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第三話 愛人!? どうぞご勝手に!!
⑩ 私が脱ぎます!
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今現在、帰りの馬車の中で抜け殻のようになっている私──……。
馬車に乗る手前で声を掛けてきたサラは、私を諫めるように話し始めた。
────「私はけっして、エイリーク様の愛人などではなく……」
「ま、まぁ、あなたの“心”は夫に一途で、薬のための銀貨を得るために……」
私だってそれなりに分かってるわ、女は愛を以って何でも成しえる生きものなんでしょ。
「銀貨が欲しかったのは確かですが、あの方の提示した仕事は、そういう関係になることではなくて……。私、裸婦モデルをするためにあちらのお屋敷を訪ねたのです!」
「ら、ふ……?」
「とある筋から紹介していただき、とても割りのいい仕事だと私は張り切ってお屋敷に伺いました。あの時は面接と言いますか……、やはり身体を一度目にしていただいて、納得のうえ採用していただかねばと……」
「え、ちょっと、待ってくれる? 裸婦モデルって、どういうこと……?」
「ああ、私が申していいことではないのでしょう。でもどうしても、このままあなた様に話さずにおくことができず……」
エイリーク様の……秘密?
「あの方は年に一度の、画家の登竜門であるコンテストにエントリーされているのです。今回その課題が“裸婦画”とのことで、モデルを必要とされていました」
「え……」
私はその場で脱力した。へなへな~と腰を抜かしてしまった。
「ね、ねぇ。それって、私、聞いてもいいことだったかしら……」
なんて言ってはみたものの、ものすごくホっとしている自分が。なんなの、このすさまじい解放感は。
「いけないことだと分かっています。だってエイリーク様に口止めされていましたもの。でもエレーゼ様はこんな私に、とても親身になってくださいました。だから、あなた様のお心を強張らせる原因となるわけにいきません」
「べ、べつに強張ってなんか」
「いいえ。だってエレーゼ様、ずっと私を見張っていらっしゃいましたよね!?」
バレてる!!
「それは、家の主人として、新人メイドは監視してないとっ……」
監視どころか尾行もしました……。
「私のことを、お調べになったのでは?」
それもバレてる──!
「なんでそんなこと言い切れるのっ……?」
なんでこんな尋問されている犯人のごとく分かりやすい態度をとってしまうのか、私。
「あなた様はおっしゃいました。ノエラ家の奥様が、私の家族のことや働く理由をあなた様に伝えたと」
「え、ええ……」
「ですが私は、自身について何も、奥様にお話したことないのです。あのお方は私のことなんて何もご存じありません」
「え、でも。紹介状まで書いて、あなたを私の元に寄越したのに……」
「それは、あなた様に誤解されて、慌てて追いかけて行こうとした私を見かねたあのお方が……」
────「ええ、ええ。いいのよ、何も話さなくて! 私に任せてちょうだい、悪いようにはしないから!! 大丈夫。エレーゼ、きっとあなたを雇ってくれるわ! 今紹介状書いてあげるから、待ってなさいね!」────
「って、このうえない笑顔で……」
言いそう! あの人それ、ものすごく言ってそう!!
「だからそれはエレーゼ様の嘘です。そして、どうしてそこまで私のことを気にされてるのかと考えたら……」────
私はそれ以上何も彼女に反論できなかったけれど、そんな話が聞けて良かったのは確か。
しかし私、彼のエントリーしたコンテスト出品の邪魔をしてしまったようだ。
***
その次の、ノエラ家訪問の日。私はいつもより早く家を出て、早めに到着したらまずシャルロッテ様に挨拶をし、しばらくエイリーク様と話をすると伝え了承してもらった。
このあいだ彼がサラといた部屋の前に立ち、深呼吸する。そして意を決し、その扉を思い切り開けた。
「! エレーゼ!?」
ノックもしない私の無礼なふるまいに彼はたじろいだ。キャンバスを片付けているところのよう。
「エイリーク様!」
「ずいぶん早いじゃないか。もう来てるなんて、いったいどうしたんだ?」
描いた絵を隠そうとしているのだろうが、大きくて隠せていない。
「私が裸婦モデルをします! まだ間に合いますよね!?」
「えっ? ……なんのことかな」
「もう隠さないで。申し訳ありませんが私、サラから聞いてしまいましたの! あなたが絵画コンテストに応募しようとしていること。それを私が邪魔してしまったこと……」
「ああ。バレてしまったか……」
彼は苦笑いを浮かべる。
「あっ、サラを責めないでくださいね。私が無理に聞き出したのです。元主人ですから彼女は従うしかなく。とにかく、私の裸でモデルが務まるのか、まず確認してください!」
「……ふぅん」
秘密を露呈されたからか、彼は少し不機嫌な顔になった。
ん…? どちらかというと、意地悪な顔? 今まであまり見たことのない……。
「じゃあ、見せて?」
そう言う彼の顔はやっぱり少し、悪魔的。
「……はい」
そのつもりで来たのだし、このために3日前から軽くダイエットしてきたし、さらにアンジェリカのお肌すべすべクリーム塗ってきたし……これぐらい全然平気。
……のはずが。
おもむろに、彼に背を向けた私は、ドレスを脱ぎかけたのだが。
「……ああっ、背中の紐が……」
手が震えてうまくできないっ……。
「手伝おうか?」
「えっと、この紐だけ……」
そちらの方を見ないでお願いした。
二歩、踏みこんできた足音がうっすら聞こえて。
彼はするりと、私の背中の蝶結びを解いた。
馬車に乗る手前で声を掛けてきたサラは、私を諫めるように話し始めた。
────「私はけっして、エイリーク様の愛人などではなく……」
「ま、まぁ、あなたの“心”は夫に一途で、薬のための銀貨を得るために……」
私だってそれなりに分かってるわ、女は愛を以って何でも成しえる生きものなんでしょ。
「銀貨が欲しかったのは確かですが、あの方の提示した仕事は、そういう関係になることではなくて……。私、裸婦モデルをするためにあちらのお屋敷を訪ねたのです!」
「ら、ふ……?」
「とある筋から紹介していただき、とても割りのいい仕事だと私は張り切ってお屋敷に伺いました。あの時は面接と言いますか……、やはり身体を一度目にしていただいて、納得のうえ採用していただかねばと……」
「え、ちょっと、待ってくれる? 裸婦モデルって、どういうこと……?」
「ああ、私が申していいことではないのでしょう。でもどうしても、このままあなた様に話さずにおくことができず……」
エイリーク様の……秘密?
「あの方は年に一度の、画家の登竜門であるコンテストにエントリーされているのです。今回その課題が“裸婦画”とのことで、モデルを必要とされていました」
「え……」
私はその場で脱力した。へなへな~と腰を抜かしてしまった。
「ね、ねぇ。それって、私、聞いてもいいことだったかしら……」
なんて言ってはみたものの、ものすごくホっとしている自分が。なんなの、このすさまじい解放感は。
「いけないことだと分かっています。だってエイリーク様に口止めされていましたもの。でもエレーゼ様はこんな私に、とても親身になってくださいました。だから、あなた様のお心を強張らせる原因となるわけにいきません」
「べ、べつに強張ってなんか」
「いいえ。だってエレーゼ様、ずっと私を見張っていらっしゃいましたよね!?」
バレてる!!
「それは、家の主人として、新人メイドは監視してないとっ……」
監視どころか尾行もしました……。
「私のことを、お調べになったのでは?」
それもバレてる──!
「なんでそんなこと言い切れるのっ……?」
なんでこんな尋問されている犯人のごとく分かりやすい態度をとってしまうのか、私。
「あなた様はおっしゃいました。ノエラ家の奥様が、私の家族のことや働く理由をあなた様に伝えたと」
「え、ええ……」
「ですが私は、自身について何も、奥様にお話したことないのです。あのお方は私のことなんて何もご存じありません」
「え、でも。紹介状まで書いて、あなたを私の元に寄越したのに……」
「それは、あなた様に誤解されて、慌てて追いかけて行こうとした私を見かねたあのお方が……」
────「ええ、ええ。いいのよ、何も話さなくて! 私に任せてちょうだい、悪いようにはしないから!! 大丈夫。エレーゼ、きっとあなたを雇ってくれるわ! 今紹介状書いてあげるから、待ってなさいね!」────
「って、このうえない笑顔で……」
言いそう! あの人それ、ものすごく言ってそう!!
「だからそれはエレーゼ様の嘘です。そして、どうしてそこまで私のことを気にされてるのかと考えたら……」────
私はそれ以上何も彼女に反論できなかったけれど、そんな話が聞けて良かったのは確か。
しかし私、彼のエントリーしたコンテスト出品の邪魔をしてしまったようだ。
***
その次の、ノエラ家訪問の日。私はいつもより早く家を出て、早めに到着したらまずシャルロッテ様に挨拶をし、しばらくエイリーク様と話をすると伝え了承してもらった。
このあいだ彼がサラといた部屋の前に立ち、深呼吸する。そして意を決し、その扉を思い切り開けた。
「! エレーゼ!?」
ノックもしない私の無礼なふるまいに彼はたじろいだ。キャンバスを片付けているところのよう。
「エイリーク様!」
「ずいぶん早いじゃないか。もう来てるなんて、いったいどうしたんだ?」
描いた絵を隠そうとしているのだろうが、大きくて隠せていない。
「私が裸婦モデルをします! まだ間に合いますよね!?」
「えっ? ……なんのことかな」
「もう隠さないで。申し訳ありませんが私、サラから聞いてしまいましたの! あなたが絵画コンテストに応募しようとしていること。それを私が邪魔してしまったこと……」
「ああ。バレてしまったか……」
彼は苦笑いを浮かべる。
「あっ、サラを責めないでくださいね。私が無理に聞き出したのです。元主人ですから彼女は従うしかなく。とにかく、私の裸でモデルが務まるのか、まず確認してください!」
「……ふぅん」
秘密を露呈されたからか、彼は少し不機嫌な顔になった。
ん…? どちらかというと、意地悪な顔? 今まであまり見たことのない……。
「じゃあ、見せて?」
そう言う彼の顔はやっぱり少し、悪魔的。
「……はい」
そのつもりで来たのだし、このために3日前から軽くダイエットしてきたし、さらにアンジェリカのお肌すべすべクリーム塗ってきたし……これぐらい全然平気。
……のはずが。
おもむろに、彼に背を向けた私は、ドレスを脱ぎかけたのだが。
「……ああっ、背中の紐が……」
手が震えてうまくできないっ……。
「手伝おうか?」
「えっと、この紐だけ……」
そちらの方を見ないでお願いした。
二歩、踏みこんできた足音がうっすら聞こえて。
彼はするりと、私の背中の蝶結びを解いた。
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