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第六章 ヴィルヘルミーナの白い海賊船
6-12.つい
しおりを挟む屋敷に帰ってきた。
ドイツ騎士団も招くことになった。
「ビアンカ!」
「ヴィルマ姉さま、お久しぶりです」
「ヴァッテンバッハ副団長も、お久しぶりです」
「なぜ、ここに?」と私は、二人がここにいることを訪ねた。プロイセン公国からは、遥か彼方のラインラントに、二人が現れるとは思っていなかったのだから。
そして、この時に、二人がバート・メルゲントハイムに留学に来ていたことを知った。
そこで、アインス商会から、今回の危機を知ったそうだ。
その際、エマリーがガレオン船でライン川を下るので、騎士団も便乗したとのことだった。
「馬を休めることが出来たので、すぐに戦闘に係ることが出来たよ」とヴァッテンバッハ副団長が説明してくれた。
――なるほど。それであの勢いで攻めることが出来たのか。
「クリスタさんが、いつも寂しがっていましたよ。『ヴィルヘルミーナ嬢は、いつ来るのかしら』って」
「まあ、随分と気に入ってもらえたのね。今度、手紙でも書きますわ」と、笑い合った。
さて、父はドイツ騎士団と話が終わり、その後、護衛隊長と私と話があると執務室に呼んだ。
やはり、アンもいた。いや、母もいた。
「お母さま、そろそろ、アンに身体を返してあげたら」
「戦闘が終わるまでは無理ね」
「まあ、そうですわね……」
さて、父が今後の作戦を話すようだ。
「今日の戦闘はご苦労であった。感謝する。さて、問題は、逃げた船についてだ。
アインス商会の伝書鳩通信によると、ボンで他の戦闘船と合流したようだ。また、攻めてくると思う」
執務室に静寂が広がる。
「今、闘える船はガレオン船しかない」
「しかし、大砲が二門しかないと……」
「なので、今、城にある大砲を積んで対抗する。アインス商会の従業員に弾と砲の整備を頼んだ。そして、ヴィルがボンに置いてきた船と挟み撃ちにする」
「フォルカー、奪った船も使いましょう。そうすれば、三対二になるわ」
「そうだな」と、父が言うも、売り物が売れなくなるのではと、心配したが、ガレオン船の方が高いだろう。
ガレオン船の盾になってもらう方が良いか……
「おそらく、敵船は夜明けと共に出港するはずだ」と、父が言った。
ボンから伝書鳩を飛ばしたのは、ローズマリーだ。
「イライザ、明日の日の出に出航するから、お願いするわね」
「まかせるでがす。操舵手の補助程度なら、私にも出来るだっちゃ」
***
さて、会議も終わり、私は母と二人になった。
「お母さまッ」
「なにかしら、ヴィル」
「なんで私を魔女にしたの?」と言うと母は額に手を当て、俯いてしまった。
「私も、今のアンのように、お母さまに人格を乗っ取られるの?」
「実は、よくわからないのよ」
「今日、そんなこと言ってなかったわ。『私はお母さまのコピーじゃないの』って、言ったら、『なぁにが、いけないの」ですって」
一呼吸、置いて、母:マリアンヌが話し始めた。
「そうね。ごめんなさいね」
――えっ、母が、誤ったところ、初めて見たわ。
「貴女に、私の知る知識を与えすぎてしまったの。その際、貴女の人格にも触れてしまったのよね」
「どんな知識を与えたの?」
「そうね。剣術とか兵法は与えたわ」
「剣術?」
「そうよ、何の訓練もなく、貴女は『秘密の攻撃』が出来たじゃないの。誰かに教わった?」
――確かに、私は素振りしかしていない。基本的な攻撃だけ学園で教わったのみだ。
「学園で兵法は習わないわね」
――そう、私は何故か、騎馬民族の戦法など、戦場の知識がある。
これも、母が与えた知識なの……
「もっと女の子らしい知識は無いの? 貴族令嬢らしい」
「もちろん、あるわよ。たくさん、そう、そう、そうね……」
――ないんだ……
それは、置いておいて。
「お母さん、いつまでアンを乗っ取るのよ」
「だから、戦闘が終わるまでよ」
「ふ~ん、アンの身体で何をしているのかしらね。ふふふ」
――私は、アンが男か女か、すごく聞きたかったが、それはやめることにした。
「まあ、確かに、この身体は興味深いじゃない」
「!?」
「フォルカーを誘惑するには、若さが足らないけど」
「!?」
「まあ、ヴィル。赤い顔をして、どうしたの?」とわざとらしく、母が顔を覗き込んできた。
「興味深いものがぶら下がっているので、ついね」
――つい、何をするのッ!?
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