【完結】異世界で婚約者生活!冷徹王子の婚約者に入れ替わり人生をお願いされました

樹結理(きゆり)

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本編 リディア編

第三十七話 騎乗練習!?

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 シェスレイト殿下の許可をいただき、心が軽い状態で執務室を後にすることが出来た。

 シェスレイト殿下の少し、はにかむような笑顔。一瞬の出来事だったが、紛れもなく笑顔だったはず。

 初めて見るシェスレイト殿下の笑顔にドキリとした。あの美しいお顔で、はにかむ笑顔なんて! 爆弾を落とされたかのような衝撃が! あれは心臓に悪い!

 以前シェスレイト殿下に冗談半分嫌み半分でまくし立てた、あの言葉。
 シェスレイト殿下が笑うとさらに美しくなり、モテ過ぎてヤキモキするはめになる。
 現実になりそうだな、と少し胸の奥にチリチリと痛みを感じたのだった。

 いやいや、自分はいつかいなくなる身。ヤキモキする必要はない。そう自分に言い聞かせた。

 頭を振り、余計な考えを払いのけ、今は騎獣のことを考えよう、と思い直した。

「お嬢様どうかされましたか?」

 マニカがその様子に心配して声を掛けて来る。

「ううん、何でもない。とりあえず魔獣研究所に行こう」

 シェスレイト殿下に許可をいただいたことを伝えないとね。

「そう言えばシェスレイト殿下に私の好きなお茶やお菓子を伝えてくれたの、マニカでしょう? ありがとう。おかげで緊張が解れたよ」

 魔獣研究所に向かう途中、歩きながら話す。

「あれはわざわざディベルゼ様がお越しくださいまして、お嬢様のお好みを聞かれて行かれたのです」

 ニコリとマニカは笑った。

「シェスレイト殿下はお嬢様を大事に思ってくださっているようで安心致しました」
「そ、そうなのかな……」

 大事に思ってくれているのだろうか……。確かに最初に比べると最近は色々私のことを認めてくれているような気がする。

 しかしそれが大事に思ってくれている、という考えまでにはどうしてもまだ辿り着けない。
 それはきっと私がシェスレイト殿下を好きになってしまうのを怖がっているせいだろうな。

 避けないように、これからはシェスレイト殿下と向き合おうと思ったのは事実だが、自分の感情がちゃんと抑えきれるかは不安だった…………。

「あー! ダメだ! ダメダメ!」

 急に叫んだことで、マニカもオルガもビクッとした。

「何!? お嬢!?」
「あ、ごめん。気にしないで」

 アハハ、と笑った。いや、本当に笑うしかない。考えても同じところをぐるぐると堂々巡りしている気がする。ので、考えるのを止めた。考えても答えが出ないことは一旦保留!

 これ、私の良いところ! ん? 悪いところ? 問題先送りしてるだけ?? いや、良いのよ。考えても分からないんだもの。

 自分の頭の中で自分に突っ込みを入れながら、脳内会議終了!

 さて、魔獣研究所……、やっぱり遠いな。着替えてから向かえば良かった、とちょっと後悔。
 幾分かマシになった筋肉痛。しかしドレスを着ての移動はやはり疲れる。

 若干息を切らしながら魔獣研究所に到着。でも涼しい顔ですけどね。そこは一応令嬢気取ります。

「レニードさん、こんにちは」
「リディア様! 今日はとてもお美しいですね! あ、いえ、いつもお美しいのですが、今日の出立ちが……」

 レニードさんは最初目を見開き驚いたかと思うと、今度はしまった! といったような顔でしどろもどろになった。

「フフ、そんなに慌てなくても分かってますから。今日はシェスレイト殿下にお会いしたので特別気合いが入っているのです」

 笑いながら言うと、レニードさんもクスッと笑った。

「それで本題なのですが、シェスレイト殿下の許可をいただいてきました」

 ニコリと笑って言った。
 レニードさんは目を見開き喜びの表情になる。

「本当ですか!? 良かった!! ありがとうございます!!」

 レニードさんは手を握り締めて来た。
 周りには他の研究員も集まり一緒になって喜ぶ。中には上に騎乗の件が漏れて申し訳ないと謝罪する者もいた。

「お披露目式は六日後です。それまでに色々打ち合わせをさせていただきたいのですが」

 レニードさんが提案する。その方が有り難い。いきなりぶっつけ本番はさすがに無理だ。

「そのことでお願いが……。お披露目式当日まで出来る限りゼロに乗って練習をさせていただきたいのです」
「え、我々は構いませんが、リディア様は大丈夫なのですか?」
「えぇ、出来る限り調整します」

 ニコリと笑ったが、後ろでマニカが頭を抱えているのが手に取るように分かるわ。いつもごめんね、マニカ。

 レニードさんたちと話を終えると、ゼロに会いに行った。

『リディア』
「ゼロ、この前は急に帰ってごめんね」
『いや、大丈夫か?』
「うん、心配してくれてありがとう」

 やはりゼロは優しい。色々気に掛けてくれる。

『何だか面倒なことになったらしいな』
「あー、お披露目式ね……」

 苦笑しながら話した。私がゼロに乗ってお披露目式に出るということ、お披露目式まで練習にやって来ること。

『私がリディアを落とすことはないが、そんな場所で騎乗するのは不安ではないのか?』
「んー、それは全く不安じゃないよ。ゼロに全部任せるし」

 そう言い笑った。まあ所謂丸投げなんだけど。

『フッ、だからこそリディアとなら上手く飛べるのだ』
「?」
『リディアは私に身体全てを委ねてくれるからな』

 何だか語弊がある言い方だな、と思いつつ理由を聞いた。

『他の者はどうしても自分の意識が乗る。自分の思うように動かそうとする。しかし私にも考えがあるのだ。それを急に遮られ、思わぬ方向へ指示を出されても上手く動けない』
「なるほど。その点私は何も考えてないものね。全部ゼロ任せ」

 笑った。ん? 笑って良いのかしら? 何も考えてない奴ってことよね。
 うーん、まあゼロが飛びやすいなら良いか。

 ゼロも笑っている気がする……、ドラゴン、人間のような表情はないはずなのに、何故だか思い切り笑われている気がする。

 檻に手を伸ばし、ゼロの顔を両手で挟み、むぎゅっとした。
 鱗に覆われ固いのだが、頬になる部分は少し柔らかく温かい。
 むぎゅっとしながら、顔をさわさわ触っていたら、ゼロは顔をグンと上に向け私の手から離れた。

『何をしている』

 ゼロは頭をブルッと振り言った。

「あ、ごめん。ゼロって表情分からないけど分かるような気かして不思議だったから」
『無闇に撫で回すな。私も雄だぞ?』
「え? アハハ……、ごめん!」

 何言ってるの! と笑った後に、何だか急に恥ずかしくなってしまった。
 雄って! そうだけど! 急にそんなこと言われると何だか恥ずかしい!
 ドラゴン相手に恥ずかしくなるというのもなぁ、と思いつつ、人間と同じように話せるからか、ゼロが紳士的だからか、改めて雄だと言われると何だか緊張しちゃうじゃない!

「すいませんでした、以後気をつけます……」

 やたらと畏まってしまった。

『アッハッハ! リディアは面白いな!』

 ゼロは声を上げて笑った。いや、笑ったというのは声で分かっただけなんだけどね。
 ゼロはひとしきり笑った後に檻から頭を付き出し、私の頬をペロリと舐めた。

「!?」

 後ろでオルガが声にならない悲鳴を上げていた。
 私は一瞬意味が分からず、呆気に取られていたが、からかわれたのを理解し拗ねた。

「ゼロ! ゼロが撫で回すなって言ったくせに!」
『ハッハッハ、すまない』

 笑いながら言われてもな、と拗ねたまま、ゼロの頭をさわさわし返した。

「とにかく明日から時間がある度に騎乗練習しに来るからね!」
『フッ、分かった』

 何だか色んな人にからかわれたり、笑われたりしてる気がする。ゼロは人じゃないけど……。
 まあ良いか……。

 それからというもの暇さえあればゼロとの騎乗練習に励んだ。
 ラニールさんが試作のお菓子を差し入れがてら持って来てくれり、ルーが様子を見に来たりで、中々に賑やかな騎乗練習になった。

「さて、だいぶと慣れてこられたようですし、今日は外まで飛んでみますか?」

 レニードさんが騎乗練習四日目に言った。後、二日しかない。確かにこの研究所敷地内以外を練習しておきたい。

「良いんですか? 出来るならしてみたいです!」
「許可は取ったので大丈夫です」

 レニードさんはニコリとして言った。

 初めての外への騎乗。少し緊張するが楽しみのほうが勝った。

「気を付けてくださいね」
「はい!」

 研究所敷地内の有刺鉄線が開放された。
 あぁ、空が広がった。

「ゼロ、よろしくね」
『あぁ、行くぞ』

 ゼロは翼を大きく広げ羽ばたかせた。
 空高く一気に舞い上がり、今まで有刺鉄線があった高さを通り抜け、遥か彼方向こうまで見渡せる空まで飛んだ。

「あぁ、凄い……」
『自由に高く飛ぶのは久しぶりだな』

 お互い空に感慨深く感じた。
 真っ青な空に流れる雲がまるで芸術作品のように綺麗だった。

『大丈夫か?』
「うん、少し寒いくらいで大丈夫だよ」
『そうか、人間は寒さを感じるのだな』
「ゼロは寒くないの?」
『あぁ、極寒なら感じるが、これくらいの温度は感じない』

 ドラゴンは皮膚が厚いらしいしな、と感心した。本番のときは少し厚着をしたほうが良いかもしれない、と考えるのだった。

『少し飛ぶぞ?』
「うん!」

 ゼロは私の様子を確かめながら速度を上げる。風を切って進むとは正にこのことか、と身体全体に風を感じながら思う。
 城があっという間に小さく見えた。

 この何日かの騎乗練習で、かなりゼロとの意志疎通が出来るようになったと思う。ゼロ任せなのは変わらないが、次にゼロがどう動こうとしているか、どう動きたいのか、が分かるようになってきた。

 それはゼロも同じだったようで、明らかに飛びやすそうだった。

「あぁ、このままもっと遠くまで飛んでみたいね……」
『私はそれでも良いぞ?』
「フフ、ありがとう、ゼロ」

 そういう訳にはいかないことは分かっている。だからこそ憧れるのだ。

「帰ろうか」
『…………』

 ゼロは身体を翻し風を切り城まで飛んだ。
 さあ、明後日にはお披露目式本番だ。
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