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1.窓の外の女
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第一話
窓の外の女
ヴィルヘルミーナたちが、ヨーロッパに帰ってきた。
皆、自然と笑みがこぼれ、笑い合っている。
何か仕事を達成した時の喜びにあふれている。
そんな様子を見ているのはイリーゼだ。
イリーゼは、彼女たちを見て、あの人を思い出していたようだ。
エルメンヒルデ、彼女のことを……
「私の船でミーナたちを、迎えに行って良かった。
本当に良かった。
これも、エルメンヒルデ!
貴女のおかげね」
そう思うと、自然と笑みがこぼれた。
私は、あの事件以来、上手く笑う事が出来ない。
若い頃は、あれだけお喋りをし、よく笑ったのに、あの事件以来、笑えなくなったのだ。
その事件について語ろうと思う。
我が友、エルメンヒルデに何が起こったのかを。
あれは、アムステルダム経由でバルト海へ、食品を運んでいた時のことだった。
「豚は? 豚は無いのか?」
「私らは、家畜は運ばないのよ。クサイからね」
「ガレオン船だろう? ガレオン船には家畜を運べる部屋があるはずたよ」
「あるけど運ばない主義なのよ。その理由は……」
「理由は?」
「うちのキャプテンは、海賊令嬢さまだからよ。だから臭くて不潔な家畜はご法度よ。うふふ」とエマ姉さんが答えた。
エマ姉さんと商人のやり取りを聞いて、私は影で大いに笑っていた。
ちょっと、エマ姉さんたら!
あのお頭を“海賊令嬢”だなんて!
そう、お頭は、後の時代、美人と言われているが、若い頃は、猛禽類の様な鋭い目付きをしており、髪の毛以外は美しいとは思わなかった。
そのお頭が綺麗になる転機は、フランシス・ドレイクに「別嬪さん」と呼ばれたことから始まる。
「おい、イリーゼ! ドレイク殿から『別嬪』と言われだぞ。それは私が美人と言うことか? そうだよな? イリーゼ」
まあ、それは、社交辞令と分かっていたが、お頭の様子が、もうそれは、それは、乙女全開だったので、ここは話を合わせる事にした。
「えぇ、お頭は美人です。きっとドレイク殿もお頭の魅力で、つい口にしてしまったのでしょう。なんと言っても、お頭はご令嬢なのですから」
うん、我ながら、上手い具合にお頭を持ち上げたと思う。
「そうか、イリーゼ。私は美人だったんだ」と喜び勇んで、街へ駆け出していった。
おそらく、ドレスか化粧品を買いに行くのだろう。
ヤレヤレ!
この船では、お頭が船長で、エマ姉さんが副船長だ。
その二人が、こんなお調子者だから、クルーも当然、お調子者だ。
なので、私も、船ではお調子者を演じ、楽しんでいる。
あのシュベルツ海賊団との出会いの時などは、私が酔ったふりをして、ローズマリーさんをからかったのを、今も覚えている。
そう、閣下の中では私が一番年下だったのだ。※1
その私が、船員たちと目つきの悪いお頭と人殺しを何とも思っていないエマ姉さんの間に入ることで、潤滑油になると思っていたからだ。
おそらく、まともな人間ならお頭に睨まれたりしようものなら、あの目つきの悪さから逃げ出すだろうし、また、エマ姉さんと一日中、会話ができる者など私以外にいないだろう。頭が破裂するというものだ。
そんな海賊団を、のらりくらりと上手くやるのが私の役目だ。
話は戻り、バルト海のある街では、お頭の本家である公爵家の屋敷がある。
「ローズマリー、伯父上にご挨拶をしてくる。ドレスアップを頼む」
「はい、お頭」
「あと、夜は、皆で酒盛りだ。見張りを決めておいてくれ。
私は伯父上の屋敷から、直接、店に行くよ」と言うと、お頭は、ドレスアップし公爵様の屋敷に出かけていった。
「イリーゼ、見張りを決めるわよ。皆を呼んできて!」
「はい、ローズマリーさん」
そして、私は見張りではなく、酒盛りをする店に行くことになった。
店は二階の個室を借切り、酒盛りが始まった。
しばらくして、一階の見張りから、
「先から、店を覗いている女がいます」
「他の海賊か?」
そう、バルト海には昔から、ヴァイキングを始め、海賊で溢れていたのだから、まずは海賊を疑うのは当然だ。
「いえ、お頭。それがなんとも貧相な女でして。海賊では無いとは思うのですが、あまりにも不審な感じなので連絡だけしておきます」
「分かった。見に行こう!」と、お頭は言うと、1階に降りて行った。
私達も、ドレス姿のお頭の後を追って行く。
ドレス姿の貴族令嬢の後を海賊が付いて行く光景は、さぞ、異様だっただろう。
お頭は、店を出て、窓から店の中を覗いている女のもとへ、歩を進めた。
その女は、お頭に気づいてすらいない。
何か必死に店の中を見ている様だ。
「貴女、どうかしたの?」
すると貧相な女が、お頭の顔を見て、
「いえ、その……い、い、嫌よ。嫌ッ。止めてぇぇぇ」と、大声で狂乱してしまった。
私たちは、一瞬で固まった。まさか、お頭の眼をまともに見てしまったのか!
次回の女海賊団は、窓の外の女についてです。
※1 閣下 海賊団の幹部のこと。船員との報酬額の差は1.25倍とやや良い程度。基本、海賊とは自由かつ平等なのだから報酬にも大差がないのだな。
窓の外の女
ヴィルヘルミーナたちが、ヨーロッパに帰ってきた。
皆、自然と笑みがこぼれ、笑い合っている。
何か仕事を達成した時の喜びにあふれている。
そんな様子を見ているのはイリーゼだ。
イリーゼは、彼女たちを見て、あの人を思い出していたようだ。
エルメンヒルデ、彼女のことを……
「私の船でミーナたちを、迎えに行って良かった。
本当に良かった。
これも、エルメンヒルデ!
貴女のおかげね」
そう思うと、自然と笑みがこぼれた。
私は、あの事件以来、上手く笑う事が出来ない。
若い頃は、あれだけお喋りをし、よく笑ったのに、あの事件以来、笑えなくなったのだ。
その事件について語ろうと思う。
我が友、エルメンヒルデに何が起こったのかを。
あれは、アムステルダム経由でバルト海へ、食品を運んでいた時のことだった。
「豚は? 豚は無いのか?」
「私らは、家畜は運ばないのよ。クサイからね」
「ガレオン船だろう? ガレオン船には家畜を運べる部屋があるはずたよ」
「あるけど運ばない主義なのよ。その理由は……」
「理由は?」
「うちのキャプテンは、海賊令嬢さまだからよ。だから臭くて不潔な家畜はご法度よ。うふふ」とエマ姉さんが答えた。
エマ姉さんと商人のやり取りを聞いて、私は影で大いに笑っていた。
ちょっと、エマ姉さんたら!
あのお頭を“海賊令嬢”だなんて!
そう、お頭は、後の時代、美人と言われているが、若い頃は、猛禽類の様な鋭い目付きをしており、髪の毛以外は美しいとは思わなかった。
そのお頭が綺麗になる転機は、フランシス・ドレイクに「別嬪さん」と呼ばれたことから始まる。
「おい、イリーゼ! ドレイク殿から『別嬪』と言われだぞ。それは私が美人と言うことか? そうだよな? イリーゼ」
まあ、それは、社交辞令と分かっていたが、お頭の様子が、もうそれは、それは、乙女全開だったので、ここは話を合わせる事にした。
「えぇ、お頭は美人です。きっとドレイク殿もお頭の魅力で、つい口にしてしまったのでしょう。なんと言っても、お頭はご令嬢なのですから」
うん、我ながら、上手い具合にお頭を持ち上げたと思う。
「そうか、イリーゼ。私は美人だったんだ」と喜び勇んで、街へ駆け出していった。
おそらく、ドレスか化粧品を買いに行くのだろう。
ヤレヤレ!
この船では、お頭が船長で、エマ姉さんが副船長だ。
その二人が、こんなお調子者だから、クルーも当然、お調子者だ。
なので、私も、船ではお調子者を演じ、楽しんでいる。
あのシュベルツ海賊団との出会いの時などは、私が酔ったふりをして、ローズマリーさんをからかったのを、今も覚えている。
そう、閣下の中では私が一番年下だったのだ。※1
その私が、船員たちと目つきの悪いお頭と人殺しを何とも思っていないエマ姉さんの間に入ることで、潤滑油になると思っていたからだ。
おそらく、まともな人間ならお頭に睨まれたりしようものなら、あの目つきの悪さから逃げ出すだろうし、また、エマ姉さんと一日中、会話ができる者など私以外にいないだろう。頭が破裂するというものだ。
そんな海賊団を、のらりくらりと上手くやるのが私の役目だ。
話は戻り、バルト海のある街では、お頭の本家である公爵家の屋敷がある。
「ローズマリー、伯父上にご挨拶をしてくる。ドレスアップを頼む」
「はい、お頭」
「あと、夜は、皆で酒盛りだ。見張りを決めておいてくれ。
私は伯父上の屋敷から、直接、店に行くよ」と言うと、お頭は、ドレスアップし公爵様の屋敷に出かけていった。
「イリーゼ、見張りを決めるわよ。皆を呼んできて!」
「はい、ローズマリーさん」
そして、私は見張りではなく、酒盛りをする店に行くことになった。
店は二階の個室を借切り、酒盛りが始まった。
しばらくして、一階の見張りから、
「先から、店を覗いている女がいます」
「他の海賊か?」
そう、バルト海には昔から、ヴァイキングを始め、海賊で溢れていたのだから、まずは海賊を疑うのは当然だ。
「いえ、お頭。それがなんとも貧相な女でして。海賊では無いとは思うのですが、あまりにも不審な感じなので連絡だけしておきます」
「分かった。見に行こう!」と、お頭は言うと、1階に降りて行った。
私達も、ドレス姿のお頭の後を追って行く。
ドレス姿の貴族令嬢の後を海賊が付いて行く光景は、さぞ、異様だっただろう。
お頭は、店を出て、窓から店の中を覗いている女のもとへ、歩を進めた。
その女は、お頭に気づいてすらいない。
何か必死に店の中を見ている様だ。
「貴女、どうかしたの?」
すると貧相な女が、お頭の顔を見て、
「いえ、その……い、い、嫌よ。嫌ッ。止めてぇぇぇ」と、大声で狂乱してしまった。
私たちは、一瞬で固まった。まさか、お頭の眼をまともに見てしまったのか!
次回の女海賊団は、窓の外の女についてです。
※1 閣下 海賊団の幹部のこと。船員との報酬額の差は1.25倍とやや良い程度。基本、海賊とは自由かつ平等なのだから報酬にも大差がないのだな。
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