95 / 126
第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-23.ローズマリーとグラーニャ
しおりを挟む顔面を拳で殴られ、ローズマリーの身体が宙に舞う。
「ローズマリーッ」と、叫んだ私は、ローズマリーの顔面が崩壊したのではないかと思った。
しかし、グラーニャが人を殴ると宙を舞うのか!
私は、ローズマリーの身体が“ドタッ“という音を立てて、横たわるのであろうと思っていたが、なんと、宙を舞ったローズマリーはしっかりに両足で立っていた。
――これは、どういうことだ? ノーダメージなのか?
「ほう、上手く避けたようだね」
「なによ、いきなり殴って来るなんて!」というローズマリーは、ふくれっ面を、さらに膨らましている。
――止めに入る方が良いだろう!
「おい、ロ……」
「海賊のやり方に口をはさむのじゃないよ」と、グラーニャが一括した。
「えっ?」と思ったが、周りの海賊たちも、「いつものことだ」という空気が流れており、緊張感など皆無であった。
それは、グラーニャが相手に負けるはずもないということだろうか? それとも、これは安全な勝負なのだろうか?
私は、海賊のしきたりなどわからないので、戸惑った。
次の瞬間には、グラーニャがローズマリーをとっつ構えて、ぶん殴ろうとしていた。
が、今度は、かすりもしなかった。
「ローズマリー、こいつは何者だ?」
そう、まるで日本の忍者のように、ひらりと相手の動きを交わしていた。
「小娘、なかなかやるな」
「ふふ、森で猪や熊を相手に、伊達に肥料を頂いていたわけじゃないわ」
はあ? 猪や熊が肥料を提供するのか?
するとグラーニャは、ローズマリーをぶん殴ると思いきや、抱き付くように捕まえてしまった。
サバ折りか!
グラーニャは、そのままぶん回して、海に投げ飛ばしてしまった。
“ジャボーン”
この娘は、泳げるのか?
「おい、ローズマリー! 泳げるか?」
「お嬢さま、あの女がお嬢さまのことを……」
「わかったから、捕まれ!」
海から上がって来たローズマリーの顔は、最初の一撃のせいだろう、少し腫れていた。
「お嬢さま、あの女が悪いのです。お嬢さまのことを……お嬢さまのことを」
「私のことを?」
「なんて言いましたか?」
「……」
「私は、何も言ってないよ。自分から突っかかって来たんじゃないか」というグラーニャは、この場を去ってしまった。
しかし、その背中は楽しそうだった。
次の日。
エマリーと話をしていると、グラーニャから声をかけられた。
「海兵たちはグリーンランドの開拓者を募集しているアイスランドの商人に売るつもりだが、大佐となるとそれなりの金額になるので、スペインに売るつもりだ」
私は驚いた。
何故なら、オマリー海賊団はスペイン商船を襲いに襲っているのだから。
「そこで、私が、直接、交渉するわけにはいかない。だから、捕まえたお前たちが売りさばいたら良い」
「スペインに売る! しかし、買ってくれるの?」
「そのやり方を説明するが良いか?」
私はエマリーの方を見た。
自分自身で判断するのが怖かったからだ。
不安で、背筋に冷たいものが走った。
そして、グラーニャの話通りにすることにした。
このキャラベルをスペインの私掠船登録する。
その際、適当な船の名前と偽名で登録するように指示された。
「偽名ねぇ。どんな名前が良いのかしらね」
「間違えると面倒なので、私は『エマ』で良いわ。イリー君は?」
「じゃあ、『イリー』で」
「二人とも簡単ですね」とヤスミンが言うが、バレバレでは。まあ、苗字を変えるのだろう。
「では、ローズマリーさんは、『ローズ』ですね」とイリーゼが言う。
「もちろん、それで良いわ。私は庶民だから苗字も無いし」
「ヤスミンさんは、どうしますか?」
「私は、このままで良いよ」
「では、お嬢さまは、絶対に変えないとダメですよね」
「そうだな。変えないとイケないよな」
と答えたものの、なんて名乗ればよいのか。
この時、まったく思いつかなかった。
「まあ、一時的な名前だしな」と、気軽に考えていたのでした。
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クロワッサン物語
コダーマ
歴史・時代
1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。
第二次ウィーン包囲である。
戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。
彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。
敵の数は三十万。
戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。
ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。
内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。
彼らをウィーンの切り札とするのだ。
戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。
そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。
オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。
そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。
もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。
戦闘、策略、裏切り、絶望──。
シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。
第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる