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第三話 愛人!? どうぞご勝手に!!
⑤ 隠し事なんてして欲しくない……私なら
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帰りの馬車の中で考えていた。
プレゼントの中身をよく考える? プレゼントって、贈った相手が喜んでくれたらいいなって渡すものでしょ。
相手のことを考えているから渡すんじゃないの?
あれ。そういえば私、今まで「相手が何を欲しがっているか」を真剣に考えて選んだことあったっけ?
お父様にはタイとか万年筆とか、男性がよく使うもの、お母様やアンジェリカには香水やブローチ、またはハンカチーフ……だって、プレゼントってそういうものでしょう? 今までみんな喜んでくれていたわ。
でも私は「その人のこと」を考えたことがあったかしら。きれいでおしゃれな物、実用的な物、それを贈れば喜ばれると当たり前に信じていて、相手にとって今いちばん欲しいものは何だろうって、考えたことは……?
「……ん? エイリーク様は何が欲しいんだろう??」
全然分からないわ。
とりあえずこれに関しては再来月まで猶予がある。今はもうひとつの、エイリーク様の言っていた「考えて」を実行してみよう。
**
帰宅後もしばらく考えてみた。どれだけ考えたっていっしょだ。
真剣に、彼らのことを思えば思うほど、私の意見は「そんな大事なことを黙っておくべきではない」だ。
だって、私だってエイリーク様にそんなこと隠されてたら……。いや、エイリーク様じゃなくてっ、お父様! まぁお父様とは夫婦じゃないから、さすがに考えが変わってくるか……。
とはいえ、私がバラしていいものではない。まぁ、バラしてやりたいけど。それは私の口からではなくて。こういうのに第三者の口が混ざろうものなら、ろくなことにならないのは周知のとおり。
となれば、どうにか夫ケネスの口からちゃんと話すように誘導できないものか。そしてちゃんと夫婦ふたりで話し合いができる状況に持っていくには?
このように考え事しながら廊下を歩いていたら。
「お姉様!」
前方から掛かる声。
「あら、アンジェリカ。なんだか慌ててるわね、どうしたの?」
「慌ててはいませんけど、ジョイを見ませんでした?」
ジョイは私たちのいとこ、7歳のわんぱく少年だ。
「彼、うちに来てるの?」
「まったくイタズラばかりで困りますわ。廊下を駆け回ったり、壁に落書きしたり」
「毎度のことね。見つけたら報告するわ」
そして自室に戻ると、やはりお約束が待っている。
「ジョイ……。私のベッドでうつぶせて、いったい何なの?」
「死体ごっこ~~」
……はぁ。ぐっとくたびれるわ。子どもの相手は。
「死体ごっこじゃないわよ! あなたウチの壁に落書きしたんだってね!」
私はベッドの上の偽死体を投げ飛ばした。
「エレーゼもいっしょに死体ごっこするぞ!」
「それ何がおもしろいの?」
「人がダマされたらおもしろい」
「誰も騙されないでしょ!」
子どもにも逆らえない私は誘われるまま死体ごっこをしながら、ともかく考えることを続けていた。
彼が本当のことを打ち明けても構わないのは自分が死んだ後……。後になれば、貯めた銀貨が彼女の手に渡り、どちらにしろすべて知ることになるから。
そうだ、彼らは字を読み書きできるのだから、遺書を書かせればいいのでは? それを彼女に見せるの。でも、遺書は死んだ後にしか普通は公開しないもの。どうすれば……。
……あっ!
「死体ごっこ!!」
「こらっ、死体が動くな! しゃべるな!」
こういうのはどうかしら……死を装うの。彼にも、彼女にも。
「いいかエレーゼ、プロの死体とはだなぁ~~。あっ頭を押さえつけるな! チビを小ばかにするなっ!」
ひとつだけ、方法がある。たぶん、それは、禁断の魔法……。
私は4年前から薬師の元に弟子入りしている。
「看護に興味があるから」と頭を下げ指導を請うた。身元を明かさない、人生経験の浅い小娘を広い心で受け入れてくれた師には、とても感謝している。
ずっと彼のところに2日おきで通っていた。彼のふしぎな医術を見た。薬の調合法も教わった。人を看取ることもあった。私は彼に認められたくて、自宅に帰ってからも猛勉強した。
最近は週に1度しか通えてないが、その時は彼の助手としてまぁまぁ役に立てていると思う。
そして今、私は彼の薬倉庫に、コソ泥しに来ている。
「これね、禁断の薬……」
私は知っている。師は人を仮死状態にする薬を所持している。非常に扱いの難しい薬で、師ですらまだほんの数回しか使ったことのないものだという。
そんなものを手に入れて、私はどうするの? でも使用法は確かに習って、記帳してあるの。
「おや……」
そのとき唐突に倉庫の扉が開いた。私は心臓が飛び出そうな思いで、たちまちフリーズする。最近こんなことばかりだ。
「泥棒猫がいるね」
ばくばく鳴る胸の鼓動と共に、おもむろに後ろを振り返った。
「師……」
彼は温厚な顔立ちの、30代の男性だ。薬師としての腕は一級品。私は事前調査を経て、彼を師に選んだ。
年齢より若く見える、気さくな容姿で子どもの患者にも慕われる。苦い薬を飲ませるのにそういった雰囲気は役に立つ、そして、ここぞという時にきちんと厳しい態度で事に当たるところも、私は深く尊敬しているのだ。
「一度、君とはちゃんと話をしようと思っていたんだ。あっちへ行こうか」
「……はい」
気まずい雰囲気の中、私はまず誠心誠意謝ることにした。
「本当に申し訳ありませんでした! 窃盗なんて、なんの言い訳もできません!!」
頭を下げた私に、彼は深い溜め息を吐く。
「君との付き合いももう4年か、そういえば忙しさにかまけて、しっかり話し合う機会もなかったね」
私はここからどれほど厳しく叱責されるのかと身構えた。
「僕はさ、君が私利私欲でその薬を欲しがっているとは思えないんだ。どうしてそれが欲しいのか、正直に話してごらん」
「はい……」
隠し立てはできない。自分の中で後ろ暗いことにはしたくなかった。だから私は夫婦のことを、そして私の計画を話した。
「なんてことだ。おせっかいにも程がある」
「分かっています……」
「でも、それは明確に犯罪なのかって考えてしまうね。犯罪でなければ、君の倫理観に従って好きにすればいいことだ。これを盛られた人間が死んだら、未必の故意になるのかなァ?」
師はぶつぶつ独り言を言いながら考えている。そして私の目を見て言った。
「この薬は、命に関わる禁断の魔術のようなものだからね、今現在は」
彼はここで、普段はそう見せることのない、厳しい顔をして問うてきた。
「もしだよ? 君がその薬の使用法を誤ったことで、人ひとりの命の灯を消すことになったら、いったいどうするんだい?」
……人を救おうとして、人を殺してしまったら……?
プレゼントの中身をよく考える? プレゼントって、贈った相手が喜んでくれたらいいなって渡すものでしょ。
相手のことを考えているから渡すんじゃないの?
あれ。そういえば私、今まで「相手が何を欲しがっているか」を真剣に考えて選んだことあったっけ?
お父様にはタイとか万年筆とか、男性がよく使うもの、お母様やアンジェリカには香水やブローチ、またはハンカチーフ……だって、プレゼントってそういうものでしょう? 今までみんな喜んでくれていたわ。
でも私は「その人のこと」を考えたことがあったかしら。きれいでおしゃれな物、実用的な物、それを贈れば喜ばれると当たり前に信じていて、相手にとって今いちばん欲しいものは何だろうって、考えたことは……?
「……ん? エイリーク様は何が欲しいんだろう??」
全然分からないわ。
とりあえずこれに関しては再来月まで猶予がある。今はもうひとつの、エイリーク様の言っていた「考えて」を実行してみよう。
**
帰宅後もしばらく考えてみた。どれだけ考えたっていっしょだ。
真剣に、彼らのことを思えば思うほど、私の意見は「そんな大事なことを黙っておくべきではない」だ。
だって、私だってエイリーク様にそんなこと隠されてたら……。いや、エイリーク様じゃなくてっ、お父様! まぁお父様とは夫婦じゃないから、さすがに考えが変わってくるか……。
とはいえ、私がバラしていいものではない。まぁ、バラしてやりたいけど。それは私の口からではなくて。こういうのに第三者の口が混ざろうものなら、ろくなことにならないのは周知のとおり。
となれば、どうにか夫ケネスの口からちゃんと話すように誘導できないものか。そしてちゃんと夫婦ふたりで話し合いができる状況に持っていくには?
このように考え事しながら廊下を歩いていたら。
「お姉様!」
前方から掛かる声。
「あら、アンジェリカ。なんだか慌ててるわね、どうしたの?」
「慌ててはいませんけど、ジョイを見ませんでした?」
ジョイは私たちのいとこ、7歳のわんぱく少年だ。
「彼、うちに来てるの?」
「まったくイタズラばかりで困りますわ。廊下を駆け回ったり、壁に落書きしたり」
「毎度のことね。見つけたら報告するわ」
そして自室に戻ると、やはりお約束が待っている。
「ジョイ……。私のベッドでうつぶせて、いったい何なの?」
「死体ごっこ~~」
……はぁ。ぐっとくたびれるわ。子どもの相手は。
「死体ごっこじゃないわよ! あなたウチの壁に落書きしたんだってね!」
私はベッドの上の偽死体を投げ飛ばした。
「エレーゼもいっしょに死体ごっこするぞ!」
「それ何がおもしろいの?」
「人がダマされたらおもしろい」
「誰も騙されないでしょ!」
子どもにも逆らえない私は誘われるまま死体ごっこをしながら、ともかく考えることを続けていた。
彼が本当のことを打ち明けても構わないのは自分が死んだ後……。後になれば、貯めた銀貨が彼女の手に渡り、どちらにしろすべて知ることになるから。
そうだ、彼らは字を読み書きできるのだから、遺書を書かせればいいのでは? それを彼女に見せるの。でも、遺書は死んだ後にしか普通は公開しないもの。どうすれば……。
……あっ!
「死体ごっこ!!」
「こらっ、死体が動くな! しゃべるな!」
こういうのはどうかしら……死を装うの。彼にも、彼女にも。
「いいかエレーゼ、プロの死体とはだなぁ~~。あっ頭を押さえつけるな! チビを小ばかにするなっ!」
ひとつだけ、方法がある。たぶん、それは、禁断の魔法……。
私は4年前から薬師の元に弟子入りしている。
「看護に興味があるから」と頭を下げ指導を請うた。身元を明かさない、人生経験の浅い小娘を広い心で受け入れてくれた師には、とても感謝している。
ずっと彼のところに2日おきで通っていた。彼のふしぎな医術を見た。薬の調合法も教わった。人を看取ることもあった。私は彼に認められたくて、自宅に帰ってからも猛勉強した。
最近は週に1度しか通えてないが、その時は彼の助手としてまぁまぁ役に立てていると思う。
そして今、私は彼の薬倉庫に、コソ泥しに来ている。
「これね、禁断の薬……」
私は知っている。師は人を仮死状態にする薬を所持している。非常に扱いの難しい薬で、師ですらまだほんの数回しか使ったことのないものだという。
そんなものを手に入れて、私はどうするの? でも使用法は確かに習って、記帳してあるの。
「おや……」
そのとき唐突に倉庫の扉が開いた。私は心臓が飛び出そうな思いで、たちまちフリーズする。最近こんなことばかりだ。
「泥棒猫がいるね」
ばくばく鳴る胸の鼓動と共に、おもむろに後ろを振り返った。
「師……」
彼は温厚な顔立ちの、30代の男性だ。薬師としての腕は一級品。私は事前調査を経て、彼を師に選んだ。
年齢より若く見える、気さくな容姿で子どもの患者にも慕われる。苦い薬を飲ませるのにそういった雰囲気は役に立つ、そして、ここぞという時にきちんと厳しい態度で事に当たるところも、私は深く尊敬しているのだ。
「一度、君とはちゃんと話をしようと思っていたんだ。あっちへ行こうか」
「……はい」
気まずい雰囲気の中、私はまず誠心誠意謝ることにした。
「本当に申し訳ありませんでした! 窃盗なんて、なんの言い訳もできません!!」
頭を下げた私に、彼は深い溜め息を吐く。
「君との付き合いももう4年か、そういえば忙しさにかまけて、しっかり話し合う機会もなかったね」
私はここからどれほど厳しく叱責されるのかと身構えた。
「僕はさ、君が私利私欲でその薬を欲しがっているとは思えないんだ。どうしてそれが欲しいのか、正直に話してごらん」
「はい……」
隠し立てはできない。自分の中で後ろ暗いことにはしたくなかった。だから私は夫婦のことを、そして私の計画を話した。
「なんてことだ。おせっかいにも程がある」
「分かっています……」
「でも、それは明確に犯罪なのかって考えてしまうね。犯罪でなければ、君の倫理観に従って好きにすればいいことだ。これを盛られた人間が死んだら、未必の故意になるのかなァ?」
師はぶつぶつ独り言を言いながら考えている。そして私の目を見て言った。
「この薬は、命に関わる禁断の魔術のようなものだからね、今現在は」
彼はここで、普段はそう見せることのない、厳しい顔をして問うてきた。
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