握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成

5-29.初突撃

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「撃てぇぇぇ」とヤスミンが銃撃戦を始めた。
 甲板から、あるいは、マストの見張台から、マスケット銃やアルケブス銃などの火縄銃が使われている。

 しかし、意外にもクロスボウが活躍していた。
 理由は、火縄銃と違って、水にぬれても使用に影響しないからだ。

 すると、“ドォォーン”と、小銃より大きな音が聞えた。
 ヤスミンの大筒だ!
 小砲ともいうだけあって破壊力が大きい。
 敵の見張台が半壊しており、隠れることが出来ないので、狙われると即死だった。

 それを見て、「そろそろ、乗り込めるわね」と、私はイリーゼに問うた。
 イリーゼは、何も言わず、コクリと頷いた。

 私は立ち上がり、「皆の者、突撃をする」と宣言した。
 緊張はしているが、カッコよく決まったわ。
 そして、先頭に立ち、突撃準備をした。
「ものども、私に続け!」とカッコよく決めてやるのだ!

 すると……
「こら、船長! まさか先頭に立って突っ込むつもりじゃないだろうね。一番前に立っとるが?」
「えっ」
 私に「こら、船長」と言ったのは、船医のエンペラトリースだった。

「馬鹿垂れ! その顔では図星だね。船長は、どこが手薄がどうか、船員に教えてやらにゃ、どこに突っ込めばよいかわからんだろう。先陣は、その白い服の娘にやらせてやりな!」
 私は、船長とは勇敢さを示さないといけないと思っていた。
 そうしないと、皆がついてこないと思っていた。
 のだが、エンペラトリースは違うと言う。

「船長とは、皆を導いてやることが仕事で、英雄様とは違うのだよ。『船長の言うことを聞いておれば、生き延びることが出来る』と皆に信頼されることなのだ。
 絶対に死なさない。誰一人死ぬことのない指揮をするのがお前さんの仕事なんだよ」

 私の仕事?
 それは、誰一人、死ぬことのない指揮をする?
 その時、私には、父のことを思い出した。
 領民一人の訴えのために、深夜まで仕事をしていた。
「私が、ここの領主になったからには……」と。

「ハッ!」
「ようやく気が付いたようだね」

 私は、一つ深呼吸をして、言葉を発した。
「全員聞いてちょうだい。私が、この船の船長になったからには、誰一人、死なせはしない。私が後ろについている。危ない時は助けに行く。約束しよう。この赤い剣に誓って」

 それを聞いていた、エマリーは目を閉じ腕を組んでいた。
 正面にいる、イリーゼは興奮しているようだ。
 ヤスミンは、何度も頷いている。
 ローズマリーは、「私は船長と共にあります。船長が命を懸けるのなら、私も船長のために命を懸けます」と言っている。
――いつも、大袈裟な娘だよ。

「儂も戦うぞ、船長」
「先生!」
「それと、白い服の娘。先陣を頼んだぞ」と、エンペラトリースはイリーゼの肩を叩いた。
「任せてください。お嬢様のために!」と言うと、5人を一組にして、班別をしたようだ。

 あぁ、そうだ!
 この娘はウィーンでの護衛隊をまとめていたんだよな。私よりも彼女の方が適任だったわ。


 私は、突撃隊の最後方に陣取り、突撃の指揮をした。
 そして、エンペラトリースと言うと、小銃を撃っていた。
「おい、早く弾を込めんか!」と。
 小銃にしたのは、あの短い脚では、クロスボウの弦を引くのは、土台無理ってもんだろう。
 ふふふ。

「おい、船長。何を笑うておる」
「いや、別に……」

 そして、イリーゼが乗り込んだ後、私は、ノッシ、ノッシと、敵の船に乗り込んだ。
 すると、敵船に静寂が訪れた。

「……」

 私は、新しくヤスミンに作ってもらった短い剣を抜剣をした。
 鍔も新調したが、いつもの通りに赤だ。

 そして、苦戦している一人の船員のところへ駆けだし、敵に斬りかかる。
 この短さから片手でも振れる。
 ということは、もう一方の手は空いているわけだから、“グシャ!”と、手首を握りつぶした。


「うほぉ、船長の奴、何という奇想天外な戦い方をし取るわ」と、エンペラトリースも絶賛だ。

 一方、ヤスミンは、この様な使い方は想像していたらしく、ニンマリと笑っている。

「エマリーさん、船に残りましたけど、誰も攻めてこないですね」
「うん、ローズマリー。そうだね。いや、貴女、何を期待して?」
「骨が、そろそろ必要かと思いまして、花の肥料に。乗り込んでしまうと持って帰るのが大変だと思い、残ったのですけれども、誰も来ません」


 初仕事は、それぞれの思惑通りに言ったわけではなかった様だわ。
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