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6.父と娘
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第6話
父と娘
私達は貴族病棟までやってきた。
皆が緊張しているのが分かる……
いつもなら、お調子者を演じて緊張をほぐすのだけれども、その様な余裕もなかった。
先から、エルメンヒルデが何度も深呼吸をしている。
「エルメンヒルデ、落ち着いて。大丈夫よ。私も付いているからね」とお頭がエルメンヒルデの背中をさすっている。
あの酒場の時を思い出した。
「では」と言うと、私はドアをノックした。
三度、はっきりと聞こえるようにドアをノックした。
二度しか聞こえないと、略式のノックに思われてはイケない。お頭が令嬢モードで貴族を訪問しているのだから。
そして、使用人らしき年配の女性が、「どなた様でしょうか?」と中から出てきたので、私は「こちらは、ホーエンツォレルン家のヴィルヘルミーナ嬢が、ラインハルト殿のお見舞いに参りました」と返答した。
「左様でございましたか。お入りください」と、私たちは中に入ることにした。
中に入ると、使用人が控えている部屋があり、さらに奥が病室になっているようだ。
これが貴族使用というものなんだろう。
「中へどうぞ」と言われ、部下2名をこの部屋に残し、私とお頭とエルメンヒルデが病室に入ると、正妻らしき女性と少年と幼女がいた。
ラインハルト殿の子供だろう。
「ラインハルト殿、お久しぶりですね。随分とご出世されたようで何よりですわ。体調は如何ですの?」
「これは、ヴィルヘルミーナ嬢。わざわざのお越し、ありがとうございます」と、その後は社交辞令を行い、我々もご挨拶した。
エルメンヒルデは正妻や子供たちの手前、“アインス商会を代表して挨拶に来た”ということにした。
ここで、正妻と息子と娘は、部屋を出て行った。
事情を知る正妻が気を利かせてくれたのだろうか。
「お、お父さん」
「エルメンヒルデ、ずっと探していた。ずっと」
探しても見つからないはずだ。エルメンヒルデは新大陸へ行っていたのだから……
親子二人にしてやりたいのだけれども、お頭と私が使用人のいる部屋に戻ると不自然なので、なんとも居づらかったのを覚えている。
母親がペストで亡くなったこと。
埋葬するにもお金がなかったこと。
なんとか、ロッテルダムの墓地に埋葬できたこと等を、エルメンヒルデは父親に語っていた。
さすがに、新大陸に行くときの船の話はしなかったのは、当然だろう。
で、今、アインス商会で武器の外商をして、ヴィルヘルミーナ伯爵令嬢と知り合ったと言っている。
「そうか、良かったな」と父も満足気だ。
そして時間になり、退出することになった。
外の部屋にいた娘が、どういう訳か、
「お姉ちゃん、お姉ちゃんは、どなたなの?」と、エルメンヒルデに聞いてきた。
驚いたのはエルメンヒルデだけでなく、正妻も病室にいる父も驚いていた。
「えっ、私? 私はエルメンヒルデ。伯爵令嬢様の……お友達よ」とエルメンヒルデが答えると、お頭は「ウンウン」と頷いていた。
「エルメンヒルデお姉ちゃん。今度はいつ来るの?」
何故、この娘はエルメンヒルデにまとわりついて、質問をするのだろうか?
その時、この幼女の髪の毛がボンネットの後ろから見えた。
天然パーマだ!
そして、注意深く見ると、エルメンヒルデとどことなく似ている。
父親に似ているのか?
確かに姉妹に見える。
この幼女は、無意識に気が付いたのだろうか?
エルメンヒルデが姉だということを。
「まあ、申し訳ないですわね。エルメンヒルデさん、商会での契約の件がございますの。お店までご案内をお願いしたいのですわ」とお頭が助け船を出して、この場は治まった。
エルメンヒルデは、深々と正妻に頭を下げて部屋を出た。
それは、「二度とご迷惑をおかけしません」と言っているように見えたのは、私だけだっただろうか?
そして、実際、二度とエルメンヒルデが父親に会うことはなかったのだから。
理由は、2カ月後、父は亡くなったのだ。
どうやら、精神を病んでいたようだ。
もしかして、貴族病棟と言うのは、お頭たちがエルメンヒルデを安心させるためそう説明したのであって、あれは精神病棟で患者が出歩かないために二重扉にしていたのではないだろうか?
今となっては、その様なことは、聞けるはずもないのだけれども。
そして、エルメンヒルデは、皮肉なことに自分達を追い出した祖父母しか、今や身内がいなくなったのだ。
その頃から、エルメンヒルデの無謀ともいえる行動が目立つようになってきた。
死を恐れないのでなく、死に行くような行動をするようになり、護衛隊長の私を苦しめるようになってきた。
次回の女海賊団は、エルメンヒルデ無双です。
父と娘
私達は貴族病棟までやってきた。
皆が緊張しているのが分かる……
いつもなら、お調子者を演じて緊張をほぐすのだけれども、その様な余裕もなかった。
先から、エルメンヒルデが何度も深呼吸をしている。
「エルメンヒルデ、落ち着いて。大丈夫よ。私も付いているからね」とお頭がエルメンヒルデの背中をさすっている。
あの酒場の時を思い出した。
「では」と言うと、私はドアをノックした。
三度、はっきりと聞こえるようにドアをノックした。
二度しか聞こえないと、略式のノックに思われてはイケない。お頭が令嬢モードで貴族を訪問しているのだから。
そして、使用人らしき年配の女性が、「どなた様でしょうか?」と中から出てきたので、私は「こちらは、ホーエンツォレルン家のヴィルヘルミーナ嬢が、ラインハルト殿のお見舞いに参りました」と返答した。
「左様でございましたか。お入りください」と、私たちは中に入ることにした。
中に入ると、使用人が控えている部屋があり、さらに奥が病室になっているようだ。
これが貴族使用というものなんだろう。
「中へどうぞ」と言われ、部下2名をこの部屋に残し、私とお頭とエルメンヒルデが病室に入ると、正妻らしき女性と少年と幼女がいた。
ラインハルト殿の子供だろう。
「ラインハルト殿、お久しぶりですね。随分とご出世されたようで何よりですわ。体調は如何ですの?」
「これは、ヴィルヘルミーナ嬢。わざわざのお越し、ありがとうございます」と、その後は社交辞令を行い、我々もご挨拶した。
エルメンヒルデは正妻や子供たちの手前、“アインス商会を代表して挨拶に来た”ということにした。
ここで、正妻と息子と娘は、部屋を出て行った。
事情を知る正妻が気を利かせてくれたのだろうか。
「お、お父さん」
「エルメンヒルデ、ずっと探していた。ずっと」
探しても見つからないはずだ。エルメンヒルデは新大陸へ行っていたのだから……
親子二人にしてやりたいのだけれども、お頭と私が使用人のいる部屋に戻ると不自然なので、なんとも居づらかったのを覚えている。
母親がペストで亡くなったこと。
埋葬するにもお金がなかったこと。
なんとか、ロッテルダムの墓地に埋葬できたこと等を、エルメンヒルデは父親に語っていた。
さすがに、新大陸に行くときの船の話はしなかったのは、当然だろう。
で、今、アインス商会で武器の外商をして、ヴィルヘルミーナ伯爵令嬢と知り合ったと言っている。
「そうか、良かったな」と父も満足気だ。
そして時間になり、退出することになった。
外の部屋にいた娘が、どういう訳か、
「お姉ちゃん、お姉ちゃんは、どなたなの?」と、エルメンヒルデに聞いてきた。
驚いたのはエルメンヒルデだけでなく、正妻も病室にいる父も驚いていた。
「えっ、私? 私はエルメンヒルデ。伯爵令嬢様の……お友達よ」とエルメンヒルデが答えると、お頭は「ウンウン」と頷いていた。
「エルメンヒルデお姉ちゃん。今度はいつ来るの?」
何故、この娘はエルメンヒルデにまとわりついて、質問をするのだろうか?
その時、この幼女の髪の毛がボンネットの後ろから見えた。
天然パーマだ!
そして、注意深く見ると、エルメンヒルデとどことなく似ている。
父親に似ているのか?
確かに姉妹に見える。
この幼女は、無意識に気が付いたのだろうか?
エルメンヒルデが姉だということを。
「まあ、申し訳ないですわね。エルメンヒルデさん、商会での契約の件がございますの。お店までご案内をお願いしたいのですわ」とお頭が助け船を出して、この場は治まった。
エルメンヒルデは、深々と正妻に頭を下げて部屋を出た。
それは、「二度とご迷惑をおかけしません」と言っているように見えたのは、私だけだっただろうか?
そして、実際、二度とエルメンヒルデが父親に会うことはなかったのだから。
理由は、2カ月後、父は亡くなったのだ。
どうやら、精神を病んでいたようだ。
もしかして、貴族病棟と言うのは、お頭たちがエルメンヒルデを安心させるためそう説明したのであって、あれは精神病棟で患者が出歩かないために二重扉にしていたのではないだろうか?
今となっては、その様なことは、聞けるはずもないのだけれども。
そして、エルメンヒルデは、皮肉なことに自分達を追い出した祖父母しか、今や身内がいなくなったのだ。
その頃から、エルメンヒルデの無謀ともいえる行動が目立つようになってきた。
死を恐れないのでなく、死に行くような行動をするようになり、護衛隊長の私を苦しめるようになってきた。
次回の女海賊団は、エルメンヒルデ無双です。
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