握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成

5-9.壊される

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「お花も売れたし、チップも頂いたわ。今日はなんてすばらしい日なの」と、ローズマリーは喜んだ。
「あの貴族のご婦人は、ヴィルヘルミーナ様と言っていたわね。どこのご領主様なのでしょう」

***

 さて、宿に戻った私は、あまりイリーゼと話さなかった。
 それが、また、イリーゼの感情を刺激する。
 ローズマリーの悪口が始まった。
「あの花屋は、まったく厚かましくって!」と、言っているが、私もエマリーも黙っている。
「ちょっと、エマ姉さん」
「ん、なんや。イリー君」、エマリーはイリーゼのことを、軽くあしらう時は“イリー君”とからかう。なので、
「聞いてよ」と、ヒステリーを起こしてしまったわ。
 次は私だろう。声をかけるのは。
 まあ、仕方がない。

「イリーゼ、稽古だ。付き合え」というと、イリーゼは「はい!」と、これまでのうっ憤が吹っ飛んだような笑みで答えた。
 エマリーも、横で苦笑している。

 身体を動かせば、うっ憤も収まったようで安心した。

 さて、翌朝。

 ローズマリーは花畑に行くと、畑があらされていた。

 最初は、野猿や猪が荒らしたのかと思ったが、明らかに人の手によるものだ。
 道具を使った跡があるし、猪はこんなに広く穴を掘らない。

「売り物の花が一つもないわ。どうしましょう」というと、彼女はしばらく泣き崩れていた。

 当然、この犯人は城壁内の花屋たちだ。
 だが、彼らも恐怖していた。

「おい、何故、そんなものを持って帰ってきたんだ?」
「いや、証拠になると思ったからだ」
「私たちが、畑を荒らした証拠になるとでも?」
「そんな訳はない。あの娘が人殺しの犯人だと」と言う男が手に持っているのは人骨、おそらく人の前腕だろう。

「これがあれば、駐在所に『あの女は人を殺した』と調査してくれるに違いない」
「それと同時に、『あの女の畑を荒らしたのもオレたちだ』と言ってるものだな」
「「「……」」」
「どうすれば」
「捨てろよ」
「どこにさ」
「あの女の店の前に決まっているだろう」


 ローズマリーの店は、城壁の外の郊外にある。
 この件があり、しばらく、店を閉めていたのだけれど、基本的には、店には誰も買いに来ない。
 教会の関係者が、冠婚葬祭の際の花の予約に来る程度だ。
 だから、自分から荷車を押し、あるいは、ヨットを使い売りに行く。営業ができるのだな。

 だから、骨など置いても、近所の犬の餌にしかならなかった。

 しかし、売り物になる花がない。
「さて、どうしたものですかね」

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