握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成

5-8.嫉妬される

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 エディンバラに着いた。

 エマリーがエディンバラ議会のエライさんに武器を売りに行くらしい。

 商談だ!

 せっかく、ドレスを花売りのローズマリーに整えてもらったので、“領主の娘が社会見学”ということで、お供させてもらうことにした。
 なんだか、わくわくしてきましたわ。

 商談は数字の話が多く、私の立ち入る隙間もなかったが、主人だけが商談の相手ではない様だ。
「これは奥様とお嬢さまにと」と言ってエマリーが渡したのは、ロッテルダムで購入したお茶だ!
 アジアから最速で輸入したものらしいので、かなり高価だ。

 エマリーが私の方を見たので、私に奥様のお相手をしろということね。
 了解と言う意味で、ひとつウィンクをした。

 そう!

 このお茶なる物は、どうあがいてもヨーロッパでは栽培が出来ないのだ。
 そのため、ヨーロッパではブドウから酒を造るなど、アルコールを飲むこととなり、アルコール耐性が強くなるが、カフェイン耐性がない人が多いのは、このせいだろう。

 アルコールは夜寝ることが出来るが、カフェインは寝れなくなるので、アルコールの方が健康的ではないだろうか?

 ちなみに、コーヒーは17世紀に世界中に広がる。
 と言うのは、16世紀にはオスマン帝国にはあったのだけれど、「人々を堕落させる」ということで、毒扱いだったらしい。

 一方、日本では薬あつかいだそうだ。
 水腫に聞く薬として扱われていたらしく、ビタミンB類が効いたのだろうか?

 そして、私がご夫人とお嬢さまとお茶をすることになった。
 特に、お嬢さまが、突然のお茶会で大喜びだ。
「アジアからの一番茶ですって」と言う感じだった。なんだか可愛いですね。
 また、このぐらいの大きい家となると、突然の来客にも対応できるように、菓子は常に用意している。
 だから、遠慮は無用というもの。

 おそらく、このお茶の方が、菓子より何倍もするはずだし。
 ご婦人方には、バート・メルゲントハイムで修道女として盛式誓願を受けた話をすると、「まあ、なんてすばらしいお嬢様なのでしょうか」と盛り上がった。
 その後、騎士団に行った話などはするまい。

 お二人が、まるで聖女でも見るような目なので、なんだか申し訳ない。

 エマリーの気配り戦法が上手く行ったのか、商談も上手く行ったようだ。私も、お手伝いが出来て満足して街に向かうことが出来た。

「しかしなぁ、あの娘さんが14歳って言っていたよ。イリーゼと同じ歳なんだ」と、馬車の中でつぶやいてしまった。
「どうしたの?」
「いや、先のお嬢さんと暗殺も出来るイリーゼが同じ歳って、人って環境によって変わるものだなと」
「う~ん、あの子は生まれた時から変わっていたからね」
「そうなんだ!」
「そうなんよ(笑)」とエマリーが言うと、笑い合った。

 馬車が、宿屋に着くと、イリーゼが出迎えてくれた。
「エマ姉さん、お嬢さまおかえりなさい」と。


***


 ローズマリーは、店に帰ってきた。
 ローズマリーの一日は忙しい。
 早朝に花畑の手入れをして、その日、出荷する花を荷車に積み込む。
 朝市で一度、店舗販売を終え、食事にすると、港に行く。
 そして、船相手にセーリングヨットで駆け巡る。
 正午になると、店に戻り食事をする。

 そして、3時ぐらいまで店舗で販売することもあれば、教会の下請け仕事があることもある。
 特に、6月以降は結婚式シーズンなので、花屋は忙しい。
 夕方、もう一度、花畑に行く。
 花に水をやって、その日の仕事は終わる。

「ちょっと、肥料が足らなくなってきたわ。そろそろ六年だからね。肥料をもらってくるわ」※1
 ローズマリーは知っていた。
 この時代、肥料は木材を燃やした後の灰を使っていたが、実際は、動物の骨が肥料として良く、花がよく育つことを!

 次に、ローズマリーは思い出した。
 先日、教会の下請けで埋葬した男のことを。

「骨、骨、骨ぇ。やはり、骨はよく育つわ」

 そんなある日のこと。
 エディンバラの城壁内の花屋が集まっていた。
「城壁の外のローズマリーとかいう花屋が、海に出て船相手に花を売ってしまうので、城壁内の花屋が売れない」
「ああ、色仕掛けで売っているんだろう」
「だらしない女だ」
「しかも、どうやったのか、良く育っている。よほど良い畑を持っているのではないのか」
「何とかしないと」



※1 旧約聖書 レビ記 第25章より
 主はシナイ山で、モーセに言われた、「イスラエルの人々に言いなさい、『わたしが与える地に、あなたがたがはいったときは、その地にも、主に向かって安息を守らせなければならない。
  六年の間あなたは畑に種をまき、また六年の間ぶどう畑の枝を刈り込み、その実を集めることができる。
  しかし、七年目には、地に全き休みの安息を与えなければならない。これは、主に向かって守る安息である。あなたは畑に種をまいてはならない。また、ぶどう畑の枝を刈り込んではならない。
  あなたの穀物の自然に生えたものは刈り取ってはならない。また、あなたのぶどうの枝の手入れをしないで結んだ実は摘んではならない。これは地のために全き休みの年だからである。


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