握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

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第四章 ヴィルヘルミーナ、海へ!

4-3.ヴィルヘルミーナとヴィルマ その3 ​

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 さて、バスティアーン様の帰国の日が来た。

 ヴィルマは騎士団へ、ヴィルヘルミーナは伯父上さまのところへ行きました。
 と、なれば良いのだけれど、私は一人しかいない。

 とりあえず、影響力の大きいヴィルヘルミーナとして、動くことにした。
 また、「あのご令嬢、態度が悪い」とか言われそうだし。

 そして、この日は、ご令嬢に変装!
 何を言っているのだ?
 いや、いつもより気合を入れて身支度をしたと言いたいのですわ。

 だって、騎士団の騎士たちは、「ステラをいじめた」とか思っているようだし、外見も「目つきが鷹の眼のよう」とか言っている。

 目いっぱい、可愛い感じにしてやる。
 自慢は髪の毛しかないので、髪をとびっきり飾ってやったわ。

 しかしだ。

 あまり私が目立つと、また、印象が悪くならないか?
「バスティアーン様の気を引こうとしている」とか。
 う~~ん、ここは、ほどほどが良さそうなのか……

 そして、お見送りが始まった。
 公爵の伯父上さまが、軽い挨拶をすると、馬車が到着した。

 私は、アンナとマリーの横に立っていた。
 結局はマリーも馬車に乗るようで安心したわ。

 馬車の護衛には、キルヒナー団長とコマンダー(二等級騎士)が3名、リッター(三等級騎士)が10名が護衛するようだ。
 すでに、街中には警備隊を配置している。

「本日の護衛団の紹介をします」と団長が言うと、各自名前を名乗って行った。
「コマンダーのリヒテルです。よろしくお願いします」
「リッターのヴィルマです。よろしくお願いします」

 うん、ヴィルマちゃんも馬車の護衛に行くようだね。
 いや、それって、誰やねん?

***

 さて、馬車は、ケーニヒスベルク城から大聖堂の前を通り、港の港湾事務所へ向かう。
 港湾事務所には迎賓室も用意しているからだ。

 出発直前

「ヴィルマさん、警護、頼みますね」と、若い一般兵が声をかけていた。
「ああ、任せてくれ」と、ヴィルマが手を振っている。

 さて、馬車の中では、「公爵様、今回は、ありがとうございました。楽しかったです」と、バスティアーン様。
「それは、楽しんでもらえて良かったよ」
「本当ですわ」と、アンナ。
 マリーは頷くだけだった。

 私は、なんて言えば良いのかな。

 すると、バスティアーン様から、「ヴィルヘルミーナ様がよろしければ、いつでもオランダに来てください」
「は、はい?」
 それは、遊びにでもなの? それとも、嫁、嫁にってこと?


***

 数日前のこと、ヤスミンがエマリーに「バスティアーン様というオランダ貴族が、ヴィルお嬢さまに気があるかも」と報告したようだ。

 エマリーの反応は、「ダメぇ! 絶対ダメ! ミーナちゃんは次期領主になっていただかないと、我が商会のピンチなの」だそうだ。
 まあ、バスティアーン様は跡取りだしな。
 ということで、エマリーもケーニヒスベルクに来るというのは、その辺りの妨害工作らしいが、間に合わなかった様だ。
 ふふふ。

***

 馬車に話は戻って。

 マリーが車窓を眺めている。これは、すねているわ。
 返事に困った私は、要らぬことを言ってしまった。
 普段、口数が少ないくせに……
「オランダは、スペインとどうなりましたの? 独立をしたとお聞きしましたが」

 このことで、一気にバスティアーン様はの顔色は悪くなった。
 政治のこと等、口にするべきではなかったのだろう。

「やはり、気になりますか? スペインが領地に攻めてくる可能性もあります。その時は、我々は戦う覚悟です」

 そう、1月にユトレヒト同盟によって、ネーデルランド北部七州が独立宣言をしたが、スペインが認めているわけではない。
 実際に、ネーデルランド北部七州が独立するには、1648年のヴェストファーレン条約を待たなくてはならない。
 いわゆるオランダ独立八十年戦争は、今も続いている。 

 港に着くと、バスティアーン様の領地の帆船が数隻、停泊していた。

「公爵様、ありがとうございました。ヴィルヘルミーナ様、いつでも来てください」と言って、船に乗り込んで行った。
 まあ、二度と会うこともないだろう。
 彼は跡取りらしいし、戦争中の領地に行きたいとはさすがに……

 しかし、この船に、すぐに出くわすとは、この時の私は思いもしなかったのだ。

 さて、護衛団を見ると、ヴィルマと眼があった。
「さすがに銀貨だけでは、今回は足らないかな」

「伯父上さま、折角ですから、街を見てもよろしくて? 最近、街を見ていないので」
「護衛もなしにか?」
「では、リッターをお借りしますわ」と言うと一目散に、ヴィルマのところに行き、連れ去って行った。

「良いのですか? こんな強引な感じで」
「ダメでしょう。普通は」
「ヴィルお嬢様だから、良いと?」
「ヤスミン、よく言うわね」
 そう、実は、ヤスミンをこっそり城に呼び、ヴィルマに化けてもらっていた。
 低音の話方はヤスミンをまねていたのだから、分かりづらいだろう。
 ただ、ヤスミンの方が、丁寧な話し方だと思うわ。
 だって、彼女は紳士ですから。

 そして、着いたのはアインス商会の営業所だ。
 中で、ヴィルマの姿に着替えて、ドレスは後で城に送ってもらうことにした。
「私が、街で買い物をしたので、アインス商会の営業所から届く」と、城の門番に伝えておくのだ。

「では、ヤスミン。行ってくるわ」
「はい、剣は出来次第、お持ちします」
「お願いね」と言うと、私は馬で城までかけて行った。

「ヴィルマさん、お帰りなさい。お嬢様は?」
「大丈夫、今、お部屋に戻っておられる」と、言うと部屋の灯りがともされた。
 これが銀貨の力だよ。


 そして、着替えて、伯父上さまに「ただいま戻りました」と報告する。
 伯父上さまは、何か言いたそうだが、今日はこれにて失礼いたしますわ。


 さて、数日後には、エマリーがここに来るですって。
 もう、ジッとしていられないわ。
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