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第三章 プロイセン公国へ(失われた栄光のために)
3-16.紅白戦 その4
しおりを挟む「ご領主様、娘を冒涜されては黙ってはおられません」
「すまない。キルヒナー、儂の顔に免じて、ここは下がってくれないか。ヴィル、お前も先の話は撤回しなさい」
「……」と何も答えない私に対し、伯父上の怒りが私に向けられた。
「おい、ヴィル。いい加減にしなさい。元々は、お前がステラをいじめたからだろう。騎士たる者は『弱きを助け、強きをくじく』だ。それが騎士道精神と言うものなのだ。お前は、三等級騎士の称号を取ったそうだが、騎士の精神は学ばなかったのか?」
と、言われ、ぐうの音も出なかった。
「分かりました。すべて私が悪いのですわ。私が悪いのでしょう」と、年甲斐もなく、すねている感じになってしまった。
私は、常に「ご令嬢様」ということで、アインス商会でも、バート・メルゲントハイムでもVIP対応だった。
それが、伯父のところでは、身内として厳しく当たってくれる。
有難いことだ。
これは、有難いことなのだ……
ステラとは、性格的に合わなかったのだ。
たぶん。
そして、翌昼。
最後の紅白戦を騎士団が行うようだ。
アンナが、部屋から出れない私を紅白戦の観戦に誘ってくれた。
「お父さまの部屋から見れるわ」と。
しかし、断ることにした。
いよいよ、最後の紅白戦が始まる。
そして、白組の中に、あの伝説の『赤い鍔の剣』を持ったプレートアーマーの騎士がいた。
「ダーメ、今日は馬を持ち込みですか?」
「ええ、今日は敵大将の首を取りますわ」
わはは!
こんなこともあろうかと、金細工の師匠に合鍵づくりを習っておいて良かったわ。
ほとんどの部屋の合鍵は出来ているのだわ。ふふふ。
さあ、泣いても笑っても、最後の紅白戦。
触れれば切れるヤスミンの剣で行くわよ!
ラッパが鳴って、紅白戦の開始だ!
さて、私は、いつものように先陣を切って、突撃した?
いや、実は、三番手ぐらいの中ほどにいた。
そして、「騎兵突撃」の合図で前進する。
前列が、ぶっかったようだ。
私は、数人の騎兵に目配せをした。
すると、五人の騎兵が一列に前進する。
敵も味方も、驚いたようだ。
しかし、敵の目前で右に避ける。
やがて、時計廻りに戻ってきた。
???
敵に背を向けて、なにを?
そう、この模擬戦は弓がない、小銃がない。
だから、背を向けても撃たれないのだ。
「なんか白組、オレたち紅組を馬鹿にしてないか?」という空気が出来てきた。
そこに、もう一度、一列行進だ!
今度は、紅組も放置はしなかった。
時計回りに回る五人に対し、左側から追撃を始めた。
騎士は右手にランスを持つから、左側への攻撃が弱くなる。
だが、しかし!
左側を取ったため、この時計回りの逆を回っている騎兵が見えなくなっていたのだ。
そう、このヴィルヘルミーナと、その後ろの騎兵が見えないのだ。
最後列の騎兵を襲おうとした紅組の騎兵が、私の攻撃で落馬した。
今度は、私を追いかけてしまった紅組の騎兵は、一回りした五人に狩られてしまった。
二つの反対に回る円を攻略できない紅組。
そう、この戦い方は、騎士団が大敗を喫した、遊牧騎馬民族の戦闘のやり方の一つだ。
「学習しないんだねぇ。また、騎馬民族が来たら、どうするよ」
紅組が手をこまねいているので、戦い方を変えることにする。
今度は、騎兵が背を向けて自軍に帰っていく。
白組の指揮官は、困っているが、構うものか!
撤退だ!
「おい、撤退しているぞ!」
「追撃だよな?」
「そうだろう、行くぞ」
一列に撤退して行ったので、最後尾の馬を追いかける。
ところが、突如、馬が散らばった。
すると、馬の上には騎兵がいないでは!
「うわぁ」と紅組の騎兵が倒される。
なんと、馬に二人乗りをして、攻撃を仕掛けてくるでは!
一人が馬を操り、もう一人が攻撃に徹する。
役割分担をすると攻撃力が上がるというわけだ。
しかし、二人乗りをすると馬が疲れやすいので、休ませておいた馬に乗り換えることにする。
これは、先日の馬の胴体に張り付いた際に、思いついた。
騎馬民族が、このように飛び移るとか。
そして、馬の二人乗りは、ヤスミンとアンを助けに行った際のことをヒントにした。
そして、ヤスミンの作ったプレートアーマーが、軽いので動きやすい。
特殊合金とは、軽量化されたアーマーだったのだ。
そして、紅組の騎兵は本陣しかいなくなった。
この間のように、追いかけられることもない。
ゆっくり、馬を休ませながら、近づけば良いのだ。
「あのジャジャ馬め。上手くやりよって。副団長、迎え撃つぞ」
「はい、先日のような失態はしたしません」
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