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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-28.海戦をします
しおりを挟む私たちは、キャラベルに乗り込んだ。
すると、オマリー海賊団の船は次々に出航している。
もたもたすると、狙い撃ちにでもされるのだろう。
とにかく急ごう!
「お~い、儂もじゃ、儂も連れて行け」と言う声が聞えた。
船医のエンペラトリースだった。
「先生、早くぅ」と船員たちが声をかけているが、元々、小柄な上、脚がショートなので早く走れない。
さらに、酒を昼間から飲んでいたので早く走れない。
脚の短さで、他人より7割の速度。
酒のせいで、さらに7割の速度。
かけわせると、7割の7割で、4割9分というところか?
およそ大人の半分の早さだな。
ガハハ!
「おい、船長! なにを笑ろうておるのじゃ」
「先生、話す暇があったら、走れ!」
「ひどい奴じゃの」
そして、歳のころなら四十近い丸っこくてチビの船医が乗り込んだ。
「エマリー、発進よ!」
「ようそろぉ」と、操舵手はエマリーだ。
ちなみに、操舵手とは単に舵輪を回している人ではない。
操舵権を持っている人が、操舵手なのだ。
船の司法権・指揮命令権を持っているのが船長であり、船とは、船長・操舵手・船医の三人がそろわないと航海は出来ない。
航海士が山ほどいてもダメなのだ。
さて、先行していった海賊団を追いかける。
一隻だけ離れていると餌食になるからだ。
するとヤスミンが耳打ちをしてくれた。
「お嬢さま、甲板の前方に並べている大砲は、威力はそこそこですが、射程距離が長いイングランドのカルバリン砲です。射程の長さをお使いください」と言って、そのカルバリン砲のところへ駆けて行った。
「先手必勝ということね」
そして、しばらく進むと海軍と海賊の砲撃戦が始まっていた。
私たちが着いた時には、入り乱れつつあり、アウトレンジからの攻撃は終わっているように感じた。
すると、「船長、何をしとるか!」と、私を一括したのは船医のエンペラトリースだった。
「先生!」
「さっさと、撃たんか! 敵の帆を砕いておかないと、逃げる時に逃げられんぞ」
――なるほど、そう言われてみればそうだわ
「って、なんで先生が、そんなことを知っているの」
「いや、儂は何も知らんよ。何も」と言うと、船内に引っ込んでしまった。
――やはり、この女は曲者か!
「そんなことよりもミーナちゃん」
「あぁ、ヤスミン! 海軍の帆を狙ってくれ」
「了解!」
そして、本船の長距離砲が火を噴いた。
「簡単には当たらないものだな」
そうこうしていると、ある海軍船の腹を突くことが出来そうだ。
「エマリー、突っ込むか?」
「乗り込んでの白兵戦になるけれど、大丈夫なの」
「あぁ、やってみないことにはわからんが、今が経験をするチャンスだ」
「分かったわ」
「よし、乗り込む。勇気のあるものは武器を取れ」
「お嬢さま、銃撃戦のための部隊を編成させてください」とヤスミンが言った。
あぁ、いかん、いきなり切り合いでなく、銃撃戦で数を減らして乗り込むわけか?
「では、銃撃部隊、乗り込み部隊、船を護る部隊に分ける。銃撃部隊はヤスミンが隊長、船を護る部隊はエマリー、頼む!」
「分かったわ」
「残りは私と突撃する。さあ、行きたい部隊を選べ」
実は、一番危険なのが私と突撃部隊なのだから、少ないだろうと思っていたら、意外や、イリーゼをはじめ志願してくれた。
理由はよくわからんが、結構いる。
「おぉ、行ってこい。ケガをしても儂が治してやるからな」と、エンペラトリースが陽気にも酒瓶を叩いていた。
気軽に言ってくれるわ!
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