握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

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第三章 プロイセン公国へ(失われた栄光のために)

3-15.紅白戦 その3

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 ゲストが笑い転げている中、伯父上の公爵は、「アンナ! ヴィルをすぐに呼んできなさい」と。
「は、はい」と、アンナが駆けて行った。

 その頃、私は、「いやぁ、今日も汗をかいた」ので、ベッドの下に隠してある行水セットを取り出して、水浴びをしていたら、部屋がノックされた。
「ヤバイ!」

「ヴィル、ヴィル! ヴィルヘルミーナ!」と、アンナの声がした。しかも、慌てている様子だ。
「どうしたの? アンナ」
「今すぐに来て! 開けるわよ」
「えっ!」

 アンナが、部屋に入って来たではないか!
「ちょっと、ヴィル。何しているの。裸で!」
 いや、裸でないと行水は出来ませんのよ。アンナ様!
 そんなことを、アンナに言ったら、しばらく機嫌を直してくれなさそうなので、「いや、ちょっと、汗をかいたので。おほほ」と言うと、呆れた顔をしていた。

「そう、貴女が、すごく汗をかいたおかげで、皆が困っているわ。父の部屋まで来て頂戴」
「あぁ、着替え手伝って」

 実は、午前から昼食まで、朝用のドレスを着て、昼食が終わると、街に出かけたりしていたので、着替えやすい軽装にしていたのだ。
 そして、夕食の前による用のドレスに着替えると、誰も私が、やましいことをしているとは思わない。
 なので、呼ばれてドレスに着替えるなど、想定外なのだよ。アンナ君!

「ちゃっちゃと着替えるわよ! ヴィル」と、アンナに裸を見られてしまったな。

 さて、伯父上さまの部屋に行くと、先日の貴公子:バスティアーン様が来ていた。
 なんだか、とても愉快そうで結構ですわ。

「ヴィル。お前は何をしていた。今、どこにいた?」
「はい、部屋で、ぎょ、行水など……」と言うと、また、貴公子が笑い出した。

「行水だ?」と、伯父上さまが言うので、「はい、汗をかきましたので」。
「何をしてだ?」
「へ、部屋で素振りをしておりましたわ。昼食の後から、素振りをしておりましたので。はい」

 すると、アンナが、「ヴィル、ここから見えていたわ。あの茂みでアーマーを脱いでいたのも」
「……」
 皆が私の顔を見ている。
「み、見えていましたか?」

 バスティアーン様が「はい、最初からすべて」と仰るではないか。
「プレートアーマーは、散歩のふりをして回収する」と、伯父上さまが言うと、私は頷き、アーマーを入れる袋を取りに部屋に戻るのでした。

 そして、無事、プレートアーマーは回収し、伯父上さまの執事に部屋に届けてもらうことになった。
 しかし、バスティアーン様は上機嫌だ。

 この後、当然のように「部屋から出るな!」と言い渡されることに……
 このおきゃんが、部屋にじっとしていれるわけないじゃないですか!

 すると、私たちの方に、騎士団の上級騎士がこちらに歩いてくるではないか。
 領主の伯父上さまにご挨拶をするようだ。
「ご領主様に敬礼」と言ったのは、キルヒナー団長だ。
「ご苦労! グロスクレウツの諸君」と、伯父の言うグロスクレウツとは、上級騎士のことだ。
 その下が、コマンダー、リッターとなる。
 私は、三等級なのでリッターだ。

 何故か、グロスクレウツたちが、どことなく私を見ているような気がする。
 すると、その中の一人が「ヴィルヘルミーナ様は、先ほどはどちらへ?」と聞いてきた。
「部屋におりましたわ」
「そうですか? おかしいですね」
「どういうことですの?」

「はい、ヴィルヘルミーナ様がお持ちの『鍔が赤い剣』を持った者に、先ほどの紅白戦で斬りつけられまして。私は副団長のヴァッテンバッハと言います」

 お互いプレートアーマーを着ていたから分からなかったが、ふくらはぎを叩いてやった奴だわ。

「私の剣をご存じなのですか?」
「はい、部屋で素振りをしているのをお見かけましたので。赤い鍔など見たことがありませんから」とキルヒナー団長が答えた。
 こいつは、やはり始末しておくべきだったよ。
 しらを切り通せるのか?

 すると、バスティアーン様が笑い出した。
「もう、お互いに良いではありませんか」と。
「!?」
「公爵様、もう話してやりましょうよ」と、バスティアーン様は続けた。
「あぁ、ああ。そうだな。話してやってくれ。アンナ」
ということで、アンナの口を介して、この件が話された。

 グロスクレウツたちが、俯いている。
 三等級騎士、つまりリッターごときに蹂躙されてしまったからだろうか?

「ヴィルヘルミーナ様、何故、私を狙ってきたのでしょうか?」
「団長、やはり敵の大将に向かって進むのが騎士の役目なのでしょう」と、バスティアーン様がフォローを入れてくれたのだろう。
が、「いや、なんかムカつくので!」と言っておいた。

「いや、ヴィル!」と、アンナが軽く悲鳴を上げている。

「娘の件でしょうか?」と団長。
「娘も団長もだ!」
「なら、何も申すことはありません。決闘で解決いたしましょう」
「望むところですわ」と、答えるとバスティアーン様は、「いや、いや、こんな面白いお嬢さまは、初めて見ました。公爵様」

 いや、決闘と言っている側から、大笑いされると緊張感が抜けるんだよ。
 
 しかし、伯父の公爵は、このことに対し、ものすごく不満があった。
 オランダの貴公子が娘が五人もいる公国に来るということは、そう言うことではないの!
 つまり、婿探し!
 そう、この家は、女ばかりが五人だよ!


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