おひとりさまの準備してます! ……見合いですか?まぁ一度だけなら……

松ノ木るな

文字の大きさ
9 / 66
第二話 私はただの、観客の女

② 馬車チェイス

しおりを挟む
 私は私の初恋を思い出そうとしていた。それをシャルロッテ様は察したのか。

「エレーゼの初恋は?」

「えっ。えーっと、そうですね。しいて挙げれば子どもの頃、どこかのお屋敷で出会った小公子と……」

 そうだ、あの夢の続きは……。

「ダンスを少し。その時は、子どもながらに心が舞い上がりました」
「あら。エイリークが妬いてしまうわ」
「彼はこれっぽっちも妬いたりしないでしょう」

 外で自由に恋愛して、なんて言う人だから。

「そんなこと言わないで。どうにか彼の気を引いて! でもって早いとこ挙式を!」

 なかなかに必死ですね、ほんとに嫁の来手がないと困りますもんね。

「男性を懐柔するのなんて簡単よ」
「美人はそう言いますよねっ!」

 ああ、声に出してしまった!

「外見どうこうではなくて。その男性の『母』になればいいのよ」

「はぁ!? そんなの無理に決まってます! なりたくもないし、母のような無限の愛なんて到底持ち合わせていません」

「エレーゼは『無限の愛』って言うけれど。それ、何?  抽象的で分からないわ」

「無限の愛っていうのは、そうですね、たとえ火の中水の中……といった思い、でしょうか」

「私が息子のエイリークを火の中水の中、我が身を犠牲にして助けた、なんてシチュエーション起きたことないわ。それでも彼は私のことが大好きよ」

「……言われてみれば私も、父に火の中水の中助け出された経験はないですが、父が大好きです」

「母になるって、ただ無尽蔵に甘やかすのではなくて、ちょっと気にしてあげる、とか、共感してあげるってこと。認めて欲しいっていうのも多いわね。男の子は単純で可愛いわよ」

 そう言ってシャルロッテ様は優しい微笑みをたたえたまま、食後の紅茶を嗜み始めた。私への言葉はすべて、「私の息子を大事にしてあげて」という母の愛だろう。「親の心子知らず」とはいったもので、あなたの息子は私と心を通わすつもりなんて更々ないのだが。



「挨拶、行ってきたよ。そろそろ劇場の方へ」
 噂の可愛い息子が戻ってきた。

「支配人がぜひシャルロッテに会いたいと。僕の挨拶では不満のようだ」
「なら観劇を終えたあと、3人で出向きましょう」


 そんなわけでオペラ鑑賞を終え、支配人室へ。

 支配人が大喜びでシャルロッテ様にハグをしている。それをエイリーク様がむすっとして見ている。

 この部屋に主演の俳優女優も呼ばれていて、支配人が彼らを紹介し、そして男性らはまたシャルロッテ様をちやほやする。

「エイリーク・ノエラ様」

 そこで大人の色香漂う主演女優が、エイリーク様のところに寄ってきた。

「このたびは私どもの舞台をご覧いただき、非常に光栄ですわ」
「ああ、主演の、マルゲリータだね?」
「それは役名ですの。私はルーニャと申します。どうぞお見知りおきを」

 これ私、彼女の眼中にない。そう私が気付いた瞬間、彼女は彼の真横ににじり寄ってきて、何かをアピールしている。よって私が後退する羽目に。

 ああ、パトロンを探しているのか。とても綺麗な人だけど、獲物を狙うブラックパンサー感あるな。

「申し訳ない、ルーニャ嬢」
 エイリーク様が彼女の両肩を軽く押し出した。

「私のフィアンセがあなたの美しさに見惚れているようだ。良ければその健康美の秘訣を、彼女に授けてやってくれないか」

「そちらの方、フィアンセでしたの!?」

 ダシにされてしまった。別にいいけど、やっぱり付き人だと思われてたか。今日のドレスは装飾の少々多めのものを選んできたのに。

「つまらないわ」
 彼女はそっぽを向いて行ってしまった。エイリーク様には小声で嫌味を言ってやる。

「あなたのお人柄がなんだか、私の想像と違いますわね?」
「こういう苦手な場面は、僕の中の対処用の僕が顔を出すんだ……」

 この人大丈夫かな。



 その後また街のカフェテリアで、シャルロッテ様のティータイムに付き添っていた。
 オープンテラスで私はふと、人々が行き交う通路に目をやる。その時たまたま視界に入った、道路の向こうに停まった馬車から降りてきたのは。

「お父様?」
「どうしたんだい、エレーゼ」

「お父様だわ!」
 私はガタッと立ち上がった。

「あら。そうね、お父上はお買い物にでもいらしたのかしら?」

 視界に飛び込んできた、彼の隣に寄り添うのは、ひとりの貴婦人。誰?

「あれ、あの女性、さっきの……」
 エイリーク様の一言で、私もすぐにピンと来た。

「さっきの、オペラ座の……」
 支配人に紹介された主演の歌姫ディーヴァだ。その彼女がお父様の腕に絡みつき、懇ろな男女の雰囲気をかもしている。

「っ……」
 私は息を呑んだ。

「シャルロッテ様、申し訳ないですけど、私はここでっ。私、父のところに……!」
「え、ええ」

 手荷物なんてほったらかしでテーブルから離れる私だった。

「なら、エイリークを供に連れて行って。ご令嬢が街中をひとりで歩くのは危ないわ」

 そういうわけで、せっつかれたエイリーク様が付いてきたが、私はそれどころでなく。

 カフェテリアを出たら、お父様は例の女性を連れ宝石店へと入っていった。もちろん後を追って、彼をふん捕まえるつもりで走りだしたところ。

「待って、エレーゼ」
 エイリーク様に首根っこふん捕まえられた。

「何をなさいますのエイリーク様っ!」
「少し落ち着こう」

「これが落ち着いていられますかっ!」
「店に入っていったのだから、出てくるのを待てばいいのでは」

 ああ、店内で私がお父様に逆上しようものなら、厄介なことに……と心配なのか。

「でも、裏口からこっそり逃げられたら……」
「別に逃げているふたりじゃないんだから、普通に出てくるだろう」

 私は鼻から息を抜いた。

「じゃあ出てきてすぐ馬車に乗られても追えるよう、こちらも用意しておきましょう」

 私は宝石店の出入り口が見える位置で建物の陰に隠れ、エイリーク様は手際よく馬車を近くにつけておいてくれた。

「エレーゼ、僕たちをみんながじろじろと見ていくんだが……」
「それはエイリーク様に見惚れているのでしょう!」
「違う、こんなところでコソコソと隠れているからだ」
「あっ、出てきましたわ!」

 私は彼らが馬車に乗り込んだのを確認し、自分も御者に向かって叫んだ。

「あの馬車を追って!」

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。

長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様! しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが? だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど! 義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて…… もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。 「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。 しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。 ねえ、どうして?  前妻さんに何があったの? そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!? 恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。 私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。 *他サイトにも公開しています

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

処理中です...