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本編 リディア編

第七十七話 揺れる心!?

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「リディ! 何してんだ?」

 庭園入口付近で、ルーは片手を高く振りながら呼び掛けていた。
 ルーの元まで歩いて行くと、相変わらずの元気さでニッと笑った。

「庭園でぼーっとしてどうした?」

 そう言いながらルーは私の頭にポンと手を置く。
 ルーも何だかんだと良い人だよね。と、じーっと見詰めていたら、ルーがたじろいだ。

「な、何だよ」

 焦るような顔が可笑しくてクスッと笑う。

「フフ、何でもない。ルーに渡したいものがあるんだけど受け取ってもらえる?」
「? 渡したいもの?」
「うん」

 オルガが荷物を広げてくれ、その中からルーへのお土産を出した。ルーには乗馬のときに使える革のグローブ。

「昨日シェスレイト殿下と街に行ったの。そのお土産」
「兄上と?」
「うん」

 ルーは少し不思議そうな顔をし、包みを開けた。

「おぉ、グローブか! ありがとな!」
「うん、使ってくれたら嬉しい」

「何か兄上とあったのか?」
「えっ!? な、何で!?」
「ん? いや、何となく雰囲気が……」
「な、何もないよ!!」

 何で皆に色々バレるんだろうか。私ってそんなにバレバレなのかしら。

「うーん、そうなのか? いや、でもなぁ……」

 しつこい! そんなに気にしないでよ!

「あ! そうだ! ルーにはお願いもあったのよ!」
「お願い?」

 無理矢理話を逸らした。

「ラニールさんと進めてるお菓子作りなんだけど、以前言ってた材料確保や店舗をどうするか相談したくて」
「あぁ、お菓子の販売な! 分かった、今から話すか?」
「これからイルを探しつつ、ラニールさんのところに行こうと思ってるから一緒に行かない?」
「イル? イルグストか、何であいつを探してるんだ?」

 ルーが訝しむ。

「イルにもお土産を渡そうと思ってて」
「ふーん?」

 イルのこと好きじゃないのかしら? 何故か微妙な顔のルー。

「イルなら魔獣研究所にいるかなぁ」
「魔獣研究所か、なら馬で行くか? あ、そういえば兄上との乗馬練習大変だったみたいだな」

 ルーは声を上げて笑った。
 シェスとの乗馬……、好きだと自覚前に行ったあの湖でのシェス、可愛かったな、と思い出すとクスッと笑った。

「ん? 何だ? 大変じゃなかったのか?」
「え? あぁ、大変だった……」

 そうそう、その次からの乗馬練習はスパルタだったな……。

「フフ、でもおかげですぐに乗れるようになったよ」

 今から思えばあの特訓も不器用な人だ、と微笑ましくなる。

「何かよく分からんが、兄上と仲良くやってるんだな」
「え、あ、うん」

 何だか恥ずかしくなり顔が火照る。ルーに見られると何を言われるか! 慌てて横を向いた。

「何だ? どうした?」

 ルーはそれを不審に思ったのか、顔を覗き込んでくる。そんなときだけ敏感にならなくて良いから!
 覗き込まれそうになる度に顔を逸らして行ったら一回転しそうな勢いだった。

「良いから馬に乗るんでしょ!?」
「あ? あぁ」

 ルーは何やら気になるままだったようだが、無理矢理背中を押し馬場まで行った。

「あ、でも今日ワンピースだな……、まあ大丈夫かな!」
「いや! 駄目だろ!」

 ルーに思い切り突っ込まれ、オルガは顔を赤らめ、マニカは頭を抱える。
 駄目か……、だよね。

「分かってるよ、さすがに!」
「本当か!?」

 三人から物凄い疑いの目で見られている。そんな疑わなくてもとぶつぶつ言っているとルーが盛大に笑った。

「アッハッハ!! お前、本当におかしな奴だな!」
「おかしな奴って失礼な。別にスカートで乗馬してはいけないなんて決まりはないんだし……」

 と、拗ねたようにぶつぶつ言うと、やはりルーは笑い、頭を豪快に撫でた。

「ブッ。決まりはなくとも普通はしないな」

 ルーが笑いを嚙み殺し言う。
 まあしないか……、オルガに馬を引いてもらいながらなら分からなくもないが、自分で跨って馬を走らせるにはちょっとね……。

「俺が乗せてやるから諦めろ」

 ルーは自分の馬を引き連れて来ると、先程渡したグローブを使ってくれた。

「ちょうどいいな、ありがとな」

 ルーはグローブを嵌め握り心地を確かめながら言った。そして颯爽と馬に跨るとこちらに手を差し出し、引き上げてくれた。

「しかし、せっかく騎士団演習場にいるのに、ラニールのところより先に魔獣研究所とは遠回りだな」
「仕方ないのよ。ラニールさんはお昼過ぎじゃないと忙しくて怒られるし」
「ハハハ、ラニールは仕事には厳しいからな。でもリディには甘いんじゃなかったか?」

 ニヤッとしながらルーは言う。
 うーん、何だか色々語弊のある言い方。

「仲良くはしてくれてるけど、仕事の邪魔したらそれは怒られて当然でしょ」

 仕事は仕事としてきちんとしたい人だろうし。そこは誤解させては悪いわよね。ラニールさんの評判を落とすことはしたくはないし。まあ、怖い人としての評判は完全になくなってしまったけど……、それは絶対私のせいよね……。

「と、とりあえず魔獣研究所へ!」
「フッ、あぁ、行くぞ」




 シェスレイトは眠れぬまま一夜を明かした。リディアを考え眠れぬ夜を過ごしたのは何度目だろうか、とぼんやり考える。今までは幸せな気持ちだった。しかし今日は違う。
 不安や疑惑、そういった嫌な感情で眠れないということがシェスレイトにとって非常に辛いものだった。

 せっかくリディアと少しずつでも心が近付いて来た気がするのに……、今のこの状態ではリディアに会ったときどんな態度を取ってしまうかが心配になった。
 ディベルゼを恨みもした。知らぬままならリディアをただ好きなままでいられたのに。
 そう思いディベルゼを責める自分にも嫌悪し、悶々とした夜を過ごした。

 リディアはリディアではない? 二重人格? それとも記憶を無くし人格が変わった?
 一体何故そんな噂が立つのだ。
 しかし何もなければそんな噂が出ることもないはず。理由は分からないが、何か原因はあるはず。

 その理由はディベルゼも全く分からないようだった。ディベルゼに分からないのならば、恐らくこれ以上調べても何も分からないだろう。

 だから疑惑をリディア本人に問い詰めるか、それとも、このまま聞かなかったことにするか、しかないのだ。

 どうする。どうすれば良い。

 答えが出ないまま朝を迎えた。
 翌朝になり、ディベルゼとギルアディスがいつものように迎えにやって来た。
 しかしいつもとは違い二人共神妙な顔付きだ。恐らく二人も同じように眠れぬ夜を過ごしたのだろう。

「おはようございます、殿下。眠れましたか?」

 いつもなら聞かない朝の挨拶。

「いや……」
「そうですか……、そうですよね……」

 ディベルゼは寂しそうに笑う。ギルアディスも悲痛な顔だ。

「それで……答えは出ましたか?」

 ディベルゼは深呼吸をするように一息吐き聞いた。

「いや……」

 シェスレイト何も言えなかった。何かを言えば、大事なものが壊れてしまいそうで怖かった。

「そうですか……、とりあえず今日のご予定は執務室での書類仕事だけなので、ゆっくりと仕事をしてください」

 それ以上ディベルゼは何も聞かなかった。今聞いても恐らくシェスレイトは答えられないと判断したのだ。急いで答えを出して後悔させたくはなかった。

 その日一日シェスレイトは考える暇を与えない程、仕事に集中しこなしていった。
 しかし時折ふと思い出してしまい、手が止まると途端に暗い顔になる。それを心配しディベルゼはいつも以上に休憩も取らず仕事をするシェスレイトに、休むように口を挟むことが出来ないでいた。

 シェスレイトは仕事の合間にふと考える。
 自分はどうすればいいのか。リディアを愛している。愛しているのに何故こんなにも心が揺らぐ。
 何故だ。何故なんだ。どうしたら良いのだ……。

 シェスレイトはどうすることが正解なのか必死に考えた。
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