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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-24.海賊令嬢誕生
しおりを挟むいつの間にか、私たちは、オマリー海賊団の手伝いをして船の上の仕事をしていた。
いや、海賊の仕事をしていた。
先日の海兵をアイスランドに売りに出した。
ここはデンマーク領なので、ノルマン人が多く、金髪が多かった。
アイルランドはケルト系が多くいたため赤毛が多かったが、ここでは、まったく見かけなかったな。
私は、人の売り買いなど見たことが無かったが、セリのように行うのかというと、それは正規の奴隷で、労奴は商品のように売買されていた。
私たちが売った際は、食事を与えていなかったが、多少太らせて売ったようだ。
さて、今度は、大佐と海兵をスペインに売りに行く。
グラーニャは、顔を知られたくないので、別の海賊たちが同行することになった。
いや、海賊でないかもしれないが、船や海のことに詳しい女だ。
基本、男と女は同じ船には乗らないのが海賊だ。
理由は、トラブルになるからだ。
その辺り、近距離公開をする商船や客船と違う。
カリブまで往復すると場合によっては、年単位の航海になる。となると、狭い船の中に男女がいては、まあ、そう言うことだ。
なので、私たちに同行してくれた海賊は女だった。
「お嬢さまは、新教徒ですか? 旧教徒ですか?」と、その海賊が尋ねてきた。
「旧教徒に改宗しているので、今は旧教徒ですわ」
「あと、旧教徒の方は?」と聞かれたので、ローズマリーが「私も旧教徒です」と手を挙げた。
「では、お二人が先頭に立ってください。このスペインでは旧教徒以外は死刑に出来る法律があります」
「まあ、ちょっと前までは帝国もそんな感じだったわ」
「では、私掠船登録をしてから海兵を売りに出します」
そのような打ち合わせをして、リスボンの港に入港することになった。
彼女の案内で港湾事務所へ行く途中に、中年女性に声をかけられた。
「お前さんら、海賊か?」
「これから、私掠船登録をするのよ」と、オマリー海賊団の案内人がにこやかに答えた。
「頼みがある。この私をオランダ辺りに連れて行ってくれないか?」
確かに、オランダには行く用事があるのだけれど、タダで船に乗せろと言っているのか?
船代が払えないのだろう。
しかも、タダ飯を食わせるわけにもイカンだろう。
また、一度、クレア島に戻る予定だ。彼女たちを戻さないとイケない。
「オランダには、しばらくはいかないのだけれど」
「いや、スペインから出れるのなら、どこでも良い」
「船代が無いと?」
「カネはないが、医師免許がある。船医の経験もある」
「何故、スペインから出たいの?」
「イスラムの方が医学が発達していたので、つい、その……」
そういうことか……
おそらく、医師として知識が最優先の人間だったのだろう。
まあ、そういう人間は、このスペインでは生きるのがつらかろう。
「うん、船医はいないのだけれど」とグラーニャの部下を見ると、「好きにして良いわ」と言われた。
「実は、今から私掠船登録をするのよ」
「ほう、そうなのか」
「では、事務所へ行きましょう」
「分かった!」
ということで、私は、この元船医を名乗る小柄な女と手を繋いで事務所まで行くことにしたら、オマリーの部下が、「すぐに手を離して!」というではないか。
「ここで、同性愛と密告されたら死刑です」
「ひぃー」
さて、港湾事務所では、あれこれと書類に目を通すことになった。
が、隣の劇場の方が気になる。
劇のポスターには、俳優・女優の名前が書かれていた。
“KINA”というインド女優の名前に興味を持った。「キナ」と発音するのかと思いきや、「キーナ」と読むらしい。
インドの長母音だ。
「イ」も「イー」もアルファベットでは、“i”としか表記できないからだ。
「『キーナ』ねぇ」
そう、私の趣味の一つ、合鍵づくりから、“key"とこの女優の名前を借用して、“keyna"と記載した。
すると、苗字があるなら、記載するように言われたので、鍵を作るときの地板の“cospel"から、“Keyna Cospel”と書くことにした。
「キーナ・コスペル? 変わった名前だね。まあ、良いでしょう。船はあのキャラベルですね。船の名前はどうしますか?」
これまた、適当に、「未来への鍵」と返答しておいた。
今、スペインは私掠船不足なので、審査は簡単に済ますことが出来たわ。
この適当に返答した海賊名と船名に、自身のプライドをかけることになろうとは、この時の私には知る由もなかった。
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