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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-3.黒い
しおりを挟む正面にイングランド王国の海軍艦が現れた。
ロイヤルネイビーだ!
とはいえ、一般の漁船に毛が生えたようなものにすぎないのだ。
一国の海軍艦としては、物足りない。
この時代のイングランド王国の海軍は、漁船や商船を改良した程度で、スペイン海軍のように“一国の海軍”と言う代物ではない。
そして、三隻ある中の一隻が、本船に近づいてきた。
そこで、エマリーが「ハッ」とした!
「ミーナちゃんとヤスミン、隠れて頂戴。二人を海軍にさらわれるわけにはいかないわ」
さらわれる!
私が?
ここは他国だ。
ましてや、今は女水夫に変装している。エマリーの言う通り、緊張感を持たないといけないわ。
なので、水夫の案内で、ヤスミンと二人、コンパニオンから暗い船底へ向かう。
途中で、ヤスミンも私も革袋を部屋で取り、そのまま、バラストに紛れる。
たかだか、30メートル弱の中型船。しかも、四階層しかないので、隠れるところとなると、船底のバラストしかない訳だ。
なんか、黒い昆虫がいそうだわ……
「で、ヤスミン。その革袋には何が?」
「ええ、私の作った傑作品ですよ。マスケット並みの威力のあるアルケプス小銃とか。お嬢様の袋はなにが?」
「こちらは、ドイツ騎士団の黒十字のサーコートとホーバークとヤスミンに鍛えてもらった剣よ」※1
もしもの時のために、着こんでおくことにした。
鎖帷子は水に沈むので、よろしくないと思うが。
そう!
鎖帷子が沈もうが、あまり関係ないかもしれない。
ほとんどの海兵も水夫も泳げないのだから。
それは、21世紀になっても変わらない。
そもそも、大海原で泳げても、意味がある?
サメより速く泳げたり、遭難したところから、大陸まで泳げたり出来ることは無い。
海に落ちたら、あとは海流に流されるだけなのだから。
さて、甲板ではエマリーと海兵とやり取りが行われていた。
「オーナーのエマリー・アインホルンです」
「私は海軍大佐のジェームスだ。さて、良い船を持っているな」
「おほめにいただき、ありがとうございます」
「さて、船内を確認させていただく」と言うと、海兵が船内に入って行くようだ。
エマリーは、「まずい!」と思った。
隠れているとは言え、避けたいものだ!
そこで出た言葉が、
「あの……大佐殿」
「なんだ?」
「この船は幽霊が出るのです」
「ほう、どんな幽霊が?」
「はい……」、エマリーには幽霊と言うと女騎士:アグネス様しか、思いつかなかった。※2
「女騎士の幽霊です。ドイツでは有名な幽霊でして。ハイ」
「それは楽しみだな。オーナー殿」
「……」
そして、海兵が階段を降りるのを見て、水夫たちが、身体に隠しているナイフなど、自分の武器を確認したことなど、海兵たちにはわからなかった様だ。
「エマリーお嬢さんの合図さえあれば、いつでも殺しますよ」ということだ。
「ところでオーナー、このキャラベルは我が海軍の船より良い船だ。一つ譲ってくれないかな」と、軽く笑った。
――やはり、来たか。このまま、持って行かれては、バラストに隠れているヤスミンとヴィルヘルミーナ嬢まで連れて行かれるわ。
そんなことをしては、ご領主様に合わせる顔がない。
我が家の恥!
アインホルンの血統にかけても、ここは譲れない!
エマリーは、二度頷いた。
それを見ていた水夫たちは、活動を開始した。
「大佐殿。貴方は状況が分かっていないようね」
「オーナー、何を言っているのか?」
「実力が違うということ、そして、財力も違うということを、知るとええわ」
ある海兵が「うわぁあ」と言うと、身体が中刷りになっていた。
首に縄がかかっている。
すると、また、もう一人、さらに一人と中刷りになっている。
「大佐ぁ。あんたのせいやで」と、エマリーが本気になると上方の言葉が出る。
「海軍に手を出して、無事と思うな」
「ふふふ」
しばらくして、海兵の悲鳴が聞こえた。
「でたぁ。誰か助けてくれ」
次の瞬間には、コンパニオンから鎧騎士が這い出てきた。
「き、気持ち悪い……」
「幽霊だ!」
***
カサカサカサ!
バラストの中に隠れていたヴィルヘルミーナとヤスミンの二人だが、
「ヤスミン、結構、長引く感じね」
「はい、辛くなってきましたね」
すると、暗闇の中、“コツ、コツ”と足音が聞こえてきた。
「ここは、バラストか。しかし、よく整備されていて良い船だ」と言った海兵は、疑問に思った。
「なぜ、こんなところに、騎士の鎧が置いてあるのか」と。
グレートヘルムを被り、腕はホーバークに剣を持っている。
サーコートには、黒十字のマークだ!
「気味悪いぜ」と言い、グレートヘルムを指で叩いた瞬間。
その鎧騎士は動き出した。
それは一瞬だった。
電光石火の動きだった。
鎧騎士が、海兵の指を掴み、握りつぶすまでは……
“ボキッ”
「うわぁぁぁ」
海兵はあまりの激痛で、動けなくなってしまった。
指先などは神経の多いところだ。
痛みが激しく感じる。
そして、鎧騎士は、この海兵を蹴り飛ばしたところ、気を失ったようだ。
「お前も始末してやる」と、鎧騎士が話した。
「うわっ、幽霊の話は本当だったのだ」
そして、海上は、エマリーの商船とイングランド王国海軍船に急接近する船があった。
それはそれは、黒く染められたキャラック船団が、近づいていたのでした。
※1 ホーバーク 鎖帷子で長袖のもの
※2 第一章 第一話を参照
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