握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成

5-5.売る

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 ヤスミンがコンパニオンから出てきた。
「素晴らしいッ。これは榴弾だ。どこで手に入れたんだ?」と言っている。

 前回、「この時代の大砲は、鉄の弾を飛ばしているだけ」と言ったが、どうやら、この大砲は違うらしい。

 弾の中に金属片を仕込んで置き、敵の頭上で破裂するようにしているようだ。
 船を沈める物かどうかは分からないが、甲板員はたまったもんじゃない。
「ヤスミン。これは船を沈めることが出来るの?」と、聞いてみた。
「もちろんです。着地点での爆裂も破壊力が高いです。素晴らしいです」

 う~ん、『素晴らしい』らしいが、海兵どもは、その素晴らしい弾の
おかげで血を流し苦しんでいる……

 一方、エマリーは、水夫たちの負傷状況を確認しているようだ。
「ケガはない?」とか言っている。

 その傍ら、海兵たちは右往左往している。
「もう一撃、大佐の船にあたると沈むのだけれどもなぁ」と、邪なことを考えていたら、猛スピードで黒い船が突っ込んできた。

「なになに? 突っ込んでくるやないの? あの船が」と、エマリーも慌てふためいている。

 そんなことお構いなしだ。
  黒い船に停まる気配などない!

“バカアーーーン”
“バキバキバキィィィ”
 それは、耳をつんざく爆音だった。
 甲板にいる者は、ポップコーンのように、はじけ飛んでいる。

――ああ、腹ばいにしていて良かったよ。

 なんと、黒船はキールで大佐の船を真っ二つにして、沈めてしまった。
 まるで、ヴァイキングアタックだ!

 そして、黒い船たちは、アッと言う間に水平線に消えて行ってしまった。
 皆が呆気に取られている。

 大佐は、どんな顔をしているのだろうか?
 涙目か?
 それとも怒りか?

「オーナー、逃げた海軍艦を追ってくれ。これでは帰れん」と、大佐は顔を真っ赤にしていた。恥か?

 すると、エマリーは、大きくため息を付いた。
「ふっぅ」

 そして、話し始めた。
「大佐殿は、分かっていないようですね。今、この船にいる戦闘員と海兵の数。どちらが多いのかということを」
「オーナー、何を言っている。おかしなことをすると逮捕するぞ」

「おかしい? 商売はなぁぁ。パワーなんやで。おわかりか? 大佐、ど、の!」と、ケタケタと笑っている。
 エマリー、怖いな。この女は。
 まあ、私も加勢してやるか!

 さて、大佐をはじめ12人ほど捕まえ、縄をかけた。
「どうするつもりか?」と、大佐がエマリーに問うた。
「奴隷として売る。以上! 終わり! 皆、持ち場に戻って、解散ん!」

 人さらいに奴隷貿易がまかり通っている時代なのだ。本当に売りさばいても、おかしくはないが、誰に売るのだろうか?
 それとも、単なる脅しなのか?

「オーナー、脅しても通用しないぞ」と、海兵が騒いでいる。

「おっほん。海兵の諸君。この船はエディンバラに行き、その後はアイルランドのウール王国に行くのよ。おほほほほ」と言うエマリーの一言で、海兵たちは青ざめた。
「マジかよ」と。

 そう、そこは、アイルランド島の中でも、最も反イングランド体制を取るウール王国だからだ。

 そこでなら、海兵は売れる。
 情報に、労働に、そして、新大陸開拓を急ぐスペインにも奴隷として売れる。

「お前たち……それは、我が国と敵対勢力と両方に商売をしていたということか」
 まあ、そうなんだろうな。
 だから、アインス商会が、こんなにも儲かっているのだろうと思うわ。
 だからどうしたというのだ?

「そう、だから口封じに、殺すか? クレア島のオマリーに売るか? の二択しかなかったのよ」

 なるほど、まあ、私もいつまでも“貞子の真似”をしているのも疲れたので、もう二足歩行をするよ。

 すると、「ひぃぃ」と、海兵が悲鳴を上げているわ。

 隣では!
「掘り出し物をゲットーッ!」と、エマリーがほほ笑んで、ご満悦の様子。
 やはり、海兵は売るのね……

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