握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

文字の大きさ
126 / 126
第六章 ヴィルヘルミーナの白い海賊船

6-18.自由の大海原へ 【最終回】

しおりを挟む

 これで、上からと下からの挟撃で、メッタ討ちにしてやると思いきや、なんと、残りの船は降参すると旗を振っている。

 やる気のないことで……
 とは、いえ、二隻は大破しており、避難している。

「捕虜にするか」
「船も没収ですね」

 気が付けば、ここはライン宮中伯の領地。この連中のことは、ライン宮中伯の警備兵に任せるとしよう。

 さて、一件落着したのだけれど。
「なあ、船長。あの最新鋭のガレオン船の中を見てみたいんじゃ」と、エンペラトリースが、何やらニヤニヤとしながら、話しかけてきた。
 折角の機会だ。
 見学をするぐらい構わんだろう。

「じゃあ、この辺りで停泊して見学をしようか」
「おう、楽しみじゃ」 
 皆、始めて見るガレオン船内に興奮気味だ。

「ヤスミン砲術長、このバカデカい大砲はなんじゃい?」
「あっ、先生。これは68ポンド砲です。ダブルカノンとか、ロイヤルカノンとも言います」
「ふーん、海賊の使うものではないのぅ」

 そりゃ、そうだ!
 うちの領地の水軍のための物なんだから。

「で、この船を船長は、どうするんじゃ?」
「奪いましょう」と、ローズマリーが言うと、「気が合うのう。イヒヒ」とエンペラトリースが笑っている。

 本気でないのは、伝わってきた。

 一願望、一選択肢として言っているのだろう。

 しかし、それは困る人間がいる。
 エマリーだ!
「ダメよ! まだ、半分しか支払いを受けてないわ。この船の!」と、真顔で訴えている。

 笑ったよ、エマリー!
 君は根っからの商売人だよ。


「では、残りは私が払うわ」と言っておいた。
「なら、船長がオーナーじゃな」

「フランスやスペインが、我が故郷にチョッカイをかけないよう。徹底的に略奪をする。それで、皆も良いのかな?」と言うと、一つ二つ、船員たちも頷いてくれた。
「お頭の為になることなら、何でも喜んで」
「ローズ、ありがとう」
「私も、同じく」
「もちろん、私も」

 父にはすまないが、この船をしばらく頂くことにした。
 キャラベルはアインス商会に返し、ガレオン船は、ドーバーのフィツジェラルドの工場へ向かった。

 足らない大砲を揃え、そして、船体を白に塗装した。

 斯くして、私の“白いガレオン船”の出来上がりだ。

 イングランドでは、“The key to the future”号と名乗り、オランダでは、“Der Schlüssel zur Zukunft”号と名乗った。
 共に意味は、「未来への鍵」だ。

 何故なら、自分たちには、輝ける未来があり、未来の扉を開ける鍵がある。
 それを信じ鍵を開けるかは、本人次第なのだから。

 今まで、私は、貴族社会に辟易していた。
 帝国内では、選定候同士の権力と領地争い、帝国外からは領地を狙われ、“貴族令嬢”と言えば聞こえが良いが、争いや政治のツールの一つに過ぎない。

 そんなことは、当たり前じゃないか!
 貴族に生まれたからには、覚悟すべきことだ。
 確かに、そうなのだが……
 しかし、虚しさを覚えてしまった。
 それは、自由な海賊の生き方を知ってしまったからだ。

 自由に大海原を闊歩したい。
 そんな思いに駆られてしまった。
 この思いは、どうすることも出来ない。

 そう、グラーニャは、イングランドと和平と言いながら、今日もイングランド商船を襲っているのだろうか?

 オランダのヴァスティアーン様は、スペインから領地を守るため、今もスペイン商船を襲っているのだろうか?

 私は、いずれ、この領地に戻ってくる。
 その日まで、私は自由を求める海賊の船長をするつもりだ。

 この100人の仲間と共に、自由に大海原を駆けるつもりだ。

 何故なら、私は何にも捕らわれるつもりはない。
 過去からの侵略者からも、貴族社会からも。
 未来は進むためにあるものだから。

 これから、未来に何が待っているのだろうか。
 私は何があっても、仲間と突き進むつもりだ。

 何故なら、私はヴィルヘルミーナ。
 この地の領主の娘にして、キーナ・コスペル海賊団の船長。
 そう、キーナ・コスペル、その人なのだから。

 完
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クロワッサン物語

コダーマ
歴史・時代
 1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。  第二次ウィーン包囲である。  戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。  彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。  敵の数は三十万。  戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。  ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。  内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。  彼らをウィーンの切り札とするのだ。  戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。  そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。  オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。  そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。  もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。  戦闘、策略、裏切り、絶望──。  シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。  第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...