73 / 126
第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-1.ダイナマイトでドカン
しおりを挟む多くの人に見送られ、私の乗る帆船は、ケーニヒスベルクの港を出港することになった。
思い出の詰まった街並み、大聖堂とケーニヒスベルク城は、他の街と比べても引けを取らないぐらい美しいと思う。
しかし、この美しいケーニヒスベルク城も20世紀になると、ソ連がダイナマイトで破壊してしまった。
そして、破壊した後には、奇妙奇天烈なビルが建っており、とても優雅で気品のある城跡とは言えない。
その証拠に、知事からは「街の恥。撤去しなくてはいけない」とまで言われているようだ。
さて、私たちは、このバルト海をコペンハーゲンを通り、デンマークの最端の岬のスカーイエンを通り、ロッテルダムへ行く予定になっている。
ロッテルダムにアインス商会の支店があるようだ。
ロッテルダムは、ライン川の下流になるので、ここから陸路で帰宅するのも良し、ボン辺りまで、船で上っても良しだ。
「私たちは、ロンドンとエディンバラに行く用事があるのだけれど、ミーナちゃんはここから帰るでしょう」とエマリーが聞いてきた。
「エディンバラ?」
この街の名前に、何かピンとくるものがあった。
無論、知り合いなどいないし、街の事情を知っているわけでもない。
ただ、スコットランド王がフランスの傀儡となっているのは知っていたので、きっと廃れた街なのだろうと思っている。
それと、行くなら、今後、チャンスは無いと思う。
領地に引きこもって、帝国の行事に出る程度だろう。
「エマリー、私も行きたいわ」
「危ないわよ」
「そうなんだ……」
「帰るなら、うちの商隊が護衛できるけど」
「でも、行きたい。行かないといけないような気がする」ということで、私もエマリーの商売の見学をすることになった。
なので!
また、変装をする。
女水夫に変装できるように、一式買っておきましたよ。
あまり、女性がズボンを履くのは、特別な事情が無いとありえない時代だ。
女がズボンを履くと男装に見られるからで、またも「悪魔的」らしい。
ヤスミンもズボン姿が多いが、鍛冶屋の仕事は火を使うので、スカートだと引火することを防ぐために、ズボンにしているとのこと。
ズボンに革のエプロンの様なもので作業しているわ。
さて、私は女水夫に変装して、いたるところに潜り込んで、仕事を見学していく。
「それ、やらせてちょうだいな」という見学があるのかどうかはわからないけど、少しは船が動く仕組みが分かってきたような気がする。
そして、この船は近海航行をしているので、あまり食料には問題がないのだけれど、遠洋航海は水と食料は大きな問題だと聞いている。
いわゆる、壊血病だ。
歯ぐきから血が出始めると、あれよあれとと身体がおかしくなっていく。
ビタミンC不足と判明するまで、様々な仮説が立てられた。
「酸味が解決するのでは?」と言う仮説が有名だ。
イギリス的解決策が、“レモンとライム”だ。
21世紀ではレモンとライムではライムの方が高かったりする場合もあるが、16世紀では、レモンは高価だったのでライムを支給する。
ライムとラム酒のカクテル、“グロック”は、発案したグロッグ提督の名前から拝借している。
ライムはレモンよりビタミンCは少ないのだけれど、壊血病には治療が出来るぐらいの効果がある。
一方、ドイツ的解決策は酢だ!
酢の酸味は酢酸なので、クエン酸の接種には良いのだけれど、ビタミンCはない。
だが、ザワークラウト、つまりキャベツを酢に漬けていたので、若干、ビタミンCがキャベツに含まれており、壊血病の発生を遅らせることは出来たようだが、治療には至らなかった。
なので、1か月に1度は陸に上がり、陸の食事をさせる必要があった。
おそらくドイツ系の国家が大航海時代に遅れたのは、これも原因の一つかもしれないと思う。たぶん。
まあ、この船は近海を通ってきているので、陸で食事もとれている。
が、お昼は水夫として、食事をすると、かの有名な塩肉だった。
塩肉と固パンだ。
それだけだ。
野菜?
ヨーロッパでは基本的には食べない。
果物は貴族や裕福層が食べる。
地べたや地中の中に出来るものは、食べてはいけないという風習があり、地上より上に出来る果物などを食べるのである。
イタリアはトマトが有名になるけれど、最初は果物として、この時代に入って来たのだ。
だから、ザワークラウトは庶民の食べ物なのだな。
あと、海の上だから、魚を食べるというのは、近海にいる時だけだ。
遠洋では、釣りなど、そんなことをしている暇が無いし、船の速度も速いので魚が追い付けない。
また、魚が豊富にいる海域でしか、釣れないということね。
まあ、しいて言えば、亀を食べる。
ウミガメだ!
21世紀では絶滅危惧種だそうで。
我々、16世紀人が、食べ過ぎたのか?
そのウミガメは、まあ、味は肉だ!
マグロを捕まえるより、簡単で、そこそこの味をしているから、海の男達に好まれている。
17世紀のイギリス人が世界中の食の本を出してヒットし、21世紀ではマンガにもなっているようだけれど、ろくな死に方をしていないのは、変なものばかり食したせいだと思うわ。※1
※1 ウイリアム・ダンピア 『ガリバー旅行記』の冒頭に出てくる従兄弟のダンピアは、この人。
無一文、有罪判決、海軍解雇など、さんざんな人生を送り、最後の冒険で成功を収めるも、分け前を分ける前に死亡。植物学に多大な影響を与えた海賊。
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クロワッサン物語
コダーマ
歴史・時代
1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。
第二次ウィーン包囲である。
戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。
彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。
敵の数は三十万。
戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。
ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。
内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。
彼らをウィーンの切り札とするのだ。
戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。
そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。
オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。
そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。
もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。
戦闘、策略、裏切り、絶望──。
シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。
第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる