握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

文字の大きさ
78 / 126
第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成

5-6.見つける

しおりを挟む

 ロンドンに向かっていた小型船も戻ってきた。
 そこには、イリーゼがいた。
 どうやら、ロンドンにいたようだ。

 なんと、恐ろしい13歳。いや、もう14歳になっているだろう。
 海外出張をする14歳か……

「エマ姉さん! お嬢さまが船に乗っているって聞いたのですけれど、本当なの」
「ええ、本当よ」
 その時、私は、日課をこなしていた。
 
 この頃の私は、閉じ込められた海兵を、午前中掛けて、あらゆる手段でいじめるのが日課だった。

 そして、売ってしまう連中に、「食事は無駄な経費」ということで、死なない程度に食事を抜いていた。
 塩と水があれば良し!
 むしろ、貴重な水を分けてやっているのだ。有難いと思え!

 そう、基本的に、腐りやすい真水は保存がきかないのだ。
 なので、ビールやラム酒など腐りにくい酒で保存する。
 ラム酒1に対し、水を4の割合。
 これがイギリス海軍の配合なのだな。

 そして、シッカリ食事をして体力を付けられても、あつかいに困る。
 適度にくたばってもらわないといけない。
 いつも、だるくてしんどい位が適度と言うものだ。

「お~い、海兵の皆さん。お、お、オートミールだわ。美味くはないが腹の足しにはなりますわ。おほほ」と、彼らの前で食す。
 海兵は下を向いてばかりで、相手にしてもらえないのだ。
 明日は、どうやって虐めてやりましょうかね?

 バラストの中にいる黒いカサカサを集めて、部屋に放り込んでみましょうか? 
 そして、あの黒いカサカサって人の皮膚も食すので、よろしくないのですわ。※1


 さて、日課も終わり、甲板に上がると、イリーゼが駆けてきた。
「お嬢さま」
「おお、イリーゼ。ウィーンの一件以来だね。あの時は助かったよ」

 話を聞くと、会計のことでロンドン支店に来ていたようだ。
 大陸と英国では会計の仕方が違うらしい。
「ふ~ん、聞いてもわからないわ」

 さて、本船は、エディンバラまで三日程度で到着する。
 その間、貞子としては、海兵とどう遊ぼうかしらね。


 本船がエディンバラに着く頃には、海兵の相手は飽きてしまい、日課をこなすことが無かった。

 そして、今日は陸に上がるので、貞子スタイルでなく、令嬢として正装をしていた。
 とはいえ、使用人がいないので、あまりうまく着れたとは言えないですね。

 うむうむ。

 さて、船がエディンバラに近づくと、出港する船、入港する船が数隻見えてきた。
 彼らがどこへ行くのだろうかと思うと、何故か楽しく感じてきたわ。

 その船と船の間を、信じられないスピードで移動しているセーリングヨットを発見した。

「エマリー!」
「えっ、え、え、えぇぇ」
「危なくないの?」と、イリーゼが言うように、余程、訓練したものであろうことは一目瞭然だった。

 そして、そのヨットを操っているのが、普段着の女だ!
「街でお買い物ついでに海に来ました」とでも言おうか……

「ヤスミン、あの娘は商船に花を売っているわ」
「売れるのでしょうか?」
「さあ……」と、皆が首をかしげている。

 そのヨットの娘というと!
「花の使い道は色々あります。保水力の高い種は、腐らない水として、もし、事故があった場合は、ご遺体と水葬にも使えます」などと説明をしている。

 そして、売れた……
 花が魅力的なのだろうか?
 いや、この娘が若くて可愛いから、男たちが買ったのだろう。
 そういうことはよくあることだ。
 そう、よくあることだ!

「私は、ローズマリー! 城壁の外で花屋をしていますので、良かったら来てくださいね」と、言って次の船へと移動する。

「あッ、エマ姉さん。こっちに来るわ!」
「ほんまや、どうする?」
 そう、可愛い美少女が、ニッコリ笑って大きく手を振っている。
 これは、男なら悪い気はしないわな。

 それは、周りの水夫たちを見ればわかるわ。


※1 ふなむしは、人の皮膚を食べますので、海岸で寝ないように。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クロワッサン物語

コダーマ
歴史・時代
 1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。  第二次ウィーン包囲である。  戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。  彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。  敵の数は三十万。  戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。  ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。  内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。  彼らをウィーンの切り札とするのだ。  戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。  そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。  オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。  そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。  もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。  戦闘、策略、裏切り、絶望──。  シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。  第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...