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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-23.ローズマリーとグラーニャ
しおりを挟む顔面を拳で殴られ、ローズマリーの身体が宙に舞う。
「ローズマリーッ」と、叫んだ私は、ローズマリーの顔面が崩壊したのではないかと思った。
しかし、グラーニャが人を殴ると宙を舞うのか!
私は、ローズマリーの身体が“ドタッ“という音を立てて、横たわるのであろうと思っていたが、なんと、宙を舞ったローズマリーはしっかりに両足で立っていた。
――これは、どういうことだ? ノーダメージなのか?
「ほう、上手く避けたようだね」
「なによ、いきなり殴って来るなんて!」というローズマリーは、ふくれっ面を、さらに膨らましている。
――止めに入る方が良いだろう!
「おい、ロ……」
「海賊のやり方に口をはさむのじゃないよ」と、グラーニャが一括した。
「えっ?」と思ったが、周りの海賊たちも、「いつものことだ」という空気が流れており、緊張感など皆無であった。
それは、グラーニャが相手に負けるはずもないということだろうか? それとも、これは安全な勝負なのだろうか?
私は、海賊のしきたりなどわからないので、戸惑った。
次の瞬間には、グラーニャがローズマリーをとっつ構えて、ぶん殴ろうとしていた。
が、今度は、かすりもしなかった。
「ローズマリー、こいつは何者だ?」
そう、まるで日本の忍者のように、ひらりと相手の動きを交わしていた。
「小娘、なかなかやるな」
「ふふ、森で猪や熊を相手に、伊達に肥料を頂いていたわけじゃないわ」
はあ? 猪や熊が肥料を提供するのか?
するとグラーニャは、ローズマリーをぶん殴ると思いきや、抱き付くように捕まえてしまった。
サバ折りか!
グラーニャは、そのままぶん回して、海に投げ飛ばしてしまった。
“ジャボーン”
この娘は、泳げるのか?
「おい、ローズマリー! 泳げるか?」
「お嬢さま、あの女がお嬢さまのことを……」
「わかったから、捕まれ!」
海から上がって来たローズマリーの顔は、最初の一撃のせいだろう、少し腫れていた。
「お嬢さま、あの女が悪いのです。お嬢さまのことを……お嬢さまのことを」
「私のことを?」
「なんて言いましたか?」
「……」
「私は、何も言ってないよ。自分から突っかかって来たんじゃないか」というグラーニャは、この場を去ってしまった。
しかし、その背中は楽しそうだった。
次の日。
エマリーと話をしていると、グラーニャから声をかけられた。
「海兵たちはグリーンランドの開拓者を募集しているアイスランドの商人に売るつもりだが、大佐となるとそれなりの金額になるので、スペインに売るつもりだ」
私は驚いた。
何故なら、オマリー海賊団はスペイン商船を襲いに襲っているのだから。
「そこで、私が、直接、交渉するわけにはいかない。だから、捕まえたお前たちが売りさばいたら良い」
「スペインに売る! しかし、買ってくれるの?」
「そのやり方を説明するが良いか?」
私はエマリーの方を見た。
自分自身で判断するのが怖かったからだ。
不安で、背筋に冷たいものが走った。
そして、グラーニャの話通りにすることにした。
このキャラベルをスペインの私掠船登録する。
その際、適当な船の名前と偽名で登録するように指示された。
「偽名ねぇ。どんな名前が良いのかしらね」
「間違えると面倒なので、私は『エマ』で良いわ。イリー君は?」
「じゃあ、『イリー』で」
「二人とも簡単ですね」とヤスミンが言うが、バレバレでは。まあ、苗字を変えるのだろう。
「では、ローズマリーさんは、『ローズ』ですね」とイリーゼが言う。
「もちろん、それで良いわ。私は庶民だから苗字も無いし」
「ヤスミンさんは、どうしますか?」
「私は、このままで良いよ」
「では、お嬢さまは、絶対に変えないとダメですよね」
「そうだな。変えないとイケないよな」
と答えたものの、なんて名乗ればよいのか。
この時、まったく思いつかなかった。
「まあ、一時的な名前だしな」と、気軽に考えていたのでした。
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