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第六章 ヴィルヘルミーナの白い海賊船
6-8.ジョルジェット
しおりを挟む味方の傭兵に囲まれジョルジェットは、焦りを隠せないクレマンティーヌの様子をうかがっていた。
「おかしい。こんなはずでは」
そう、ジョルジェットがバート・メルゲントハイムでアンゲーリカのいる馬車乗り場に出向き、アンゲーリカを催眠術で攫ってきた。
その時には、何の抵抗もなく催眠術は成功したのだ。
「この女の中に、こんな化け者が潜んでいたとは……」
そう、アンゲーリカが一人でバート・メルゲントハイムからフランクフルトを経由して、ラインラントに帰る馬車乗り場で部下と共に、捕まえたのだ。
そして、近くの『賢い女たち』の隠れ家にて、しっかりとジョルジェット自身が催眠術をかけ、フォルカーの監視をさせていおいた。
時に、女ではないが誘惑をし、また、仕事の負担を増し、ストレスを与え、心身ともに、疲れさせるのが目的だ。
そして、隙があらば、殺しても良いと考えていた。
裁かれるのは、アンゲーリカなのだから。
しかし、これはどういうことなのだ。
催眠術の上書きも行ってきたのに、死んだマリアンヌの人格が無意識に埋め込まれていただと!
催眠術も無意識に働きかけるもの、何らかの拒否反応があっても良いはずなのに……
それを見過ごしたのだろうか?
マリアンヌの声が聞えた。
「催眠術師よ。自分の催眠術が効かなかったことに疑問を持っているな。『催眠術は成功したはずなのに』と」
「うっ……」
それを見た、アレクサンドラは、観念しているようだ。
自分たちの知る最高の催眠術師であるジョルジェットが何度も行っていたのだ。
その彼女に分からないのなら、この分野ではマリアンヌには勝てないと。
「ジョルジュ……」
そこに、高笑いでもするようにマリアンヌが言い放った。
「お前たちの扱える無意識領域と私が扱う領域では深さが違うのだよ」
「なに?」
「お前たちの扱う無意識とは、しょせん、個人の領域だ。私の扱うものは、もっと深い深いものだ。
親から子、子から孫へと脈々と受け継がれてきた無意識領域に渡しの人格を埋めこんだのだ。お前たち程度の魔女では知ることも出来ない領域なのだよ」
「そんなところにアクセスできるものか?」
「現にお前が使った催眠術は、とっくに解除されているじゃないか。あはは」
「くそ、こんな化け物がいるなんて」
「では、味方の傭兵に首をはねらて死にな」
「また、エラそうに」と、私は、今度は聞えない声でつぶやいた。
のはずなのに、また、母が、こちらを見たような気がした。
「なぜ?」
クレマンティーヌが話すようだ。
「マリアンヌ、確かに私たちは、命の危機だ。しかし、お前たちは大丈夫なのか? この周りには、マインツから侵攻してきた傭兵団が集結しつつある。この傭兵にはお前の力は届いていないはずだ」
――確かに、クレマンティーヌの言う通りだ。
「それは困りましたわ。この傭兵たちにも戦ってもらわないとイケないわね」
いや、ここにいる傭兵は20人といない。私たちも同じだ。
しかし、ここを囲む傭兵は100人はいるのではないか?
「マリアンヌ、私が死んでもお前たち一族は滅ぶ。今頃、お前の育ったあのハイデルベルク城も落ちるころだ。門番と言えばわかるだろう」
「門番……」
すると、援軍の傭兵の一人が、岩を登って来た。
「もうそこまで来ている」と護衛隊が叫んでいる。
「おい、そこの傭兵。私に剣を貸しなさい」と母が言うと、何の抵抗もなく、傭兵は母に剣を渡した。
すると、母は岩を登って来たクレマンティーヌの援軍に対し、vom Tagの構えを取り、「これがドイツ剣術『怒りの攻撃』」というと、傭兵を袈裟斬りで真っ二つにしてしまった。
「おい、クレマンティーヌ。お前たちの雇った傭兵は紙切れなのか? あはは」
「すごいパワーだ」
しかし、こんなパワーで攻撃するとアンの身体が壊れてしまうのではないか?
人格は母でも、元の身体はアンの身体なのだから。
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