握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

文字の大きさ
76 / 126
第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成

5-4.海軍が商船を襲って良いのなら、商船が海軍を襲っても良いではないか!

しおりを挟む

「キャプテン、正面に海軍が商船を襲っています」
「海軍が商船を襲って良いのなら、逆もしかりではないか。ヨーゼフよ」
 ヨーゼフと呼ばれる若い男が、キャプテンと呼ばれる黒ずくめの大男と会話をしていた。

 何のことは無い。

 私たちの船がイングランド王国の海軍船三隻に停められていたからだ。
「よし、副キャプテン。助けてやろうじゃないか。商船を」
「キャプテン」と言うと、副キャプテンは苦笑していた。

「よし、正面の半カルバリン砲は海軍のメインマストを、カルバリン砲は艦首を狙え。ここなら、誰も死なん」と、副キャプテンが船員に指示をしている。
――ただし、トイレは壊れるが……とは、さすがに付け加えなかった。

「黒船海賊団、全速前進!」と、キャプテンこと、バーナー・シュバルツが叫んだ!
 彼の切れの良い低音が、船全体に響く。

 やがて砲撃が始まり、海軍のマストが吹っ飛んだ!

 そのまま、猛烈な勢いで突っ込んでくる五隻の黒船に海軍も怖気づいたか、動けずにいた。
 そして、運が悪かったのか、砲弾が大佐の船に直撃した。

 さて、この時代の帆船が砲撃の弾の直撃を食らうとどうなるのか?
 船員が爆発に巻き込まれるという20世紀前後の艦隊戦とは違う。
 木製の船に向けて、鉄の塊を飛ばしているだけなのだ。
 弾に当たらなければ良い?

 いや違うのだ!

 木片が飛び散り、それに被弾し死ぬのだ。

「キャプテン、やってしまいましたぜ」
「ああ、仕方がない。なら、沈めてやれ」
「了解です」

「マリーネ」と、キャプテンはマリーネという金髪を三つ編みにした小柄な女を呼んだ。
 実は先ほどのヨーゼフの姉にあたる。

「はい、キャプテン」
「マリーネ、あの商船に見覚えはないか?」
「おそらく、帝国のアインス商会だと思います。ドーバー、ロンドンに支店や営業所がありますので、その往来かと」
「ありがとう、マリーネ」


***


「うわぁ、幽霊が這い出てきたぞ」
「本当だったんだ。女騎士の幽霊は」

 なんだ?
 女騎士の幽霊とは?

 その時、エマリーと眼があった。
 これは、何かを企んでいる顔だな。このまま続けろと言っているように感じるわ。

 なので、甲板を這うように、おどろおどろしく海兵に詰め寄った。
「だ、だぁれがぁ、ゆう、れい、だ、てぇぇぇ」と言うと、海兵の足首を掴んでやった。
 次の瞬間、当然、その海兵は悲鳴を上げて歩行が出来なくなったのは、言うまでもない。

 すると、砲撃の音が聞えた。
“ドーーン、ドーーン、ドーーン”

 その音が聞こえて、数秒後、大佐の船に直撃した。
 まずは、マストに当たり、「く」の字に折れ曲がった。

「あぁぁ、これはダメだわ。他の船にけん引してもらうかね?」と、悠長なことを思っていると、次は、船体に直撃した。

“ボカーーン”と言う音と共に、船体の木片が飛び散り、煙も広がり、これが惨事だということが分かった。
 この木片が、海兵たちに突き刺さる。

 そして、私たちの船の上にも、小さな木片が飛んでいる。
 この時、幸いにも私は甲板を這いずり回っていたため、身を低くし、しかも鎧で武装していたため、小さい木片が飛んできても刺さることは無かった。
 そして、ゆっくり顔を上げると、一人の海兵が、背中から手すりらしきものが刺さっており、胸まで貫通していた。
 肺に穴が開いたのだろう、至る所から血が溢れている。

 大佐の船は、中破と言ったところだろうか?
 もう一撃食らったら、撃沈だろう。

 それを見た、二隻の海軍艦が指揮官である大佐を置いて、引き返している。
「ああ、見捨てられたんだね」

 で、次はこの船が狙われるのでは?



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クロワッサン物語

コダーマ
歴史・時代
 1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。  第二次ウィーン包囲である。  戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。  彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。  敵の数は三十万。  戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。  ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。  内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。  彼らをウィーンの切り札とするのだ。  戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。  そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。  オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。  そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。  もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。  戦闘、策略、裏切り、絶望──。  シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。  第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...