握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

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第六章 ヴィルヘルミーナの白い海賊船

6-11.68ポンド砲の威力

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 本船の異変に気が付いたのだろう、一隻の船がこちらに直進して来るではないか。

「ヤスミン、早く!」と、エマリーが叫んだ。

 しかし、砲身を出してからでないと、弾込めが出来ない。
「急げ! 敵が来るぞ」と、ヤスミンが檄を飛ばしている。

 お互いの砲撃で水柱が何本も上がり、頭から水を被った状態になったが、本船で、これに動じる船員はいない。
 アイルランドで何度も経験済みなのだから。

「お頭、撃てますッ」
「よし、撃てッ」

 そして、すさまじい音を鳴らし、68ポンド砲が火を噴いた。
“ドゴォーーーーン”

「エマリー、一撃で木っ端みじんと言うのは、本当だったのね」

 敵の船は、空高くまで破片を飛ばしている。

 それを見た騎士団が「うわぁー」と歓喜の声を上げた。
 しかし、まだ二隻いる!
 と思いきや、後ろの一隻は、後退し始めたが、もう一隻は反転にミスをしたようだ。焦ったのだろう。

 普通なら、「もう一撃を」となるのだろうが、私は故郷を荒らされ、内心、怒りを堪えていた。

「みんな、よく聞け! あの船に乗り込む。海賊のやり方でだ! ラッパを鳴らせ」と、私は、燃えに燃えていた。
 するとイリーゼが駆けてきた。
「お頭、海賊用の短剣です」
「ありがとう」と私はイリーゼに微笑んだ。イリーゼも気をよくしたのか微笑み返してくれた。
 俄然、やる気が出た。

「エマリー、舵をお願い。イリーゼ、突撃隊を編成して。私は後方支援隊をまとめるわ」
「「了解!」」

 そして、逃げそびれた一隻に突撃を掛けることにした。

 見張台に上ったヤスミンの射撃は抜群で、とてもマスケット銃とは思えない。
 ひょっとして、ライフリングでもしているのだろうか?

「突撃ィ!」とイリーゼが叫んだ。
 私たちは、一気に敵船になだれ込み、戦闘を開始した。


「ヴァッテンバッハ副団長、ダーメ・ヴィルマは見たことない戦闘の仕方をしているわ」
「ああ、短剣を自在に使っている」

「マリアンヌ、あれもお前が与えた知識なのか?」
「いえ、フォルカー。私の与えた知識は騎士の戦いだけよ。あれは、ヴィルが身に付けた知識だわ、いや経験だわ。ふふふ」

 そして、こんな小さな船に乗る船員など、アッと言う間に制圧できた。
「さんざん、領地を荒らしてくれたんだ。その代償を払ってもらうぞ」と、言うと海賊団は船員全員に縄をかけ捕らえた。

 いや、女海賊団の大半は、ボンに停泊しているキャラベルにいる。ここにいるのは、厳密にはアインス商会の従業員なのだが、故郷のために働いてくれた。
 まあ、こいつらも海賊と五十歩百歩な連中だし、領民が領地のため戦闘をしても、なんら問題は無い。
 
 一方、ドイツ騎士団は、傭兵たちを捉えていた。

 ここで、傭兵と兵士の違いが戦後の処理に出る。
 兵士は領地を護るため領主から報酬を得ているから、捕らえられると捕虜になる。
 つまり、捕虜交換の際、戻れることになる。
 だから、死なずにいることが大事だ!

 しかし、傭兵は違う。
 カネで雇われた連中なのだ。
 今日は味方でも、明日は敵になる。
 だから、捕まっても捕虜にはならない。売りさばくしかない。
 それを資金に領地の復興をする。

 それもあって、この敵船にはリスクがあっても突撃した。
 船も船員も復興の役に立ってもらうためだ。

 そして、戦闘が終わり、私たちはラインフェスの屋敷に戻ることにした。



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