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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-10.連れ去られる
しおりを挟むその日のイリーゼは自由行動であった。
街の中はある程度知っているので、その日は郊外へ出かけることにした。
羽振りも良く、馬車も借りた。
このエディンバラは城壁の中に12,000人の人がいるが、城壁の外には4,000人程度の人がいる。
まあ、その辺から、この街の倫理がどういうものかは、察して欲しい。
そして前スコットランド女王のメアリーや現国王のジェームス六世が、旧教徒だから国民が旧教徒という訳でもない。
イングランドの前の王であるヘンリー八世が国教会というものを作りカトリックから独立したことが、徐々にブリテン島全体へ広がっている。
普通なら考えられないことだ。
カノッサの屈辱では、グレゴリウス七世が三日三晩、雪の降る中、裸足で断食をして教皇に破門の解除を嘆願したぐらい、教皇の権力は強いはずなのだが、ローマから遠く離れたブリテン島では、こんなものなのだろうか?※1
見たところ、スコットランドは、貴族や商人はカルヴァン派のようだ。それと、心霊現象や心霊スポットの多さとは関係はないと思うわ。※2
さて、イリーゼが馬車でドライブを楽しんでいたところ、前を荷車がゆっくり進んでいた。
そして、ちょっと目を話した瞬間、荷車が消えたのだ。
「えっ?」
そのまま、気にもせず、直進すれば、すべてはなかったことになるだろう。
しかし、ここはポルターガイストの街:エディンバラ!
少し気になり出すと、益々、気になる。
「ドォォォッ」と、手綱を引き、イリーゼは馬を停めてしまった。
そして、ゆっくりと馬を歩かせる。
”トコッ、トコッ”
「い、いないわ。どこにもいないわ。消えたわ」
すると、数メートル先の店の扉が開いた。
そこから出てきたのは、先日のローズマリーだった。
「あッ」
「あら、先日のご領主のお嬢様のお付きの方」
――あの時の花屋だわ。なんで、こんなところに……
「私のお店に来てくださったのね。うれしいわ」
「えっ?」
「どうぞ!」
***
その頃、宿屋では。
「なぁ、エマリーぃぃぃ」
「はいはい。どうしたのかしら。ミーナちゃん」
「見に行きたいんだよ」
「お嬢さまが、行きたいところとは、どこなのです?」とヤスミンが気になり出したようだ。
「それは、もちろん、墓地よ」
「「えっ」」
「ということで墓地ツアーのコースを発表します!」
「「……」」
「まずは魔女ジャネットのお墓から」※3
***
イリーゼはローズマリーの店に入って行った。
「花屋なのに花が少ないわ」
「ええ、そうなの」というローズマリーは悲しそうだった。
「どうかしたの?」
「実は……」
「それじゃあ、花屋が続けることが出来ないじゃない」
「そうなの。自分で育てた花を出荷してきたのだけれども、他の農家の花を仕入れに行くことになるわ」
「出来るの?」
「ええ、両親も隣町で花屋を営んでいるわ」
「ご両親も花を育てて?」
「いえ、両親は仕入れ半分よ。なので、その農家に頼めば何とかなると思うのだけれど。歩いて往復となると、歩くだけで一日かかるわ」
「それに畑を手入れしても、また、畑をあらされては……」
「そうなの、どうしたら良いか。とりあえずは、今残っている花を売っているわ」
「私では、どうしようもないので、エマ姉さんに相談してみましょう」と言うと、イリーゼは、ローズマリーを馬車に乗せて宿屋に向かうのでした。
※1 ビスマルク曰く、カノッサの屈辱は「ドイツ文化の屈辱」だと。
※2 ポルターガイスト事件が有名 血まみれのマッケンジーなど
※3 レディ・ジャネット スコットランドの魔女 エディンバラ城に於いて、魔女裁判で火あぶりにて処刑された。21世紀の今も幽霊として活躍していることになっている。墓があるかどうかは……
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