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本編 リディア編

五十四話 酔っ払い!?

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「あ、リディア様! イルグスト殿下も! ゼロとフィンに会いに来てくださったのですね。ゼロの扉は開いてますので、フィンは今から開けますね」

 イルはそわそわとレニードさんに付いて行く。もうすっかり慣れたものね。
 さっきの見たことのないような姿のイルは幻!? というくらい、今は可愛いイルだなぁ。
 おっと、また可愛いって思っちゃった。男の子なんだから可愛いは喜ばないよね。気を付けないと。

 ゼロたちがいる檻まで来ると、ゼロはこちらに気付き自分から檻を出て来た。
 何だか家から出る人間と同じだな、とクスッと笑った。

『リディア』
「ゼロ元気? しばらく来れなくてごめんね。今日はお土産持って来たよ。今度こそ私があげる!」
『? 何だ?』
「クフルの実!」

 オルガが持ってくれていたクフルの実を手に取りゼロに見せた。

『あぁ、以前大量に持って来たやつだな』
「そうそう! 前回のはどうだった?」
『あー、あれは……、私は食べたことがないから他の魔獣たちにやった』
「えー!! ゼロ、食べてないの!?」
『あぁ、すまん』

 少しばつが悪いようにゼロは顔を逸らした。

「なんだ……嫌いなの?」

 せっかく持って来たのになぁ。

『いや、食べたことがないだけだ』
「何で?」
『……、他の奴らが食べているところは見たことがあるのだがな。あのような状態になりたくないからだ』

 あのような状態……、どんななんだろう……、気になる……。

「一つくらい食べない?」

 少しいたずらっぽくなっていたのがバレたのか、ゼロは後ろに後退る。

『嫌だ』
「えぇー!!」

 子供が拗ねるかのように拒否された。

「食べてよー」

 ゼロの口元にクフルの実をグイッと持って行くが頑なに拒否する。
 うーん。

『何だ何だ?』

 気付けば檻から出してもらったフィンがすぐ後ろに来ていた。レニードさんとイルがまだ遠くにいた。飛んで来たわね。

『お、その実! 美味いやつだよな!』

 フィンのほうが食い付いた。

「フィンは食べたことあるの?」
『ん? 当然! 大体みんなあるだろう?』

 フィンは自慢気に話すが、ゼロは顔を背ける。

『お? お前食べたことないのか!?』

 フィンが悪気なくだろうが、ゼロに聞いた。

『別に必要ないものだ』
『ふーん? 美味いのに』

「ゼロがそんなに嫌いなら仕方ないね……。フィンいる?」

 フィンの口元にクフルの実を持って行った。

『おー! 喰って良いのか!?』
「うん、どうぞ」

 フィンは鋭い嘴をあーんと開けた。フッ、何か可愛いわね。その口の中にクフルの実を一つポンと入れると、少し上を向き落とさないように飲み込んだ? ん? 丸飲み?

「丸飲みしたの?」
『ん? いや、中で実を潰してから飲み込んだ。やっぱり美味いな!』

 そんなに美味しそうに食べてると、思わず食べたくなっちゃうわね。
 じーっとクフルの実を見詰めていたらマニカに突っ込まれた。

「お嬢様、駄目ですよ?」
「え、アハハ、大丈夫だよ、さすがに食べないよ」

 いくらなんでも人間には毒になるものを食べたりはしない。信用ないなぁ。苦笑した。

 もう一つフィンにあげようとしたらゼロが声をかけてきた。

『私も一つくらいなら食べても良いが……』
「ん? ゼロも食べる? 無理しなくて良いよ?」
『俺が全部食べてやるぞー!』

 フィンが私の手に嘴を伸ばしクフルの実を取ろうとしたとき、ゼロがフィンより先にそれを奪うように口にした。

「あ……」
『あー!! 俺の!!』

 フィンはプンプン! といった効果音でも付きそうな怒り方をしていた。

「ゼロ、大丈夫?」

 あんなに嫌がってたのに、何でまた急に。
 ゼロは無言のままもぐもぐしている。

「フィン、残りの二つ食べる?」
『喰う喰う!』

 フィンがあーんと再び私の手にあるクフルの実を食べようとした瞬間、またゼロが素早く私の手から奪うように二つとも食べた。

「えっ……」
『な、な、何だよ!! お前喰わないんじゃなかったのかよ!!』

 フィンが地団駄を踏んだ。

「ゼ、ゼロ?」

 どうしちゃったの、ゼロ……。

 ゼロは二つのクフルの実を一気に口の中で噛み砕き飲み込んだ。
 皆がじーっとゼロを見詰める。首をだらんと下に項垂れ動かない。

「ゼロ?」

 ゼロの頭に手をやり、両手で顔を撫でた。
 大丈夫かしら。確か魔獣が食べると酔ったようになるって言ってたけど……、フィンは全然なんともないしな。
 ゼロは初めて食べたから気持ち悪くなっているのかもしれない。

「ゼロ、大丈夫?」

 声に反応するようにゼロはムクリと顔を上げ、私の肩に顎を置いた。
 やはり気持ち悪いのかしら! 何か動きが変だ。

「ゼロ! ゼロ!」

 ゼロがいくら小型のドラコンとはいえ、肩には乗りきっていない。ゼロの頭を支え撫でながら声を掛けると、ゼロは私の首元に鼻先を寄せ、すんすんと匂いを嗅いで来た。

「ゼロ? な、何!? くすぐったい!」

 ゼロの息が耳やら首やらに当たり、くすぐったくて仕方ない。

「お嬢! 大丈夫!?」

 オルガが焦ってゼロを離そうとするが、オルガが近付くとゼロが唸った。
 今まで誰かを威嚇なんかしたことないのに。

「オルガ、私は大丈夫だから下がってて」

 万が一、オルガを傷付けてしまったら……。ゼロに無理矢理食べさせた私の責任だ。
 まさかこんな状態になるなんて。ゼロが嫌がるはずだわ。

『こいつどうしたんだぁ?』
「フィンは何ともないの?」
『ん? 俺は喰い慣れてるからなぁ。初めて喰ったらこんなんなるのか!』

 フィンがバカ笑いしている。笑ってる場合じゃない。

 ゼロはすんすんと匂いを嗅いでいたかと思うと、今度は首をペロリと舐めた。

「ひゃっ」

 こ、これはちょっと……。ど、どうしよう……。

「お、お嬢!!」

 オルガがアワアワしている。私もアワアワしてる!
 ゼロは再び首を舐めた。

「!!」

 必死に声を我慢するが、何やら変な声が出そうで辛い!!

「ゼロ!! ゼロ!! しっかりして!!」

 ゼロの首に思い切りしがみついた。しかしやはりそこはドラコンの力には勝てない。ゼロはお構いなしに匂いを嗅いだり舐め続けたり。

「や……」

 が、我慢!!

「リディ!!」

 突然身体を後ろから掴まれた。
 えぇ!? 今度は何!?
 身体を引っ張られぐらりと体勢を崩すと、ゼロは少し顔を上げた。

 そこへフィンが唐突に咆哮した。地面がビリビリとするような咆哮。
 思わず皆が耳を塞ぐ。

「フィ、フィン!?」

 ゼロがビクッとし、そしてハッとしたように顔をさらに上げたかと思うとぐにゃりと倒れ込んだ。

「ゼロ!!」

 抱えようにもゼロのほうが圧倒的に大きく重い。支えきれる訳もなく、思わず出した手と共に崩れ落ちその場にへたり込んだ。

 ゼロは私の膝の上に頭が乗ったまま、眠っていた……。

「はぁぁあ、良かったぁ。どうなるかと思った。ありがとうフィン」

 フィンはフフンと自慢気に鼻を鳴らした。

「大丈夫ですか!? リディア様!」

 レニードさんが駆け寄って来た。イルもオロオロしている。

「アハハ、はい、何とか」

 まさかあんなことになるとは……、危うく変な声が出るところだった……、我慢出来て良かったよ……、二度とクフルの実は持って来ません。

 それはそうと先程私を呼んだ声は……。恐る恐る後ろを見ると……。

 シェスがいた。

 な、何かこのパターン見覚えが……。

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