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第二話 私はただの、観客の女
⑨ 優しさはきっと返ってくる
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まぁ資産家の御家なのだから、相続問題はあるでしょうけど、それがどうしてここ、ストラウド家の応接間で?
「あら、遺言状? 結局亡くなられたのね」
そのとき彼女、カトリーヌが、はっと何らかに気付いた。
「私、彼女の一人娘ですから! いつでもその御家に入れますわ!!」
「君もどうぞこちらに掛けてもらえないかな」
「え、ええ!」
彼女は、そこで気付いたらしいエイリーク様に意味ありげな視線を送り、腰掛けた。また私眼中にない!
「えー、では今からオールステット家ご当主フレーヤ様の遺言状を読ませていただきます」
弁護人が高らかに読み上げる。聞いてみると、やはりフレーヤ様自身も多大な財産をお持ちで、その行き先を事細かく指定していた。主に、家の切り盛りに必要な分を一族のみなに適宜分与するといったことのようだが。
「──でありまして、残りの私的財産を、エレーゼ・ストラウド殿に譲与す、とのことでございます」
────え!??
「わ、私!?」
なんで? 私、ただの知人のひとりですが!
「どういうことですか! この方は他人でございましょう!?」
カトリーヌが立ち上がった。
「ルーニャ、オールステット家のご当主にお子はいらっしゃらなかったようだよ。だから最後にそばにいたエレーゼに感謝の気持ちを、ということだ」
お父様は弁護人に確認する。
「彼女からの手紙も預かっているのだよね?」
「はい、私が代筆しまして、フレーヤ様の拇印も頂いております。遺言状のものと同じでございます」
「で、でも、本当に、私は一人娘で……!」
「それを証明するものはないだろう?」
「ぐっ……」
そうね、血縁関係を証明する魔法の薬、なんてものは存在しないのだし。
私はフレーヤ様の手紙を受け取った。
ありがとう、と、人生最後の時間に人の親切に触れられて嬉しかった、と書いてある。
お金持ちだもの、それを目当てに人に寄ってこられることも、何度もおありだったでしょう。貧しい中ひとりで子どもを育てていた時も大変だっただろうけど、実家に帰った後の方が、心休まる時はなかったのかもしれない。だからきっと、終の棲家は喧騒を離れた、あんな森の奥で。
「ルーニャ、はい、小切手だよ。またステージ見に行くね」
お父様はにっこりと、そして事務的に小切手を彼女の手に渡した。
「~~~~またぜひいらしてくださいませ!」
彼女はバタンと扉の音を立て去っていった。
「……お父様、わざわざ彼女に小切手を渡すの、この時に合わせましたね?」
この、いつもは人畜無害なお父様の微笑み顔が、ものすごくブラックに見える。
「それはまぁ、ほら。私の可愛いエレーゼが手を突いてまで懇願したというのに無下にするなど、どこのどんな人間であっても見過ごせないからね」
お父様、父親特有の可愛らしい不面目顔でそう言いながら、軽く目を逸らした。……んー?
「なんで頭下げたの壁の向こうから見えてるんですか! やっぱりあの時、聞いてらしたのね!」
うん。でも、まぁ。
「お父様大好きっ!!」
「うわぁっ…」
ここで、お父様とソファーに倒れ込んだ私に弁護士先生が話しかけてきた。
「あの、遺産相続の細かい点についてですが」
「あ、はい。ところで、どれくらいなの相続額は?」
彼は私にコソコソとそれを伝えた。
「えっ!? そんなに!?? お父様の収入の3年分じゃない!」
「エレーゼ、大きな声で言うものではありません……」
弁護士先生が「ほうほう」という顔をしている。
「なら先生、それは全部、孤児院に寄付しますわ。お取り計らいお願いします」
「は、はぁ。全額でございますか?」
「院長がずるい孤児院で横取りされないように、うまいことやってくださいませ」
「承知いたしました……」
その後、私と弁護士先生のちょっとした打ち合わせの間、エイリーク様がお父様に何か話していたようだった。
「エレーゼ、話は終わったかい? エイリークが待ちわびているよ」
「あ、はい。お待たせいたしました」
そして私はエイリーク様と馬車に乗ったのだが。窓から見る景色が思っている方向と違う。
「あら、シャルロッテ様は街でお待ちではないのです?」
「ああ、実は今日、シャルロッテは来ていないんだ。そして、今からルーベルに向かうよ」
「え? ご自宅ですか?」
「いや、その手前なんだけど。しばらくかかるから眠っていても構わないよ」
手前? じゃあちょっと寝ていよう。
彼に起こされ着いた場所は。
「森……」
ルーベルに入ってすぐの森のようだ。彼のお屋敷に行くときは通り過ぎる。
「こちらへどうぞ」
彼にエスコートされ、多少整えられた小道を行き広場に出ると。
「舞台……?」
茂る静かな森の中、小さな広場に設置された小さな木造りの舞台が。
なんだろう、ここは。隠れた小劇場?
「あら、遺言状? 結局亡くなられたのね」
そのとき彼女、カトリーヌが、はっと何らかに気付いた。
「私、彼女の一人娘ですから! いつでもその御家に入れますわ!!」
「君もどうぞこちらに掛けてもらえないかな」
「え、ええ!」
彼女は、そこで気付いたらしいエイリーク様に意味ありげな視線を送り、腰掛けた。また私眼中にない!
「えー、では今からオールステット家ご当主フレーヤ様の遺言状を読ませていただきます」
弁護人が高らかに読み上げる。聞いてみると、やはりフレーヤ様自身も多大な財産をお持ちで、その行き先を事細かく指定していた。主に、家の切り盛りに必要な分を一族のみなに適宜分与するといったことのようだが。
「──でありまして、残りの私的財産を、エレーゼ・ストラウド殿に譲与す、とのことでございます」
────え!??
「わ、私!?」
なんで? 私、ただの知人のひとりですが!
「どういうことですか! この方は他人でございましょう!?」
カトリーヌが立ち上がった。
「ルーニャ、オールステット家のご当主にお子はいらっしゃらなかったようだよ。だから最後にそばにいたエレーゼに感謝の気持ちを、ということだ」
お父様は弁護人に確認する。
「彼女からの手紙も預かっているのだよね?」
「はい、私が代筆しまして、フレーヤ様の拇印も頂いております。遺言状のものと同じでございます」
「で、でも、本当に、私は一人娘で……!」
「それを証明するものはないだろう?」
「ぐっ……」
そうね、血縁関係を証明する魔法の薬、なんてものは存在しないのだし。
私はフレーヤ様の手紙を受け取った。
ありがとう、と、人生最後の時間に人の親切に触れられて嬉しかった、と書いてある。
お金持ちだもの、それを目当てに人に寄ってこられることも、何度もおありだったでしょう。貧しい中ひとりで子どもを育てていた時も大変だっただろうけど、実家に帰った後の方が、心休まる時はなかったのかもしれない。だからきっと、終の棲家は喧騒を離れた、あんな森の奥で。
「ルーニャ、はい、小切手だよ。またステージ見に行くね」
お父様はにっこりと、そして事務的に小切手を彼女の手に渡した。
「~~~~またぜひいらしてくださいませ!」
彼女はバタンと扉の音を立て去っていった。
「……お父様、わざわざ彼女に小切手を渡すの、この時に合わせましたね?」
この、いつもは人畜無害なお父様の微笑み顔が、ものすごくブラックに見える。
「それはまぁ、ほら。私の可愛いエレーゼが手を突いてまで懇願したというのに無下にするなど、どこのどんな人間であっても見過ごせないからね」
お父様、父親特有の可愛らしい不面目顔でそう言いながら、軽く目を逸らした。……んー?
「なんで頭下げたの壁の向こうから見えてるんですか! やっぱりあの時、聞いてらしたのね!」
うん。でも、まぁ。
「お父様大好きっ!!」
「うわぁっ…」
ここで、お父様とソファーに倒れ込んだ私に弁護士先生が話しかけてきた。
「あの、遺産相続の細かい点についてですが」
「あ、はい。ところで、どれくらいなの相続額は?」
彼は私にコソコソとそれを伝えた。
「えっ!? そんなに!?? お父様の収入の3年分じゃない!」
「エレーゼ、大きな声で言うものではありません……」
弁護士先生が「ほうほう」という顔をしている。
「なら先生、それは全部、孤児院に寄付しますわ。お取り計らいお願いします」
「は、はぁ。全額でございますか?」
「院長がずるい孤児院で横取りされないように、うまいことやってくださいませ」
「承知いたしました……」
その後、私と弁護士先生のちょっとした打ち合わせの間、エイリーク様がお父様に何か話していたようだった。
「エレーゼ、話は終わったかい? エイリークが待ちわびているよ」
「あ、はい。お待たせいたしました」
そして私はエイリーク様と馬車に乗ったのだが。窓から見る景色が思っている方向と違う。
「あら、シャルロッテ様は街でお待ちではないのです?」
「ああ、実は今日、シャルロッテは来ていないんだ。そして、今からルーベルに向かうよ」
「え? ご自宅ですか?」
「いや、その手前なんだけど。しばらくかかるから眠っていても構わないよ」
手前? じゃあちょっと寝ていよう。
彼に起こされ着いた場所は。
「森……」
ルーベルに入ってすぐの森のようだ。彼のお屋敷に行くときは通り過ぎる。
「こちらへどうぞ」
彼にエスコートされ、多少整えられた小道を行き広場に出ると。
「舞台……?」
茂る静かな森の中、小さな広場に設置された小さな木造りの舞台が。
なんだろう、ここは。隠れた小劇場?
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