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第六章 ヴィルヘルミーナの白い海賊船
6-15.故郷は護ってこそ 2
しおりを挟む半カルバリン砲の砲撃から、武装した漁船は、ガレオン船の後ろや中洲の中で身を隠していた。
これで、相手も的が絞れず、砲弾の無駄になり撃てはしまい。
無限に弾がある訳ではないはずだ。
しかし、五隻もいるとかなりの砲弾数があるようだ。中にはブドウ弾の様なものもあり、対人攻撃に絞っている。
一方、岸にいた一般兵と騎士は、草むらに身を隠していたようだが、護衛隊長が決意したようだ。
「馬車で移動する」
敵船のいるところまで移動するのだろうか?
岸に置いていた大砲は、中洲と挟み撃ちにするための大砲で、射程距離は短いファルコネット砲が中心のようだ。
すると、大砲を馬車に積み込もうとしているところに、傭兵団が現れた。
まあ、当然だろう。見張も張り付いているだろうし。
ならば……
「武装漁船を先行させる。その間にガレオン船を動かす」
陸と川の両方から迫れば、的が絞り難いし、こちらのカルバリン砲の射程は6キロだ。
4キロ詰めれば、こちらも撃てるが、相手も下がりながら撃って来るだろうが、下流にはローズマリーがいる!
挟撃が出来るはずだ!
***
時間は遡り、ボンから敵船が出港した時、ローズマリーたちキャラベルも後を追うことにした。
下流からキャラベル、上流からガレオン船で挟撃が出来るからだ。
「イライザ、敵が登って行ったわ。後を付けるわよ」と、ローズマリーが言うと、錨を上げ、キャラベルは出港した。
数キロ進むと、かすかに大砲の音が聞えた。
「イライザ、これは」
「もう始まっているようでがす」
とは言え、くねくねと曲がっているライン川である。
発砲している敵船は見えない。
すると、中洲の前に一隻の船が、「ここは通さない」と言わんばかりに、船を横付けしていた。
ということは、その船の船側の砲塔がローズマリーたちのキャラベルに向いていたのだ。
「ダメぇ」とローズマリーが言うも、発砲してきた。
水柱が立ち、頭から水を被ってしまった。
「お頭も副船長もいない時に!」と、ローズマリーが焦っている。
そこに走って来たのは、船医のエンペラトリースだ。
「何をやっとるか! 敵は目の前だ。当たらなかったのが幸い。反撃するぞ」と叱咤している。
「正面、主砲を用意するのじゃ」
「アッ、はい」
「42ポンド砲がすぐ撃てます」
「よし、撃つのじゃ」
“ドォーーーン”
キャラベルから発砲した主砲の弾は、敵船をかすりはしたがダメージを与えてはいない。
「続いて、側面の32ポンド砲、撃てます」
「よし、撃ちまくるのじゃッ」と、エンペラトリースの声が、さらに大きくなる。
また、敵の砲撃で水柱があがる。
「慌てるんじゃないぞ。大砲を濡らして撃てんようにするじゃないぞ」
「「先生ッ」」と、ローズマリーとイライザが口をそろえて言うと、エンペラトリースは、「ニッ」と口角を上げて笑ったように見えた。
何か頼もしいベテランと言う感じだ。
「イライザ、二時の方向へ。背後を取るのじゃ」
「おもぉぉかぁじぃ」
そして、キャラベルが敵の船の背後を取ろうとするが、敵も動く。
すると、キャラベルが上流を取る形になった。
「今じゃ、機雷を流せ」
川の流れに乗り、導火線に火を灯した機雷が流された。
「上手く当たってくれよ」と、エンペラトリースが言うと、小銃を手にしていた。
機雷が敵船に達しても爆発しない時のためのものだ。
銃で撃ち爆発させる。
しかし、この時代の小銃はライフリングがなされていないため、命中率が悪く、数人で一斉に撃つのが決まりになっている。
そうしないと当たらないからだ。
なので、エンペラトリースは、三人に小銃を持たせておいた。
「今だ! 撃て」
“パーーン”
すると、小銃の弾が機雷に当たり、爆発を起こした。
そして、爆発に巻き込まれた敵船は、舵を失ったかのように流されていった。
「先生。先生がいなかったら、ここを通れなかったと思うわ」
「まあ、先を急ごう。船長たちも苦戦しておるのじゃろう。敵の砲撃が聞えておるからの」
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