。そうだな。話してやってくれ。アンナ」
ということで、アンナの口を介して、この件が話された。
グロスクレウツたちが、俯いている。
三等級騎士、つまりリッターごときに蹂躙されてしまったからだろうか?
「ヴィルヘルミーナ様、何故、私を狙ってきたのでしょうか?」
「団長、やはり敵の大将に向かって進むのが騎士の役目なのでしょう」と、バスティアーン様がフォローを入れてくれたのだろう。
が、「いや、なんかムカつくので!」と言っておいた。
「いや、ヴィル!」と、アンナが軽く悲鳴を上げている。
「娘の件でしょうか?」と団長。
「娘も団長もだ!」
「なら、何も申すことはありません。決闘で解決いたしましょう」
「望むところですわ」と、答えるとバスティアーン様は、「いや、いや、こんな面白いお嬢さまは、初めて見ました。公爵様」
いや、決闘と言っている側から、大笑いされると緊張感が抜けるんだよ。
しかし、伯父の公爵は、このことに対し、ものすごく不満があった。
オランダの貴公子が娘が五人もいる公国に来るということは、そう言うことではないの!
つまり、婿探し!
そう、この家は、女ばかりが五人だよ!
「は、はい」と、アンナが駆けて行った。
その頃、私は、「いやぁ、今日も汗をかいた」ので、ベッドの下に隠してある行水セットを取り出して、水浴びをしていたら、部屋がノックされた。
「ヤバイ!」
「ヴィル、ヴィル! ヴィルヘルミーナ!」と、アンナの声がした。しかも、慌てている様子だ。
「どうしたの? アンナ」
「今すぐに来て! 開けるわよ」
「えっ!」
アンナが、部屋に入って来たではないか!
「ちょっと、ヴィル。何しているの。裸で!」
いや、裸でないと行水は出来ませんのよ。アンナ様!
そんなことを、アンナに言ったら、しばらく機嫌を直してくれなさそうなので、「いや、ちょっと、汗をかいたので。おほほ」と言うと、呆れた顔をしていた。
「そう、貴女が、すごく汗をかいたおかげで、皆が困っているわ。父の部屋まで来て頂戴」
「あぁ、着替え手伝って」
実は、午前から昼食まで、朝用のドレスを着て、昼食が終わると、街に出かけたりしていたので、着替えやすい軽装にしていたのだ。
そして、夕食の前による用のドレスに着替えると、誰も私が、やましいことをしているとは思わない。
なので、呼ばれてドレスに着替えるなど、想定外なのだよ。アンナ君!
「ちゃっちゃと着替えるわよ! ヴィル」と、アンナに裸を見られてしまったな。
さて、伯父上さまの部屋に行くと、先日の貴公子:バスティアーン様が来ていた。
なんだか、とても愉快そうで結構ですわ。
「ヴィル。お前は何をしていた。今、どこにいた?」
「はい、部屋で、ぎょ、行水など……」と言うと、また、貴公子が笑い出した。
「行水だ?」と、伯父上さまが言うので、「はい、汗をかきましたので」。
「何をしてだ?」
「へ、部屋で素振りをしておりましたわ。昼食の後から、素振りをしておりましたので。はい」
すると、アンナが、「ヴィル、ここから見えていたわ。あの茂みでアーマーを脱いでいたのも」
「……」
皆が私の顔を見ている。
「み、見えていましたか?」
バスティアーン様が「はい、最初からすべて」と仰るではないか。
「プレートアーマーは、散歩のふりをして回収する」と、伯父上さまが言うと、私は頷き、アーマーを入れる袋を取りに部屋に戻るのでした。
そして、無事、プレートアーマーは回収し、伯父上さまの執事に部屋に届けてもらうことになった。
しかし、バスティアーン様は上機嫌だ。
この後、当然のように「部屋から出るな!」と言い渡されることに……
このおきゃんが、部屋にじっとしていれるわけないじゃないですか!
すると、私たちの方に、騎士団の上級騎士がこちらに歩いてくるではないか。
領主の伯父上さまにご挨拶をするようだ。
「ご領主様に敬礼」と言ったのは、キルヒナー団長だ。
「ご苦労! グロスクレウツの諸君」と、伯父の言うグロスクレウツとは、上級騎士のことだ。
その下が、コマンダー、リッターとなる。
私は、三等級なのでリッターだ。
何故か、グロスクレウツたちが、どことなく私を見ているような気がする。
すると、その中の一人が「ヴィルヘルミーナ様は、先ほどはどちらへ?」と聞いてきた。
「部屋におりましたわ」
「そうですか? おかしいですね」
「どういうことですの?」
「はい、ヴィルヘルミーナ様がお持ちの『鍔が赤い剣』を持った者に、先ほどの紅白戦で斬りつけられまして。私は副団長のヴァッテンバッハと言います」
お互いプレートアーマーを着ていたから分からなかったが、ふくらはぎを叩いてやった奴だわ。
「私の剣をご存じなのですか?」
「はい、部屋で素振りをしているのをお見かけましたので。赤い鍔など見たことがありませんから」とキルヒナー団長が答えた。
こいつは、やはり始末しておくべきだったよ。
しらを切り通せるのか?
すると、バスティアーン様が笑い出した。
「もう、お互いに良いではありませんか」と。
「!?」
「公爵様、もう話してやりましょうよ」と、バスティアーン様は続けた。
「あぁ、ああ。そうだな。話してやってくれ。アンナ」
ということで、アンナの口を介して、この件が話された。
グロスクレウツたちが、俯いている。
三等級騎士、つまりリッターごときに蹂躙されてしまったからだろうか?
「ヴィルヘルミーナ様、何故、私を狙ってきたのでしょうか?」
「団長、やはり敵の大将に向かって進むのが騎士の役目なのでしょう」と、バスティアーン様がフォローを入れてくれたのだろう。
が、「いや、なんかムカつくので!」と言っておいた。
「いや、ヴィル!」と、アンナが軽く悲鳴を上げている。
「娘の件でしょうか?」と団長。
「娘も団長もだ!」
「なら、何も申すことはありません。決闘で解決いたしましょう」
「望むところですわ」と、答えるとバスティアーン様は、「いや、いや、こんな面白いお嬢さまは、初めて見ました。公爵様」
いや、決闘と言っている側から、大笑いされると緊張感が抜けるんだよ。
しかし、伯父の公爵は、このことに対し、ものすごく不満があった。
オランダの貴公子が娘が五人もいる公国に来るということは、そう言うことではないの!
つまり、婿探し!
そう、この家は、女ばかりが五人だよ!
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クロワッサン物語
コダーマ
歴史・時代
1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。
第二次ウィーン包囲である。
戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。
彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。
敵の数は三十万。
戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。
ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。
内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。
彼らをウィーンの切り札とするのだ。
戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。
そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。
オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。
そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。
もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。
戦闘、策略、裏切り、絶望──。
シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。
第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる