81 / 126
第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-9.壊される
しおりを挟む「お花も売れたし、チップも頂いたわ。今日はなんてすばらしい日なの」と、ローズマリーは喜んだ。
「あの貴族のご婦人は、ヴィルヘルミーナ様と言っていたわね。どこのご領主様なのでしょう」
***
さて、宿に戻った私は、あまりイリーゼと話さなかった。
それが、また、イリーゼの感情を刺激する。
ローズマリーの悪口が始まった。
「あの花屋は、まったく厚かましくって!」と、言っているが、私もエマリーも黙っている。
「ちょっと、エマ姉さん」
「ん、なんや。イリー君」、エマリーはイリーゼのことを、軽くあしらう時は“イリー君”とからかう。なので、
「聞いてよ」と、ヒステリーを起こしてしまったわ。
次は私だろう。声をかけるのは。
まあ、仕方がない。
「イリーゼ、稽古だ。付き合え」というと、イリーゼは「はい!」と、これまでのうっ憤が吹っ飛んだような笑みで答えた。
エマリーも、横で苦笑している。
身体を動かせば、うっ憤も収まったようで安心した。
さて、翌朝。
ローズマリーは花畑に行くと、畑があらされていた。
最初は、野猿や猪が荒らしたのかと思ったが、明らかに人の手によるものだ。
道具を使った跡があるし、猪はこんなに広く穴を掘らない。
「売り物の花が一つもないわ。どうしましょう」というと、彼女はしばらく泣き崩れていた。
当然、この犯人は城壁内の花屋たちだ。
だが、彼らも恐怖していた。
「おい、何故、そんなものを持って帰ってきたんだ?」
「いや、証拠になると思ったからだ」
「私たちが、畑を荒らした証拠になるとでも?」
「そんな訳はない。あの娘が人殺しの犯人だと」と言う男が手に持っているのは人骨、おそらく人の前腕だろう。
「これがあれば、駐在所に『あの女は人を殺した』と調査してくれるに違いない」
「それと同時に、『あの女の畑を荒らしたのもオレたちだ』と言ってるものだな」
「「「……」」」
「どうすれば」
「捨てろよ」
「どこにさ」
「あの女の店の前に決まっているだろう」
ローズマリーの店は、城壁の外の郊外にある。
この件があり、しばらく、店を閉めていたのだけれど、基本的には、店には誰も買いに来ない。
教会の関係者が、冠婚葬祭の際の花の予約に来る程度だ。
だから、自分から荷車を押し、あるいは、ヨットを使い売りに行く。営業ができるのだな。
だから、骨など置いても、近所の犬の餌にしかならなかった。
しかし、売り物になる花がない。
「さて、どうしたものですかね」
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クロワッサン物語
コダーマ
歴史・時代
1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。
第二次ウィーン包囲である。
戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。
彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。
敵の数は三十万。
戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。
ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。
内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。
彼らをウィーンの切り札とするのだ。
戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。
そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。
オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。
そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。
もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。
戦闘、策略、裏切り、絶望──。
シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。
第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる