握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

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第六章 ヴィルヘルミーナの白い海賊船

6-5.戦火のラインラント

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 ラインラントが何者かに襲われている。
 プファルツ選帝侯領が襲われている。

 あの難攻不落の巨大要塞であるハイデルベルク城が襲われている。
「お父さま」
「あのハイデルベルク城が落とされること等、考えられない」と、父は言った。
 そう、あのハイデルベルク城が簡単に落とされるなど、考えられない。

「それよりも、マインツだ。マインツが落とされると、このラインフェルスまで、アッと言う間だぞ」
「ご領主様、ハイデルベルク城が苦戦しております。救援を要請しているようです」
「お、お父さま」

 父は、しばらく考え込んでいた。
 そして、苦渋の決断をして、口にした言葉はこうだった。
「領地、領民を護ることを優先する。誰も死なせるな」と。

「分かりましたわ。お父さま」
「マインツ方面からの侵攻に備えろ。また、領地内に侵入している傭兵を見つけるのだ」
「分かりました。ご領主様に勝利あれ」と、言うと、護衛隊長が退出して行った。

 こんな時に、アンのことを心配するのは、良いのだろうか?
 しかし、アンも助けたい。
 こんな時に、相棒のエマリーがいない。
 彼女がいないことが、こんなに不安にさせるとは……


***


 バイエルン夫人は、疑問に思っていた。
 ここ最近、傭兵の姿をよく見かけるようになっていたのが、この二・三日でまったく見かけなくなっていたのだ。

「マティアス殿、傭兵の数が少ないわね。どうしたのかしら」
「伯母上、出陣したからです」
「出陣? どこへ? 新教徒勢力を抑えるのですか?」
「ええ、新教徒ですが、バイエルン大公には選帝侯になっていただくためのものです」
「選帝侯? まさか、プファルツ選帝侯か、ザクセン選帝侯を」
「ええ、そのプファルツ選帝侯領を頂くのです」
「何ということを、マティアス殿、これは戦争ですわ」
「ええ、そうなりますね。伯母上さま」と、マティアスは言うものの正規軍は使っていない。
 何とでも言い訳はできる。
 プファルツ選帝侯、つまりライン宮中伯がこれで弱体したところに宣戦布告すればよいと考えていた。
 バイエルン大公を使って。


***


 ラインラントが戦火に覆われていた。

 そして、アンをさらったものが指定した日の朝がやって来た。
「父さま、私は生きます。アンを助けに行きます」
「私も行く」
「父さまが、ここを離れては」
「そうです、ご領主様に万が一のことがあれば」と、護衛隊も反対している。
「ああ、そうだが、お前たちが護ってくれるのではないのか」と、ニヤリと父は笑った。
――さすがに、「止めておけ!」とは言い難いな。

 私は、馬小屋に向かった。
 アレクサンドロス号がいた。
「アレク!」
 馬は賢い。なんだか事情を察しているのだろうか。
「オレに乗れよ、ヴィル」と言っているように感じた。

 私は、ヤスミンに作ってもらった鎧に、折れない、曲がらない、欠けることのない剣に、ドイツ騎士団の白地に黒十字の腕章をはめ、出撃をすることにした。
 父と護衛隊も付いてくるようだ。

「アン、今、行くから。いざ、ローレライへ。『ヘヤヘヤヘヤ、ヘーヤ! 剣を光らせながら』」

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