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第四章 ヴィルヘルミーナ、海へ!
4-16.さらばプロイセン公国 その1
しおりを挟むその後はアンナたちが来て、騎士団で取り調べるようだ。
しかし、取り調べ担当のコマンダー・リヒテルたちが無事ならばの話だ……
この事件の次の日、私は騎士団は休暇だったので、使用人エラに変装して、マリーの部屋にいた。
いつもの水の取り換えなのだけれど、従妹の排せつ物を処理する羽目になろうとは。
トホホ!
まあ、“おまる”で良かったよ。
貴族の中には、高価な尿瓶で排泄することもある。
そして、スカートを重ね着し過ぎて、自分では処理できないので使用人がナニを行う場合もある。
特に、フランスは気候も良いのか、庭で立ったままご婦人が排泄をなされる。
フランスは、ご存じの通りトイレが城や宮殿にもない。
さて、ドイツは山城や川沿いに城が立つことが多い。
そこが防衛の拠点になるのはもちろんのこと。
ですが、そこに城を建てるとトイレも便利になるのですなぁ。
城の壁に出っ張りがあるのが、実はトイレなのですわ。
その出っ張りの下に穴が開いており、そこから排せつ物が流れて行くようになって行くわけね。
その穴の下が、森だったり、川だったりと誰もいないところで、しかも流されていくので、そちらに向けてトイレを作っているのでしょう。
大陸ではそんなことをしている頃、イングランドでは、この16世紀に、水洗トイレが完成する。
日本でも戦国大名が水洗トイレを使っていたので、水洗トイレの発明時期なのだろうか?
イングランドの水洗トイレは「ジョン」と呼ばれ、エリザベス女王に献上されるが、臭いやら音やらの問題があったようだ。
臭いは、下水管をまっすぐから、Uの字にして解決!
しかし、流れる音が大きくて、夜、流せないので、普及しなかった。結局、水洗トイレが普及するには200年以上かかるという。
そんなことを考えながら、マリーの糞を糞貯めに処理!
そして、尿瓶を“おまる”にセットして、この日の仕事は完了ですわ。
この後は、手を洗って、日光でシッカリ消毒したら、クッキーを作りましょう。今頃、クリスタが材料を調達してくれているはずだわ。
「ねぇ、エラ。この後は何をなさるの?」と、マリーが聞いてきた。
嘘も浮かばないので、「クッキーを他の使用人たちと作ります」と答えたら、マリーがこちらを向いて、何か言いたそうにしている。
言いたいことを上手く言えないような感じですわ。
まあ、立場上、言えないことも多々ある。
「お菓子作りとか、楽しそうね」
ほうほう、マリーは、お菓子作りとかしてみたかったのか。
公爵令嬢だからと言っても、いつも刺繍とかしておられんわな。
部屋に戻ると、いつもよりクリスタの機嫌が良いのが分かった。
「どうしたの?」と聞くと、「お嬢さまが、昨日初めて、私の名前を呼んでくれたので、うれしかったのです」
それは、すまなかった。
知らなかったもので。
***
さあ、手を洗ってクッキーを作ろう!
しかし、この時代、石鹸は普及していなかった。
水で洗うのも、時にタブーなのだ!
特に貴族の間では。
なので、貴族は臭くて汚い。
それには、理由があった。ペストだ!
実は、何世紀にも渡り、ペストに苦しめられてきたにも拘らず、原因がネズミだということが判明していなかった。
なので、空気感染する。水から感染する。
と言う推測で空気を香水の匂いで香らせることでペストが防げるとか、水に触れずにいたら、感染が防げると思いこんでいた。
そのため、清潔にするには、どうすれば良いか迷走していたのが、この16世紀ごろなのだ。
水に触れたらペストに感染するのなら、古代ローマの浴場などは、ペストだらけではないのか?
石鹸もない、水も危ないので、ここだけの話、私はブランデーで手を洗い消毒している。
ブランデーも色々あり、原液はアルコール度数が70%以上ある。
飲む場合は、度数を40%ぐらいにして、減った香りや味は、うんちくで誤魔化している。
そのうんちくで価格が変わっているようだが、消毒用酒はそんなものはない。
あと、消毒だけなら、ラム酒が安くて良いかもしれない。
本来、捨てていた糖蜜で作っていたので、とても安い。
酒としては、味がイマイチなので、うんちくの部分を頑張らないといけない。
船乗りたちは、砂糖を入れるらしいが、砂糖を作る際、捨てる糖蜜で酒を造り、それに砂糖を入れるって、なんかおかしくないか?
さて、少しブランデー臭いクッキーが出来たわ。
でも、良い香りで上出来ね!
アンナにおすそ分けして、皆に食べて頂きましょう。
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