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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-4.海軍が商船を襲って良いのなら、商船が海軍を襲っても良いではないか!
しおりを挟む「キャプテン、正面に海軍が商船を襲っています」
「海軍が商船を襲って良いのなら、逆もしかりではないか。ヨーゼフよ」
ヨーゼフと呼ばれる若い男が、キャプテンと呼ばれる黒ずくめの大男と会話をしていた。
何のことは無い。
私たちの船がイングランド王国の海軍船三隻に停められていたからだ。
「よし、副キャプテン。助けてやろうじゃないか。商船を」
「キャプテン」と言うと、副キャプテンは苦笑していた。
「よし、正面の半カルバリン砲は海軍のメインマストを、カルバリン砲は艦首を狙え。ここなら、誰も死なん」と、副キャプテンが船員に指示をしている。
――ただし、トイレは壊れるが……とは、さすがに付け加えなかった。
「黒船海賊団、全速前進!」と、キャプテンこと、バーナー・シュバルツが叫んだ!
彼の切れの良い低音が、船全体に響く。
やがて砲撃が始まり、海軍のマストが吹っ飛んだ!
そのまま、猛烈な勢いで突っ込んでくる五隻の黒船に海軍も怖気づいたか、動けずにいた。
そして、運が悪かったのか、砲弾が大佐の船に直撃した。
さて、この時代の帆船が砲撃の弾の直撃を食らうとどうなるのか?
船員が爆発に巻き込まれるという20世紀前後の艦隊戦とは違う。
木製の船に向けて、鉄の塊を飛ばしているだけなのだ。
弾に当たらなければ良い?
いや違うのだ!
木片が飛び散り、それに被弾し死ぬのだ。
「キャプテン、やってしまいましたぜ」
「ああ、仕方がない。なら、沈めてやれ」
「了解です」
「マリーネ」と、キャプテンはマリーネという金髪を三つ編みにした小柄な女を呼んだ。
実は先ほどのヨーゼフの姉にあたる。
「はい、キャプテン」
「マリーネ、あの商船に見覚えはないか?」
「おそらく、帝国のアインス商会だと思います。ドーバー、ロンドンに支店や営業所がありますので、その往来かと」
「ありがとう、マリーネ」
***
「うわぁ、幽霊が這い出てきたぞ」
「本当だったんだ。女騎士の幽霊は」
なんだ?
女騎士の幽霊とは?
その時、エマリーと眼があった。
これは、何かを企んでいる顔だな。このまま続けろと言っているように感じるわ。
なので、甲板を這うように、おどろおどろしく海兵に詰め寄った。
「だ、だぁれがぁ、ゆう、れい、だ、てぇぇぇ」と言うと、海兵の足首を掴んでやった。
次の瞬間、当然、その海兵は悲鳴を上げて歩行が出来なくなったのは、言うまでもない。
すると、砲撃の音が聞えた。
“ドーーン、ドーーン、ドーーン”
その音が聞こえて、数秒後、大佐の船に直撃した。
まずは、マストに当たり、「く」の字に折れ曲がった。
「あぁぁ、これはダメだわ。他の船にけん引してもらうかね?」と、悠長なことを思っていると、次は、船体に直撃した。
“ボカーーン”と言う音と共に、船体の木片が飛び散り、煙も広がり、これが惨事だということが分かった。
この木片が、海兵たちに突き刺さる。
そして、私たちの船の上にも、小さな木片が飛んでいる。
この時、幸いにも私は甲板を這いずり回っていたため、身を低くし、しかも鎧で武装していたため、小さい木片が飛んできても刺さることは無かった。
そして、ゆっくり顔を上げると、一人の海兵が、背中から手すりらしきものが刺さっており、胸まで貫通していた。
肺に穴が開いたのだろう、至る所から血が溢れている。
大佐の船は、中破と言ったところだろうか?
もう一撃食らったら、撃沈だろう。
それを見た、二隻の海軍艦が指揮官である大佐を置いて、引き返している。
「ああ、見捨てられたんだね」
で、次はこの船が狙われるのでは?
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