「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空

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第一章 ルイーザ建国

27.メイシオとサポラ

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 僕は今、もの凄く納得していた。
 何にかって?
 メイジシュタットの食堂で、メイシオセットを頼もうとした時の、ウルガーさんとラウラさんの反応に、だ。

「ん~、おいひぃ」
「おいしー!」

 リーゼとマオちゃんがメイシオを美味しそうに頬張っている。
 いや、僕も食べたけど、美味しいんだよ、メイシオ。
 中のクリームがまた絶品で、こんなパン食べたことが無かった。焼きたてだったらもっと美味しいって聞いたから、次は是非焼きたてを食べてみたい。

 そもそも、パンの中にクリームを入れるという発想が新しい。
 世に売られているパンは、大体主食として食べられるものだから、中に何かが入っているということは無いんだ。
 店売りのパンで何か入っているとすると、パンに切れ込みを入れて、そこに野菜や焼いた肉なんかを入れるくらいだし。

 ところが、メイシオはパンの中にクリームを入れてしまうという、これまでに無い形。
 しかも、食事で食べるパンというよりは、食後のデザートや間食に適した甘い味付け。これは、まさに革命だね。今までは食事で食べるというのが一般的だったパンだけど、食事以外の機会にも食べることが出来るようになるんだ。
 新たな機会の創出だよね。メイジって人がどこまで狙って作ったのかは分からないけど、その辺りまで見込んでこの新しいパンを創り出したのだとすると、かなりの切れ者だよ。


 あー、でもね、そこじゃないんだよ。
 うん。今言いたいのは、そこじゃないんだ。

 僕が納得したのはそんなところじゃない。
 今の説明だったら、別に食堂で食べることに何の躊躇いだって無いからね。だって美味しいパンだもの。デザートに丁度良いよ。



 食堂で食べるのを躊躇う理由。それは、メイシオの形そのものにある。

 何て言えば良いのかな――。
 いや、アレを形容するに適切な言葉はもう浮かんでいるんだけど、ちょっとそれをストレートに言えないから困るんだ。

 僕やウルガーさんにはあって、リーゼやラウラさんには無いモノと言いますか……。
 アレですよ、あれ。というか、ナニですよ。棒状のナニですよ。えぇ。

 それを、リーゼやマオちゃんが美味しそうに頬張っています。



 ――ちょっと、直視し難い光景だよね。



「あ、ついちゃった」

 何と言うことでしょう。
 リーゼの口端に、白いクリームが付いてしまったじゃないですか。
 ぺろりと、白いそれを舌先で舐め取り、目を細め。

「んー、はしたないけど、美味しー」

 メイシオ――棒状のパン――を美味しそうに、はむっと口に含む。一息に。そこに躊躇いはなく、美味しいスイーツを口にする時の様に。
 しっかりと根元の方までくわえ込み。

 【注意:これはただパンを食べているだけです】



「うまー! おいしー!」

 何と言うことでしょう。
 マオちゃんの口端には、沢山白いクリームが付いてしまっています。
 あんなに溢れて零してしまって、まぁ。

 でも、マオちゃんはそんなことは気にせず、メイシオ――棒状のパン――に齧り付きます。もう居ても立っても居られないという気持ちが、ひしひしと伝わってくる食いつきです。
 他のモノには目もくれず、一心不乱に咥えています。
 まだ幼く、あどけないマオちゃんが、甘い大人の味を覚えてしまいました。
 ああ、根元の玉のような部分にまで齧り付いてしまうんですね。いつの間にそんな食べ方を覚えたのでしょう。

 【注意:これはただパンを食べているだけです】



 因みに、ラウラさんもルイーザさんも、他の犬人族コボルトの女性の皆様も、美味しそうに食べておられます。

 いや、本当に美味しいんだよ。美味しいんです。絶品なんです。
 だからみんな、美味しそうに食べてるだけなんだよね。

 でも、それが背徳的なんだよ、本当に。
 アレかな、僕が初心すぎるのかな?


「まぁ、慣れないうちは仕方ないでござる」

 そう言うウルガーさんは、サポラを食している。――というか、舐めている。
 いや、それ、舐めちゃ駄目でしょ。パクっと一息に食べちゃおうよ。


 因みに、サポラなるパンは、何と言うか――メイシオと対になるパンだ。
 何が対になるかって?
 そりゃ、ナニさ。ナニですよ。シンボル的なナニですよ。

 形がね、ナニなんです。
 僕やウルガーさんには無い、シンボル的なナニですね。

 こちらは、絶妙な形のパンに、非常に美味な甘い蜜のようなものがかけられているんだ。
 その蜜が、ただの蜜じゃないんだよね。固まってて、そのまま食べるとカリって食感が楽しめるんだ。
 パンなのに、カリって食感が新しい。売れるよね、この新食感は。

 でもね、その蜜のコーティング層を、舐めてふやけさせると言いますか……。固い層を敢えて少し柔らかくしてから食べると、また違う食感で美味しいんだ。

 分かる。分かるよ。僕もさっきそうやって食べたからね。新しい食感だったよ。
 蜜のコーディング層は甘いから、舐めてて美味しいしね。


 でも、やっぱり絵面的な問題がね、出てくるんですよ。

 流石のリーゼも、頬を染めて目を逸らしてたからね。あのリーゼがだよ?



 しかも、犬人族コボルトの中には、人化の術を使うと体が大きくなるからって理由で、小犬の姿のままサポラを舐めてたりするんだよね。
 まぁ、パンの大きさは変わらない訳だから、自分の体を小さくして食べてしまえば、少量で満腹感が得られるらしくて、その理屈は分かるんだよ。
 今だって食糧が潤沢にあるわけじゃないし、そうやって食べる事に否を唱えるつもりは無いよ。

 でもやっぱり、絵面的な背徳感が凄いんだよね。

 【注意:これはただパンを食べたり舐めたりしているだけです】



「これ、本当にメイジって人が作ったの?」

 僕はウルガーさんに問うてみた。
 すると、サポラをぺろぺろしていたウルガーさんと目が合った。――何か気まずい。

「拙者はそう聞いているでござる。なかなか剛毅な方でござろう。こんな斬新な形にするなど、普通の感覚ではできません」

 そりゃそうだろうなぁ。
 ある意味禁忌だよ。禁忌を犯してるよ。

「普通のでも十分じゃないかと思うんだけどなぁ」
「一応、メイシオとサポラと、作りや味付けが全く同じの、丸い形をしたパンもあるでござるが……」
「あるの?!」

 だったらそっちを買おうよ。

「ありまする。それでも、メイシオとサポラの方が爆売れするでござる」
「何でだよ。周りを気にせず食べられるから、丸い無難な形の方が絶対良いでしょ」
「残念ながら、ノア殿の意見は少数派なのですよ……」

 マジか。
 どうなってるんだよ、キースリング領。
 いや、僕の感覚がおかしいのか?
 分からなくなってきたよ……。

「ノア殿の懸念は理解できます。しかし、人の欲を、業を、一切隠すことなく本能に訴えかけるこの形! そこに合わさる先進的な技術と味覚! やはりこの形あってこそ、メイシオとサポラは完成すると思うのです!!」

 あ、駄目だ。ウルガーさんは信者だったね。
 聞く人を間違えてしまったのだろうか。


「ノア様、諦めよ? 実際凄く売れてるし、売れるんだよ、メイシオもサポラも。御貴族様なんか、在庫全部買い占める勢いで買っていくんだよ?」

 ラウラさんからの突っ込み。
 はい、そうですか。

「もー、気にしすぎですよ、ノア様っ。ほらほら、私が食べさせてあげましょうかー?」

 いつの間にかすぐ傍に来ていたリーゼ。メイシオを僕の方に差し出している。
 そして、それをちらちらと横目で確認するように見てくる、犬人族コボルトの女性の皆様の視線。何、このプレイ。

「パパも食べるのー!」

 リーゼから視線を逸らそうとしていると、別方向からサポラを持ったマオちゃんが突撃してきた。
 油断していたこともあり、マオちゃんが持っていたサポラに鼻頭から突っ込んでしまった。


「「「――ッ??!!」」」


 めっちゃ反応された!
 何だろう。もの凄く恥ずかしいぞ、これ!!



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
■Tips■
サポラ[略称・商品名]
メイジシュタットの町の実業家、メイジが作りだしたと言われているパン。
正式名称はサポ・デ・○ョーラだが、略称の方が有名になっている。
ナニとは言わないが、女性的なシンボルの形をしている。
砂糖と蜜をふんだんに使った甘く固い層でコーティングされており、パンだけど、カリっとした食感が楽しめる新感覚のパン。
実はパン生地にも砂糖やバターが練り込まれていて、非常に甘く美味な商品に仕上がっている。

カリッとした層を舐めて、少しふやかして生地に馴染ませて食べる食べ方も、一部では人気らしい。


Q:というか、メイシオとサポラを食べる回で三千文字以上行くってどうなのさ? もう閑話でも良く無い?
A:本当に申し訳ありませんでした。反省はしています。


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