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本編 リディア編
第十五話 冷徹王子の事情!? ①
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時間は少し遡る。
シェスレイトとディベルゼは執務室にいた。
午後からは婚約者とのお茶会だ。婚約発表から一度も会いには行っていない。薬物研究所近くで見かけただけだ。
今回のお茶会はあまりにも婚約者同士が会わないことを問題に思った国王からの命令だった。
シェスレイトは酷く面倒だという顔をする。何故そこまで婚約者に会うのを嫌がるのか。
それは婚約者がどうとか、リディアがどうだとかは関係なかった。
シェスレイトは女性が苦手だった。苦手というよりは嫌悪を抱いている程だ。
シェスレイトは幼い頃より第一王子として優秀であり、それ以上に眉目秀麗で貴族令嬢たちの間では、絶大な人気を誇っていた。
近寄って来る令嬢はその麗しい姿を誉め、さらには自分を売り込もうと必死だった。
醜くお互いを蹴落とそうとする様も何度も目にし、辟易していた。
シェスレイトが成長するにつれ、周りの喧騒はさらに酷くなっていったが、徐々に国政に関わるようになり、不正は許さず徹底的に冷徹な対処をしていったことから、徐々に令嬢たちの反応が変わっていった。
徐々に近付くものが減っていき、最終的には婚約者としてリディアの名前が噂されるようになり、完全に近付く者はいなくなった。
そういった経緯から、シェスレイトはリディアに感謝をしているのだが、如何せん女性嫌いが治まる前の婚約発表であったものだから、リディアにも冷たい態度しか取ることが出来ない。
しかもリディアは何度かという程度しか会ったことがない為、どのような人物かが分かっていない。
幼い頃の印象は大人しく物静かな少女だ、という印象だけだった。
しかし今、シェスレイトとディベルゼとの議題はその婚約者に関わることだ。
「これを本当にあのリディアが言ったのか?」
「えぇ、確かに」
これ、とはリディアが発言した医療保険と国営病院のことだ。
「リディア様の教師が講義を行う中で、その発言を聞いたとのことでした。最初は笑い話のように話していたらしいですが、よくよく聞くととても理知的な意見を述べられていた、と」
「ふむ、信じられんがな」
シェスレイトはリディアを幼い頃から知っているが、あまり自分の意見を言うような人間ではなかったはずだ。
「確かめてみるか……」
「確かめてどうされるんですか? 実現させてみるのですか?」
「いや、そう簡単には行かんだろう。ただ、……」
ディベルゼにはシェスレイトが何を言いたいのか、何となくだが分かっていた。
「とにかくお茶会に向かいましょうか!」
お茶会に向かったシェスレイトはリディアの姿を目にすると、あまりの美しさに見惚れていた。
美しい顔立ちに負けず、浅葱色の髪と金色の瞳が美しく、淡い紫のドレスと見事に調和が取れており、太陽の光を浴びて、耀いて見えた。
女性に見惚れたことなどないシェスレイトは戸惑い慌てた。
それを誤魔化すために必要以上に睨んでしまう。
何を話したら良いのか分からず、咄嗟に思い付いたのが、先程ディベルゼと話していた内容だ。
焦りながら答えるリディアを見ながら、シェスレイトは貴族令嬢がこんな思考を持っていることに驚き興味が湧いた。だからと言って、いきなり楽しく会話が出来る術はないのだが。
後は気になっていた男のことを聞くだけだ、と質問すれば、従者だという答えが返って来た。
シェスレイトは何故か少しホッとした感情が沸き上がり、今までにない感情に少し戸惑いを感じる。
そうやってシェスレイトは自分の中には今までなかったであろう感情と向き合い確かめている間に、リディアは急に今まで会いにこなかった理由を問いかけてきた。
どう言おうが、今まで会わなかったことは事実だ。言い訳にしかならない。
シェスレイトがそう思っていると、リディアはさらに口を開いた。
聞き取れない程早口に捲し立てられシェスレイトは唖然とした。
シェスレイトは自分の容姿について誉められはするが、怖い顔だとは言われたことはないし、皮肉のようなことを言われたこともない。しかも面と向かって。
あまりに言われ慣れない言葉たちに、シェスレイトはどう反応したら良いか分からなくなり固まった。
今まで思考が停止する経験などなかったシェスレイトは焦った。
焦って、逃げ出した。
逃げ出すなどあり得ない行為に自分が恥ずかしくなった。
足早に執務室へ戻ると、ディベルゼとギルアディスに向かって叫んだ。
「彼女は何なんだ!?」
「何なんだ、と言われましても」
ディベルゼは澄ました顔で答えた。ギルアディスは苦笑している。
「あんなことを言われたことは今まで一度もない!」
「そうですか、ならば初めての経験が出来て良かったですね」
そう言いディベルゼはニコリと笑った。シェスレイトはディベルゼを睨むが、彼には通用しない。
「初めての経験で混乱されたにしても、逃げ出すのはいけませんねぇ」
「ぐっ」
ディベルゼに指摘されたシェスレイトは目を反らす。居たたまれなくなったのか、ギルアディスがシェスレイトに助け船を出した。
「いや、まあ、しかし殿下にとっても良い経験になられたのでは?」
そう言いながらも苦笑するギルアディスにも睨みを利かすがディベルゼと同様に通用はしない。
「殿下は女性を嫌悪し過ぎて、女性に対して免疫がなさすぎなんですよ」
ディベルゼは笑いながら言った。
「ですねぇ、殿下はもう少しリディア様と交流を持たれて、慣れていかれたほうが良いのでは?」
ギルアディスも苦笑しながら、諭すように言う。
シェスレイトは深い溜め息を吐き、項垂れた。
「リディア様は素晴らしい女性じゃないですか。殿下にあんな物怖じせず、意見出来る方は中々いませんよ?」
「確かに、女性で殿下に物怖じせず言える方は今は誰もいませんからねぇ」
二人とも笑いながら言い、シェスレイトはこの二人の前では冷徹王子とは思えない表情を浮かべるのだった。
「冷徹王子が情けない顔をなさらないでください」
ディベルゼは容赦ない。
シェスレイトは恨めしそうにディベルゼを見るが、もはや冷徹王子と言われる冷徹さは微塵もない。
他の人間には絶対に見せられない顔だろう。
シェスレイトは改めてリディアと向き合う決心をするのだった。
だからと言って、すぐに行動に移せる程、シェスレイトの女性に対しての抵抗感がなくなった訳ではないのだが……。
シェスレイトとディベルゼは執務室にいた。
午後からは婚約者とのお茶会だ。婚約発表から一度も会いには行っていない。薬物研究所近くで見かけただけだ。
今回のお茶会はあまりにも婚約者同士が会わないことを問題に思った国王からの命令だった。
シェスレイトは酷く面倒だという顔をする。何故そこまで婚約者に会うのを嫌がるのか。
それは婚約者がどうとか、リディアがどうだとかは関係なかった。
シェスレイトは女性が苦手だった。苦手というよりは嫌悪を抱いている程だ。
シェスレイトは幼い頃より第一王子として優秀であり、それ以上に眉目秀麗で貴族令嬢たちの間では、絶大な人気を誇っていた。
近寄って来る令嬢はその麗しい姿を誉め、さらには自分を売り込もうと必死だった。
醜くお互いを蹴落とそうとする様も何度も目にし、辟易していた。
シェスレイトが成長するにつれ、周りの喧騒はさらに酷くなっていったが、徐々に国政に関わるようになり、不正は許さず徹底的に冷徹な対処をしていったことから、徐々に令嬢たちの反応が変わっていった。
徐々に近付くものが減っていき、最終的には婚約者としてリディアの名前が噂されるようになり、完全に近付く者はいなくなった。
そういった経緯から、シェスレイトはリディアに感謝をしているのだが、如何せん女性嫌いが治まる前の婚約発表であったものだから、リディアにも冷たい態度しか取ることが出来ない。
しかもリディアは何度かという程度しか会ったことがない為、どのような人物かが分かっていない。
幼い頃の印象は大人しく物静かな少女だ、という印象だけだった。
しかし今、シェスレイトとディベルゼとの議題はその婚約者に関わることだ。
「これを本当にあのリディアが言ったのか?」
「えぇ、確かに」
これ、とはリディアが発言した医療保険と国営病院のことだ。
「リディア様の教師が講義を行う中で、その発言を聞いたとのことでした。最初は笑い話のように話していたらしいですが、よくよく聞くととても理知的な意見を述べられていた、と」
「ふむ、信じられんがな」
シェスレイトはリディアを幼い頃から知っているが、あまり自分の意見を言うような人間ではなかったはずだ。
「確かめてみるか……」
「確かめてどうされるんですか? 実現させてみるのですか?」
「いや、そう簡単には行かんだろう。ただ、……」
ディベルゼにはシェスレイトが何を言いたいのか、何となくだが分かっていた。
「とにかくお茶会に向かいましょうか!」
お茶会に向かったシェスレイトはリディアの姿を目にすると、あまりの美しさに見惚れていた。
美しい顔立ちに負けず、浅葱色の髪と金色の瞳が美しく、淡い紫のドレスと見事に調和が取れており、太陽の光を浴びて、耀いて見えた。
女性に見惚れたことなどないシェスレイトは戸惑い慌てた。
それを誤魔化すために必要以上に睨んでしまう。
何を話したら良いのか分からず、咄嗟に思い付いたのが、先程ディベルゼと話していた内容だ。
焦りながら答えるリディアを見ながら、シェスレイトは貴族令嬢がこんな思考を持っていることに驚き興味が湧いた。だからと言って、いきなり楽しく会話が出来る術はないのだが。
後は気になっていた男のことを聞くだけだ、と質問すれば、従者だという答えが返って来た。
シェスレイトは何故か少しホッとした感情が沸き上がり、今までにない感情に少し戸惑いを感じる。
そうやってシェスレイトは自分の中には今までなかったであろう感情と向き合い確かめている間に、リディアは急に今まで会いにこなかった理由を問いかけてきた。
どう言おうが、今まで会わなかったことは事実だ。言い訳にしかならない。
シェスレイトがそう思っていると、リディアはさらに口を開いた。
聞き取れない程早口に捲し立てられシェスレイトは唖然とした。
シェスレイトは自分の容姿について誉められはするが、怖い顔だとは言われたことはないし、皮肉のようなことを言われたこともない。しかも面と向かって。
あまりに言われ慣れない言葉たちに、シェスレイトはどう反応したら良いか分からなくなり固まった。
今まで思考が停止する経験などなかったシェスレイトは焦った。
焦って、逃げ出した。
逃げ出すなどあり得ない行為に自分が恥ずかしくなった。
足早に執務室へ戻ると、ディベルゼとギルアディスに向かって叫んだ。
「彼女は何なんだ!?」
「何なんだ、と言われましても」
ディベルゼは澄ました顔で答えた。ギルアディスは苦笑している。
「あんなことを言われたことは今まで一度もない!」
「そうですか、ならば初めての経験が出来て良かったですね」
そう言いディベルゼはニコリと笑った。シェスレイトはディベルゼを睨むが、彼には通用しない。
「初めての経験で混乱されたにしても、逃げ出すのはいけませんねぇ」
「ぐっ」
ディベルゼに指摘されたシェスレイトは目を反らす。居たたまれなくなったのか、ギルアディスがシェスレイトに助け船を出した。
「いや、まあ、しかし殿下にとっても良い経験になられたのでは?」
そう言いながらも苦笑するギルアディスにも睨みを利かすがディベルゼと同様に通用はしない。
「殿下は女性を嫌悪し過ぎて、女性に対して免疫がなさすぎなんですよ」
ディベルゼは笑いながら言った。
「ですねぇ、殿下はもう少しリディア様と交流を持たれて、慣れていかれたほうが良いのでは?」
ギルアディスも苦笑しながら、諭すように言う。
シェスレイトは深い溜め息を吐き、項垂れた。
「リディア様は素晴らしい女性じゃないですか。殿下にあんな物怖じせず、意見出来る方は中々いませんよ?」
「確かに、女性で殿下に物怖じせず言える方は今は誰もいませんからねぇ」
二人とも笑いながら言い、シェスレイトはこの二人の前では冷徹王子とは思えない表情を浮かべるのだった。
「冷徹王子が情けない顔をなさらないでください」
ディベルゼは容赦ない。
シェスレイトは恨めしそうにディベルゼを見るが、もはや冷徹王子と言われる冷徹さは微塵もない。
他の人間には絶対に見せられない顔だろう。
シェスレイトは改めてリディアと向き合う決心をするのだった。
だからと言って、すぐに行動に移せる程、シェスレイトの女性に対しての抵抗感がなくなった訳ではないのだが……。
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