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第四章 ヴィルヘルミーナ、海へ!
4-17.さらばプロイセン公国 その2
しおりを挟む赤い目のカラスは、とある屋敷に入っていった。
「あぁ、ベルツはダメだったか」と、女主人は言ったが、端から期待していないようだった。
さて、ステラを初め、取り調べが始まったようだ。
まずベルツは、主犯者なので死刑になるが、『賢い女たち』のメンバーのようだ。
自宅から、他のメンバーとの手紙のやり取りが見つかった。
続いてステラだが、加害者でもあり、被害者でもあるということで、罰せられはしないが城仕いは、お役御免となった。
また、一度、催眠術にかかった者は、二度目はかかりやすいということで、しばらくの間は、役職から退くことになる。
心身の鍛練とかの名目でしごかれるらしい。
キルヒナー団長は、団長を辞退するようだ。
かなり強い催眠術だったようで、後遺症があるとのことだ。
気の毒ではあるが、準男爵位は、これまでの功績で、剥奪されることはなかった。
城の中は、そんな感じだ。
エマリーたちは、あの後も無事で、アインス商会にいる。
しかし、そろそろ帰るらしい。
うん、私も帰ろうと思う。
エマリーの船に乗せてもらおうかと思うけれど、また、海賊に襲われることはないのか?
ちょっと心配だ!
さて、私の出立の日が決まり、気になることは、私の悪評だ。
ステラをイジメていたということだけれど、その話は聞かなくなった。
理由は、今の使用人のクリスタと上手く行っていること。
それと、ステラが犯罪に加担したということで、「あれは、ステラが大袈裟だったんだよ」ということになっているようね。
なんと言っても、クリスタと仲良くお菓子を作っているので、付き合いづらいお嬢様ではない。
寧ろ“珍しいぐらい愛想の良い人”だそうだ。
それは良いとして、もうここもオサラバするのだ。
上級騎士しか知らなかったダーメ・ヴィルマの正体を明かして帰ろうと思う。
お世話になったお礼もするということで、クリスタと話し合った。
その日は、出立の三日前だった。
私は、アンナとマリーを厨房に呼んだ。
厨房と言うより台所だ。
実は、城には、何か所も調理できる場所がある。
そこに炭を持ち込み、調理する。
煤が広がらないように、気を付けないといけないが便利なのだよ。
いつも、そこでクリスタとお菓子を作っているので、二人が仲が良いと知られているわけだ。
そして、今日はアンナとマリーも来てもらった。
マリーが、お菓子作りに興味がありそうなのだから。
さて、出来上がったクッキーは、騎士がいる館の食堂に私たち直々に運び込んだ。
「何故、お嬢さまがここに?」という感じだ。
ここは、アンナに説明をお願いした。
「皆さん、聞いてちょうだい。ここにいるヴィルヘルミーナ嬢が帰国します。そこで、お世話になった皆さんに、お礼がしたいと言うことで、お菓子を焼いてくれました」
すると、皆が驚いている。
そんな、客人はいないだろう。
「皆さん、ありがとう。三日後に帰国します。お世話になったお礼に、私たちで焼きましたので、食べてください。アンナとマリーにも手伝って頂きましたわ」
と言うと、もう、ヴィルマになることもないし、「死んだのでは」と探されても困るので、アップにしていた髪を解き、そして後ろで束ねて、バンダナを髪の上から結んで、髪で顔の半分を隠した。
化粧はしているが、分かるだろう。
私がヴィルマだったと!
食堂の騎士、兵士、使用人が固まっている。
そして、ざわつき始めた。
なので、低音で話すことにした。ヴィルマの口調で。
「ふふ、みんな、世話になったわね。私は故郷のラインラントへ帰るわ。元気でね」
「ヴィルマ姉さん……」
「ビアンカ、身体に気をつけて。無茶はダメよ」
すると、アンナが「さあ、食べましょう」と、気を利かせてくれた。
マリーも、初のお菓子作りで興奮気味だ。
かくして、食堂は、和気藹々と時間が過ぎていった。
それを執務室から、伯父上さまと執事が、「なんだろうか」と眺めていた。
翌日
ビアンカたち騎士たちは、「もうヴィルマは来ないだろう。
だから、昨日、正体を明かした」と思っていた。
すると、
「どおぉ」と、馬を走らせてきた女騎士は、ヴィルマだ!
「今日は行軍だろ、共に駆けるぞ」
「えっ、ヴィル……」
「ヴィルマだ。ここではヴィルマで頼む」
「良いのですか?」
「なにが? ともに駆けよう。ビアンカ」
「はい、ヴィルマ姉さん」
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