握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

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第六章 ヴィルヘルミーナの白い海賊船

6-6.ローレライの上での決戦 1

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 ラインフェルスから出撃し、ローレライの岩にたどり着いた。
 岩の上には、アンがいた。
 女が三人と傭兵がいた。

 岩の上なので、大勢では来れない。
 逆に言えば、囲まれたら逃げれないと思うのだが、何故、こんな悠然としているのだ。

「アンを返してもらおう」
「私は、クレマンティーヌだ。簡単には返せないね」と、熟年の女が言った。
「返すも返さないも、ここから逃げることは出来ないと思うが」
「さあ、どうだか。むしろ、お前たちの方が、命の危機だと思うけれどね」
「なにを言っているのだ。早く返せ」と、兜をかぶった父のフォルカーが怒り出した。

「ほう、その声はフォルカーじゃないか。まさか、お前まで来るとは、相当なアホだな。親子そろって」
 安い挑発だ。
 
 そして、クレマンティーヌという熟年女性は、ナイフを取り出した。
 殺すのか?
 いや、違う。
 こいつ、アンの秘密を知っているようだ。
 イカン、服を切られては!

 その時だった。
 アンを抑えていた、傭兵が狂ったように、アンから離れてしまった。
 足腰が思う通りに動かない。まるで、酔っているように感じる。

 誰もが、何が起こったのか分からなかった。
「ジョルジェット!」
「はい、クレマンティーヌさま、催眠術を掛けなおします」とジョルジェットという女が答えた。
――なに、催眠術だと! こいつらは魔女か!
 あのステラのことを思い出した。
 また、催眠術か!

「やめさせなくては」と、私はこのジョルジェット目がけ、ナイフを投げたが、交わされてしまった。
「こいつ、やるわ」

 しかし、
「クレマンティーヌさま、ダメです。この傭兵に催眠術がかかりません」
「なんだと」

 すると、アンが笑い出した。
「お前が、クレマンティーヌだと」と。
「なに」
「おい、そこの傭兵。この縄を切れ」と、アンが言うと傭兵は、周りの制止を無視して、縄を切ってしまった。

「クレマンティーヌ、また、私に殺されたいのか?」
「なにを言っている」
――いや、私も、さっぱり、わからん。昔、アンがクレマンティーヌを殺したということなの?

「お前は誰だ。アンゲーリカではないな」
「そうだ。私はアンゲーリカではない。疫病神とでも言っておこうかな。ふふふ」
 私は、驚いた。
 この笑い方は、まさか!

「フォルカー、あれほど、私が、魔女に気を付けろと言ったはずだ」
 やはり、このエラそうな口調は……
「お母さま!」
「ヴィル、気が付いたか」
「マリアンヌ! マリアンヌなのか」と、父が言うと、双方、ざわついた。
 死んだはずの母が、アンに乗り移っていると思える光景に。
 アンって、イタコなの?


***


 私は、あの時、落馬して死んだ。
 死んだのだが、無意識に力を行使したのだ。アンゲーリカに。
 私の記憶、私の力、私の人格をアンゲーリカの集合的無意識に埋め込んだ。

 そして、アンゲーリカは私に向かって「分かりましたわ」と言ったことで、彼女が私の一部となったことを確信した。

 しかし、私は、不覚にもアンゲーリカ以外にも、無意識のうちに自分の人格を埋めていたことに気付いたのだ。
 それは、娘のヴィルヘルミーナにも、私の人格を埋めこんでいたのだ。
 
 何故、そんなことをしたのか?
 しかも、自分でも無意識のうちに。

 彼女が生まれる前に、私とフォルカーとの間には、コンラートと言う、息子がいた。
 そこそこ、優秀だったと思うが、幼くしてなくなってしまった。
 その10年後に、ヴィルヘルミーナが生まれるのだが、この娘は図体だけは大きいが、まったくの無能だった。
 学問の理解は遅く、身体を動かせば、どことなくドンくさい。

 なので、よくは無いとは思うが、少し、私の知識を力を行使して与えたが、知識を使うことが出来ないという無能ぶりだった。
 そのため、私は繰り返し、力を行使した。してしまった。
 こんな、ドンくさい娘でも我が子だからだ。

 私は、経験をしていなくても、知識さえあれば、いきなり剣を扱えたし、馬も乗れた。しかし、私は、この娘が私の知識を受け取っているのか疑問に感じた。

 何故なら、あまり話さない、無口な性格だったからだ。

 ところがある日、気が付いた。
 この娘が私の話口調を真似ていることに。
「私の眼を見て頂戴な」と。

 これは、危ない。
 娘が魔女になってしまう。
 そう、私は魔女の力まで、娘に渡すつもりはなかったのだが、繰り返し力を行使しているうちに、いつの間にか魔女の力を渡すぐらいに力を行使していたようだ。
 それぐらい、幼い時のヴィルヘルミーナは、出来が悪かったのだ。

 そして、無口で何もできなかったヴィルヘルミーナが、私を助けに来るとは、何か不思議な気がするわ。
 しかも、私と似た口調を話すようになって……


 この様にアンの口から、母の言葉が伝えられた。
 そして、この時、私のはらわたは煮えくり返っていた。
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