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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-22.オマリー海賊団 5
しおりを挟む私の乗るキャラベル船と海賊団たちは、やがて、アイルランド島の西側へ到着した。
そして、さらに進むと数時間。
見事なまでの断崖絶壁の島が現れた!
「クレア島だ!」
「この島はどこから、入るのだ?」
島は、どこまでも崖なのだが、ぐるっと回っていると、ほんの50メートル程度、白い砂浜があり、それを利用してポートがあった。
「なんと、こんなところに船が停められるなんて」
すると、そのポートから黒い船が出港して行ったのが見えた。
これは、テムズ川から北海に出たところで、イングランド海軍に襲われた時、助けてくれた黒船たちでは?
どうやら、彼らは、北の海へ出て行ったようだ。
さて、クレア島は、大きな入り江の入り口にあり、ここを突破しないと入り江の中にある街や城は攻めることが出来ない。
また、入り江の中も無数に島があり、海賊の根城と言う感じだ。
天然の要塞。
それがクレア島なのだ。
さて、クレア島に着き、エマリーがオマリー海賊団に、とっ捕まえた海兵を売りに出している。
少し栄養不足か?
自己防衛のため、ほとんど食事をさせなかった。
それも、やむなしだ!
自分たちを襲おうとしている者に栄養を与えるなど、言語道断なのだから。
なので、あの時の威勢の良さはない。
海賊たちは、元海兵をどこに売り飛ばすのだろうか?
大変興味深いわ!
イングランドの敵国と言えば、フランスかスペインだろう。
しかし、オマリー海賊団はスペイン関係者を襲っていると聞いたので、スペインは無い。
彼らの会話を盗み聞きをすることにした。
「デンマークがグリーンランドの再入植を企画しているらしい」※1
「これまた、クソ寒いところに」
「もうカラーリットしかいないと思うぜ」※2
「15世紀には、入植したヴァイキングが全滅したらしいし。大丈夫なのかよ」
「さあ?」
グリーンランドといえば、「赤毛のエイリーク」だな。
彼が、985年に入植者を募り、開拓を始めたのがきっかけだ。
アイスランドの入植の際、「アイスランド」という如何にも氷だらけの極寒地獄の様な名前のため、思ったほど入植者が集まらなかったのだ。
なので、次は集まりやすい名前を付けると決めて、入植先を探すことにした。
その集まりやすい名前が、「グリーンランド」ということなのだ。
ヤレヤレ!
その後、少ないながらも彼らは定住生活を営んでいたが、14世紀ごろから状況が変わる。
小氷河期が始まったのだ!
島から緑はなくなり、家畜も飼えなくなり、この地を去るしかなかった。
去ることが出来なかった者は全滅した。
それが、15世紀ということだ。
ところが、デンマークが再入植をしようという。
当然に人が足らないので、この海兵たちをデンマークの開拓者に売り飛ばすという!
これは納得だ!
さらば、大佐どの!
私は、そんな寒いところにはいかないので、これが最後だ!
達者に暮らせよ!
そして、港を歩いていると、なんと騒がしいことになっていた。
うちのローズマリーが、海賊女王様に向かって、ふくれっ面を突き上げている。
「おい、お前はなんだ?」
「私はローズマリー、花屋の店主よ」
いや、海賊女王様のグラーニャに、「花屋の店主」って……
「で、なんだい? 私に何か用か」
「この間は、うちのお嬢さまに、なんてことをしてくれるの」
「うん? やられたのは私の方なんだけどな」
「ウソよ、こんな悪い顔をしているわ」
――いや、それは言ってはダメだろう。グラーニャがゴツイ顔だなんて!
※1 デンマークが1536年にノルウェーを支配した際、グリーンランドも支配下になる。
※2 カラーリット カナダ方面から来たとされるイヌイット。先住民ともいえる。
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