57 / 126
第四章 ヴィルヘルミーナ、海へ!
4-3.ヴィルヘルミーナとヴィルマ その3
しおりを挟むさて、バスティアーン様の帰国の日が来た。
ヴィルマは騎士団へ、ヴィルヘルミーナは伯父上さまのところへ行きました。
と、なれば良いのだけれど、私は一人しかいない。
とりあえず、影響力の大きいヴィルヘルミーナとして、動くことにした。
また、「あのご令嬢、態度が悪い」とか言われそうだし。
そして、この日は、ご令嬢に変装!
何を言っているのだ?
いや、いつもより気合を入れて身支度をしたと言いたいのですわ。
だって、騎士団の騎士たちは、「ステラをいじめた」とか思っているようだし、外見も「目つきが鷹の眼のよう」とか言っている。
目いっぱい、可愛い感じにしてやる。
自慢は髪の毛しかないので、髪をとびっきり飾ってやったわ。
しかしだ。
あまり私が目立つと、また、印象が悪くならないか?
「バスティアーン様の気を引こうとしている」とか。
う~~ん、ここは、ほどほどが良さそうなのか……
そして、お見送りが始まった。
公爵の伯父上さまが、軽い挨拶をすると、馬車が到着した。
私は、アンナとマリーの横に立っていた。
結局はマリーも馬車に乗るようで安心したわ。
馬車の護衛には、キルヒナー団長とコマンダー(二等級騎士)が3名、リッター(三等級騎士)が10名が護衛するようだ。
すでに、街中には警備隊を配置している。
「本日の護衛団の紹介をします」と団長が言うと、各自名前を名乗って行った。
「コマンダーのリヒテルです。よろしくお願いします」
「リッターのヴィルマです。よろしくお願いします」
うん、ヴィルマちゃんも馬車の護衛に行くようだね。
いや、それって、誰やねん?
***
さて、馬車は、ケーニヒスベルク城から大聖堂の前を通り、港の港湾事務所へ向かう。
港湾事務所には迎賓室も用意しているからだ。
出発直前
「ヴィルマさん、警護、頼みますね」と、若い一般兵が声をかけていた。
「ああ、任せてくれ」と、ヴィルマが手を振っている。
さて、馬車の中では、「公爵様、今回は、ありがとうございました。楽しかったです」と、バスティアーン様。
「それは、楽しんでもらえて良かったよ」
「本当ですわ」と、アンナ。
マリーは頷くだけだった。
私は、なんて言えば良いのかな。
すると、バスティアーン様から、「ヴィルヘルミーナ様がよろしければ、いつでもオランダに来てください」
「は、はい?」
それは、遊びにでもなの? それとも、嫁、嫁にってこと?
***
数日前のこと、ヤスミンがエマリーに「バスティアーン様というオランダ貴族が、ヴィルお嬢さまに気があるかも」と報告したようだ。
エマリーの反応は、「ダメぇ! 絶対ダメ! ミーナちゃんは次期領主になっていただかないと、我が商会のピンチなの」だそうだ。
まあ、バスティアーン様は跡取りだしな。
ということで、エマリーもケーニヒスベルクに来るというのは、その辺りの妨害工作らしいが、間に合わなかった様だ。
ふふふ。
***
馬車に話は戻って。
マリーが車窓を眺めている。これは、すねているわ。
返事に困った私は、要らぬことを言ってしまった。
普段、口数が少ないくせに……
「オランダは、スペインとどうなりましたの? 独立をしたとお聞きしましたが」
このことで、一気にバスティアーン様はの顔色は悪くなった。
政治のこと等、口にするべきではなかったのだろう。
「やはり、気になりますか? スペインが領地に攻めてくる可能性もあります。その時は、我々は戦う覚悟です」
そう、1月にユトレヒト同盟によって、ネーデルランド北部七州が独立宣言をしたが、スペインが認めているわけではない。
実際に、ネーデルランド北部七州が独立するには、1648年のヴェストファーレン条約を待たなくてはならない。
いわゆるオランダ独立八十年戦争は、今も続いている。
港に着くと、バスティアーン様の領地の帆船が数隻、停泊していた。
「公爵様、ありがとうございました。ヴィルヘルミーナ様、いつでも来てください」と言って、船に乗り込んで行った。
まあ、二度と会うこともないだろう。
彼は跡取りらしいし、戦争中の領地に行きたいとはさすがに……
しかし、この船に、すぐに出くわすとは、この時の私は思いもしなかったのだ。
さて、護衛団を見ると、ヴィルマと眼があった。
「さすがに銀貨だけでは、今回は足らないかな」
「伯父上さま、折角ですから、街を見てもよろしくて? 最近、街を見ていないので」
「護衛もなしにか?」
「では、リッターをお借りしますわ」と言うと一目散に、ヴィルマのところに行き、連れ去って行った。
「良いのですか? こんな強引な感じで」
「ダメでしょう。普通は」
「ヴィルお嬢様だから、良いと?」
「ヤスミン、よく言うわね」
そう、実は、ヤスミンをこっそり城に呼び、ヴィルマに化けてもらっていた。
低音の話方はヤスミンをまねていたのだから、分かりづらいだろう。
ただ、ヤスミンの方が、丁寧な話し方だと思うわ。
だって、彼女は紳士ですから。
そして、着いたのはアインス商会の営業所だ。
中で、ヴィルマの姿に着替えて、ドレスは後で城に送ってもらうことにした。
「私が、街で買い物をしたので、アインス商会の営業所から届く」と、城の門番に伝えておくのだ。
「では、ヤスミン。行ってくるわ」
「はい、剣は出来次第、お持ちします」
「お願いね」と言うと、私は馬で城までかけて行った。
「ヴィルマさん、お帰りなさい。お嬢様は?」
「大丈夫、今、お部屋に戻っておられる」と、言うと部屋の灯りがともされた。
これが銀貨の力だよ。
そして、着替えて、伯父上さまに「ただいま戻りました」と報告する。
伯父上さまは、何か言いたそうだが、今日はこれにて失礼いたしますわ。
さて、数日後には、エマリーがここに来るですって。
もう、ジッとしていられないわ。
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クロワッサン物語
コダーマ
歴史・時代
1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。
第二次ウィーン包囲である。
戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。
彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。
敵の数は三十万。
戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。
ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。
内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。
彼らをウィーンの切り札とするのだ。
戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。
そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。
オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。
そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。
もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。
戦闘、策略、裏切り、絶望──。
シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。
第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる